
あらすじ
「お母さんは、私の幸せなんて望んでいない」 父を亡くし、編入した華族女学校の卒業式した海棠妃奈子は、 見合いを逃れる術(すべ)を探していた。 無能な娘は母の勧める良縁──子供までいる三十も年上の中年男に嫁ぐしかないという。 絶望した妃奈子は大叔母の 「女官になってみたらどうや」という言葉に救われ、 宮中女官採用試験を受ける。 晴れて母から離れ、宮殿勤めの日々がはじまる。
結婚以外で生きる道を得る物語
この時代、まだ女性は結婚する以外の道などほとんど無かった頃に、30も上の相手に嫁ぐのなど嫌だと思っていたところ大叔母から女官への仕事を斡旋されて試験を受ける主人公の物語。タイトルからは恋愛強めに見えるが、実際読んでみると恋愛よりももろにお仕事小説だった。
他の小田菜摘作品を読んでても思うのだけれども、革命は恋の始まりシリーズや莉国後宮女医伝シリーズでも、男女の差や男尊女卑を女性主人公視点で描いていく物語が多い気がしてきた。そこを女性同士の連帯や主人公の強さで押しのけていく。
今回は女性同士の連帯のほう。
古い価値観を持っていて女性は働くものなどではないし自己主張するものではないと思っていた母から離れ働いてみたところ、今までずっと気鬱だった日本という地でも案外やっていける気がすることを知る妃奈子にひたすら良かったねと思ってしまった。そうなんだよな、仕事でもなんでも、嫌なのは仕事内容じゃなくて人間関係だったりする。それに妃奈子が気付けて脱出できたのは本当に良かった。
元々は逃げるためだった女官という仕事によって、母の呪縛から解放されていくの本当に良かった。
そして宮中の人たちも、嫌な人がいたり面倒な人がいたりもしつつ、話してみれば味方になってくれる人や自分と同じ考えの人がいることに気付ける。そういったことを通して、学生時代にあまり周囲と馴染めないからと人と関わること自体を避けていた自分を後悔する、という流れがめっちゃ良かった。そういう自らの行動を省みる主人公ってやっぱり良い。
このあたりの周囲と話したりしてなかったのは、それこそ母からの抑圧があったからなんだろうな。宮中に入ってからの明るさや真っ直ぐさを見るとなおそう思う。
月草さんたちが妃奈子を採用した理由が結構好き。
これからの世を担う帝には、新しい思想や文化や風習を取り入れて貰う必要がある。そのために妃奈子を入れたが、しかし宮中で働いている女官たちは別に今まで通りの古きゆかしき方法や思想でも全然良い。人は変わるのは面倒だから変わりたがらない。
ある意味、人は人であり自分は自分のその考え方こそ、妃奈子の母には無かったものだよな。
母の毒から逃れるために
物語のラスト的に、毒母からの脱出物語ではあった。母親は妃奈子が不幸であることを望んでいるような人間だったし。
でも母親が妃奈子をエキセントリックだなんだと悪くいうのは妃奈子が当時の女性らしくない行動をする子だからで、要するにこの時代の女性らしくない女性だった。女性こうあるべしと言われていたものに相反する行動をする人だったから。
そういう意味ではやっぱりこの話って女性の型からの脱却の話だし、他の小田菜摘作品にも通じるところがあるよな。
とはいえ普通に妹には30年上の人は斡旋しないといってしまうあたり、もう明確に妃奈子を不幸せにするために動いておりましたが……。このあたり、明確に悪役アイコンしててちょっとめずらしいなとも感じた。
それにしても大叔母様の母親操縦がうまい。家の格式や名前を重んじて鼻にかける人だからと宮中のお仕事を斡旋すれば頷くだろうと狙い、妃奈子にはあくまで大叔母様の顔を立てているように見せかけろと指示をする。似たような人だったという大叔母様の母親の操縦で相当慣れたし相当疲弊したんだろうな。
更には大叔母様という女性で身を立てている人の前では母が「嫁ぎ遅れなんて」と言いづらいのもわかってやっている。この人がいなかったら妃奈子は抑圧されたままどこにも行けず、いつか死んでたかもしれない。妃奈子にこういう味方がいて良かった。
ところで、莉国後宮女医伝シリーズにおける夕宵がこのシリーズにおける高辻にあたるのか。女性の社会進出を悪く思わず、むしろ協力しようとしてくれる味方側の男性。
なんかはめちゃめちゃ強い騎士様いません……?
ところで妃奈子の上司である月草さん、こう……涼宮様に対して大変とても強火担で笑ってしまった。もうこいつ、ノリやテンションが騎士である。本当に学生時代に同級生だっただけなんですか? と訊きたくなるぐらいのスタイルが騎士っぷりである。
「だから観菊会のための衣装なら、去年のものでよいと言っているだろう」
「なりません」
ぴしゃりと月草は言った。
「観菊会は諸外国からの使節をお招きする、大切な国際交流の場。皇后宮ご不在の現状では、宮様は我が国を代表するもっとも尊き女性でございます。万が一にでも見劣りするようなことがあってはなりません。もちろん宮様の美貌は国内外を問わず、どの来賓も足元に及ばぬ優れたもおんでおgざいますから、なにをお召しであろうとも見劣りすることなどあろうはずがございませぬ。ですからこそ完璧な尋問服をお召しいただいた姿を来客方に示して、我が国の誉れとしていただきたいのです。そのためならば私共は微塵たりとも尽力を惜しみませぬ。宮様の素材の良さだけに甘えて手を抜いているなどと来賓方から思われたら、女官として恥ずかしいかぎりでございます」
「……祥子、いまは私のほうがだいぶ恥ずかしいぞ」
すげえ速度で褒めの言葉を垂れ流す人、面白すぎる。しかも月草さんが妃奈子を採ると決めた理由の一端が涼宮さまの思想を叶えるためだし、涼宮様の醜聞を消すために妃奈子を使うのは厭わないし(そして妃奈子にもほぼダメージがないとわかってやっているのがまたうまい)、この人完全に宮様のために動いてやがる。なんだこの忠誠心は。メンタルがあまりに騎士すぎる。
こういうの見てるとクオリディア・コードの神奈川のアニメ版のほうを若干思い出してしまう。強火担……。特に橘公司以外の書いたヒメとほたるを……。なんだろうなこの感じ。