声優ラジオのウラオモテ #01 夕陽とやすみは隠しきれない? (電撃文庫) 二月 公

★★★★★,電撃文庫お仕事,ケンカップル,家族,新人賞,百合

あらすじ


ギャル&地味子の放課後は、超清純派のアイドル声優!?





第26回電撃小説大賞選考会において、選考委員満場一致で2年ぶりの《大賞》を受賞!
電撃文庫が今とどけたい、青春声優エンタテインメント!





「夕陽と~」「やすみの! せーのっ!」 「「コーコーセーラジオ~!」」
偶然にも同じ高校に通う仲良し声優コンビが教室の空気をそのままお届けしちゃう、ほんわかラジオ番組がスタート!
でもパーソナリティふたりの素顔は、アイドル声優とは真逆も真逆、相性最悪なギャル×根暗地味子で!?
「……何その眩しさ。本当びっくりするぐらい普段とキャラ違うな『夕暮夕陽』、いつもの根暗はどうしたよ?」
「……あなたこそ、その頭わるそうな見た目で『歌種やすみ』の可愛い声を出すのはやめてほしいわ」
オモテは仲良し、ウラでは修羅場、収録が終われば罵倒の嵐!こんなやつとコンビなんて絶対無理、でもオンエアは待ってくれない…!
プロ根性で世界をダマせ! バレたら終わりの青春声優エンタテインメント、NOW ON AIR!!


素では常時口喧嘩、ラジオでは仲良し営業な女子高生声優ラジオ

「あーあ。あたしだって、『指先を見つめて』とか好きだったんだけどなー。こんな性悪な奴があんな清純ヒロインやるなんて、色んなことに幻滅しそう」
「その理屈なら、あなたこそ清純ヒロインなんて絶対出来ないわね。知性のないお猿さんだけ演じてれば? 普段から役作りしてるじゃない」
「そういう渡辺は、教室の隅で黙り込む根暗女を演じるわけ? セリフなくて楽でいいね。オーディションいらずなんじゃない? ていうか、あんた後輩でしょ。あたし芸歴三年目、あんた二年目。先輩に対する口の利き方を教えてあげようか?」

素ではそんな言い合いをする二人が、ラジオ番組の最中だと

「おー。ユウちゃん、最近はすっかりその挨拶も慣れて来たね!」
「そんなことないよぅ。毎回噛み噛みだよ~。やっちゃんは? このラジオ、もう慣れた~?」
「そうだよねぇ。クラスメイトとラジオやってるって、変な感じだよねぇ~」
「お仕事スイッチが入らないよね!」

なんて仲良しやりとり。
しかも二人は素では名字呼びしかしないような関係なのに、ラジオでは下の名前(芸名)であだ名で超仲良し。
こんな関係、嫌いな人間いるわけない。最高。最高オブ最高。ビジネス不仲も好きだけど、仲良し営業も最高に決まってる。

学校じゃろくに会話もしない距離感、ラジオ収録前も口喧嘩(ある程度信頼してるからの口喧嘩でもあるけれど)しまくりの二人がなんらかの理由で仲良しごっこをするというシチュエーションに刺さる人は絶対に刺さるやつだった。めっちゃいいね。最高だね。
そんな二人が徐々に距離感を詰めていくというこの素晴らしさ! 最高! 尊い!

公開収録、ライブでのアクシデント、厄介オタクなど、様々なアクシデントに対して、絶対に仲が良いとは言えないけれどもそれでも良い距離感で二人三脚していく二人がすごく良かった。こういう同性間の関係性、強いなあ。
何より熱いのは、互いに声優としての相手のことは嫌いじゃないどころかかなり好きなんだよね。あらすじ部分にも書かれてるけど、声優としての相手が大好きだからこそ、リアルの相手との言い合いでイラッとする(し、多分きっと、ちょっと楽しい)部分もあるっていうか。そういうとこがもーーーーほんとにかわいい!!!

「謝るのはあたしも同じだよ。力不足だった。もちろん、渡辺の力も足りなかったけど」

このセリフがすごく好き。一方的に謝られても、自分が悪かったといえる。でも相手も悪かったって言うのがすごく好きで。
例えばこれが一方的に「違う、悪いのはあたしだ」って言われたら、相手は「違う、私」って繰り返すじゃん。でもライブに出たのがふたりともで、そしてふたりとも自分のちからが不足しているのだと思っているのがわかるからこそ「もちろん、~」のセリフがあってよかったなって思えた。なんていうんだろ、そのセリフ超良いねとしか言えん。

学校でのシーンの配分も良くて、お仕事のシーンやラジオのシーンもたくさんあるんだけど、学校のシーンがあることで素の二人があまり合わないだろう雰囲気などが見れて楽しかった。
学校関連で好きなのは木村くん。GJ。今後木村が二人にもっと関わる続編が読みたい。とても読みたい。

個人的に好きなシーンは一緒にお風呂。
百合営業でも引かれるわ!という主人公の反応が最高にウケてしまった。確かに。

同世代への嫉妬

主人公はまだぱっとしない声優。代表作といえば新人女性声優がごった煮で出てきたようなアニメぐらいで、他に有名なレギュラーアニメは無し。
対してあらすじでは地味子扱いされる彼女はすでにメインヒロインや深夜アニメの主人公もこなし、アニメ雑誌の付録に下敷きがついてくるぐらいの有名声優。
普段会話している分にはそうでもないんだけど、ふとした瞬間に嫉妬や羨ましさが溢れ出てくるのが読んでてものすごくわかるやつ。

そりゃ一緒に仕事をしたから相手のほうが声優としてうまいのがわかる。感情を爆発させた演技に思わず聞き入ってしまうほどに彼女は声優としてうまい。
でも、自分だって同い年の女子高生声優だ。なんで彼女は仕事が決まるのに自分は……と思ってしまう感情が痛いぐらいにわかった。しんどいんだよな、同世代への嫉妬。部活モノなんかでもあるあるなんだけど、なんで相手のほうが、と思ってしまう瞬間。自分だって仕事頑張ってるし声優としてもやれているはず、事前に自主練だってしてるのに、って思ってしまうのわかるよ。
だから主人公がそのあたりの感情爆発させてしまうのも理解できたし、読んでてすごくしんどかった。

終盤に主人公が心無い言葉をぶつけてしまってから後悔して泣くシーンがある。あのあたりで、わーこの子等身大の女の子なんだなと改めて思わされた。

声優さんや声優ラジオは全然聞かないアニメ見ないタイプなんだけど、女子同士のスポ根ものとか部活動モノとかの流れで読めて面白かった。具体的に言えばアイドライジング的な。あれも一種のアイドルもの……アイドル……? バトル×アイドルものだった。あれもあれで熱くて良かったね。

百合というには女子同士の感情がそこまでヤバくなくて(私の百合の基準はアイドライジング)、どちらかといえば強い友情だとか同士意識のほうが強いんだけど、とりあえず百合タグをつけておく。いやほんと面白かった……。

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