
あらすじ
不本意ながら、帝の腹心の部下となってしまった内裏女房の大江荇子。東宮の立坊を機に返り咲きをもくろむ南院家にはすり寄られ、帝の寵愛を荇子が左右しているという噂を聞きつけた北院家からは袖の下を送られ、日常業務もままならない。そんな中、南院家の流れをくむ二の宮が身罷り、荇子が法要の手伝いをすることに。だが法要直後に二の宮の母・九条女御が急逝。さらに予想だにしない事実と事件が待ち構えていて? 渦中のど真ん中に据えられた荇子は、すべての火の粉を払うことができるのか!? 働く平安女官のお仕事事件簿、第5弾!
感想
政治って……面倒くせえなあ……!!
周囲からは帝の腹心と認識されてしまったため、あちらからは擦り寄られ、こちらからは帝との間を取り持つことを頼まれ……と面倒くさい政治に巻き込まれていくようになった荇子の巻。
前前の巻で麗景殿女御についてフォローした結果、麗景殿女御と帝がおそらく雑な友人同士ノリでそれなりに意気投合し、結果的に帝が麗景殿女御の下へと行く回数が増えたというのが周囲にとっても結構でっかいイベントだったんだろうなあ。
男性陣の場合はそもそも「帝の覚えが良い女房」という視点もあるだろうが、それでも蔑ろ気味だった麗景殿女御のところに帝が通うようになった影響は絶対にある。
いや、違うんです、ごくごく単純に子とかよくわからない女御と最愛の妃以外に恋愛感情持てなさそうな帝が友人としていい感じなだけです……! とは、荇子としても言えないだろうし。
なんならマジで恋愛感情なさすぎるせいで、麗景殿女御から「弘徽殿女御のところ行ったほうが帝も助かるからもっと行け」なんて言い出してるし。恋愛感情が皆無である。すごい。
なにより、征礼とともに帝を支えていくと決めた荇子にそんなものが言えるわけがない。
なんなら荇子も徐々に懐に入れ始めている帝に、荇子自身少しずつほっとけないなあと思ってる最中だし。
しかし、結果的に弘徽殿女御から面倒くさい感じに目をつけられて、間を取り持って! と頼まれることになったのはご愁傷さまです。
直嗣と同じく、周囲が自分の良きように動いて当然、そうではないわけがないと思いこんでいる弘徽殿女御。そして弘徽殿女御が言えばなんでも叶えられると思いこんでいる女房たち。
人間ってそんな生き物じゃない、無駄に裏を考えるな、言ってることはそのまま受け取っていい(受け取って良くないこともたくさんある)、傲慢になるな、世界の人はお前達の言うことを叶えるために動いているわけじゃない。
そんな状況もわからず、荇子らが女御の意に従うと思い込み、従わないと手を出すしょうもなさは最悪だった。人としてどうなのか。でもずっとそういう人として描かれてきたからなあ……。
直嗣の成長
そんな弘徽殿女御と大変近い選民意識を持ち、なんで帝は自分を重用してくれないんだ? ぐらいのことを自然と思ってそうな傲慢イケメン男の直嗣が変化したのが、今回の巻でかなり驚いた。
真っ直ぐさと無邪気さと潔癖にも近い正義感は良いけれども、上の世代がやった東宮時代の今上への扱いは自分のせいではないので自分には関係なくないですか? (キョトン)と思っている直嗣。
征礼と帝からしたらたまったもんじゃないし、現状帝が征礼を寵臣とし直嗣らを信用してないのはそこが原因なのに、家の威光は当然のように受け入れながらも嫌な記憶は一切受け継ごうとしていない。
この自分が愛され重用されて当然だと思っている部分、うまくいえないけど腹立たしいな。作者によっては愛されキャラになりそうなところ、この作者だと絶妙に腹立たしい人間として描いてくるのがうまい。
そんな直嗣が、南院の男に斬りかかられたことにより、少しずつ自分の思考を変化させられたのはかなり驚きだった。こいつはずっとこのノンデリヤバ男のままで進むと思っていた。
「私はなにもしていないのに……すべて父と祖父がやったことだ。二人ともとっくに亡くなったのに、主上はなぜ南院家をここまで追い詰めようとなさるのか」
(中略」
「この偽善者がっ! なにも加担していないかのようにふるまいやがって。きさまら北院家とて、父に追従していたではないか。あの当時、室町参議以外に今上に良くした者がいたのか? 傍観者など、虐げられた側からすれば敵と同じだ。それを」
この発言に
「それは父や祖父がしたことであって、私は今上に無礼は働いていない」
これを返せる男だぞ。どう考えてもヤバ男だろうが。ノンデリ無能、顔だけヤバ男だろうが。
それが切りつけられ休んでまともに考える時間でも得たのか、かなりまともになって戻ってきたの、本当に驚いた。絶対にそんなことにならなそうな人間NO.1だったので。
そこのところを理解したら、もしかしたら今後、今上に少しずつ使われる日が来る……のかなあ……。
地味な話なんですけど、冒頭に関係図が発生したのマジでありがたかった。人間関係がだんだんわからなくなってきたところなので助かった。