1892 文字
9 分
「朽ちないサクラ (徳間文庫)柚月裕子」素人探偵じみた前半とベテラン刑事の後半の差が面白い
朽ちないサクラ (徳間文庫)柚月裕子

朽ちないサクラ (徳間文庫)柚月裕子

Amazon BookWalker

あらすじ#

米崎県警平井中央署生活安全課が被害届の受理を引き延ばし、慰安旅行に出かけた末に、ストーカー殺人を未然に防げなかったと、新聞にスクープされた。県警広報広聴課で働いて4年、森口泉は、嫌な予感が頭から離れない。親友の新聞記者、千佳が漏らしたのか?「お願い、信じて」そして、千佳は殺された。大藪春彦賞作家、異色の警察小説。

感想#

面白かった。不祥事が大々的にすっぱ抜かれた警察、ひょんなことから不祥事が判明する切っ掛けになりえる情報を記者の親友に口走ってしまった主人公。その時は口止めしたけれど、もしかして親友がそれを記事にした? と疑心暗鬼して親友本人に糾弾する。
しかしその親友が殺されてしまい、親友は約束を守って記事にしていないのではないか? じゃあ記事にしたのは誰が? なにより、誰が親友を殺したのか? と、真相を求めて警察広報員という警察のなかでも事務でしか無い立場ながら捜査を始める主人公・泉の物語。

素人捜査と親友の強み#

泉に情報漏洩してしまった相手であり、泉に恋心的なものを持っている生活安全課の警察官・磯川に状況を話し協力してもらい、泉は徐々に、親友・千佳の足取りを追いかけていく。

この足取りの追いかけ方が親友だからこそ出来るものなのが物語として面白かった。親友だからこそ、千佳が泳ぎが得意であり、川で溺れ死ぬなどそうそうありえないとわかっている。親友だからこそ、千佳のある程度の交友関係を知っていて、千佳が最後に訪れた場所に千佳の知り合いはいないと言える。親友だからこそ、千佳の家に行き母親に話を聞くときだって、親友という立場から警戒されずに話を聞ける。
そして、泉にともに捜査を頼まれた磯川も、千佳が最後に向かった土地に縁のある人はいないか? また、そもそも不祥事の情報漏洩を起こしたのは誰だ? と探っていく。

泉の捜査方法は、そもそも彼女が警察に勤めているとはいえ警察官ではない立場なので、聞き込みのやり方も下手くそだし詰めが甘い。対して協力者たる磯川は、警察官だけあってこなれた様子で店員から話を聞き出していくところが違いを感じさせられた。刑事さん格好いい……。

ベテラン刑事の貫禄#

という泉の素人捜査と磯川の警察官としての捜査のターンは主に前半。
後半は、二人の得た情報をもとに、事件を捜査している捜査一課長である梶山と、広報課課長であり元公安の富樫がメインで捜査を始める。

主に梶山が捜査をするんだが、同じ警察官である磯川よりも更に手練に長けた方法で捜査し犯人を探していくのがめちゃくちゃ格好良かった。更に、後半のターンになってから徐々に事件がきな臭くなっていき、おそらくはオウム真理教をモデルにしていそうな新興宗教団体や公安も出てきて、どんどんベテラン刑事が主人公の刑事小説の趣になっていく。
前半の情報がないと事件が進まないのは確かなんだけど、大人と子供の違いみたいなものを感じた。
梶山が追いかけ、富樫がサポートし、犯人をようやく突き止めた。しかし被疑者は交通事故で死亡、というラストはかなりあっけなく感じられた。

……と思いきや泉が主人公に再度戻り、真の黒幕である富樫と公安を名指しする展開は格好良かった。

元々不祥事事件(ストーカーにより女性が殺されたが、警察が被害届の受理を伸ばし伸ばしにしていた)の元凶は、ストーカーが公安のスパイだったため逮捕されたら困る公安側が、被害届を受理する警察官に圧力をかけたため。千佳が殺されたのは、公安のスパイについて気付いてしまったから。百万人の安全のために一人の命を犠牲にする公安による行動だった。

そして元公安である富樫もそれに一枚噛んでいたというラストは納得感があった。また、親友の無念を晴らしたい泉だからこそ、目の前に現れ逮捕前に死んだ被疑者に惑わされず、事件の真相を追い求められたんだな。

磯川くんが良い人すぎる#

ところで、磯川くんがめっちゃ良いやつで読んでてめちゃくちゃ好感が持てた。

泉が千佳に情報ばらしちゃったのもかなり悪いのに、『自分が泉に話してしまったせいで情報が漏れたのではないか、元々は自分が泉に話してしまったのが悪いので、泉が気に病んでいないだろうか』と心配してくれるの、良い人すぎないか……?

物語的には泉視点だけではポジション的に得られる情報が少ないので協力者が必要なのはわかるものの、だとしてもこんな状況で協力してくれる磯川くんマジで善人すぎんか!? てっきりすべてが下心をもとにした行動かと思いきやその下心もなく、なんなんだ……聖人なのか……?

私は刑事物を読んでる時に適時『また事件関係者が過去の女で焼けぼっくいに火が付いてヤりやがって』『また結婚していないが慕っている10以上年下の顔が良い女が発生しやがって』とキレることあるあるなので、そのどれでもないのにめちゃくちゃ驚いてしまったかも知れない。泉と磯川だと磯川のが年下だし、別に磯川と千佳の母親が昔の知り合いで突然ロマンスが発生したりもしない……お前聖人すぎないか……?


これが面白かったので、同じ作者さんの別作品も読んでみたい。