「庭に穴ができた。ダンジョンかもしれないけど俺はゴミ捨て場にしてる 1」淡々と進むブラック不気味クリーンビジネス小説 要素が多すぎる
あらすじ
ある日、家の庭に穴があいていた。ゴミ穴にちょうどいいので、ゴミを捨てた。家庭ゴミを捨てた。事業ゴミを捨てた。建設ゴミを捨てた。まだまだ穴は埋まらない……
ホラーというか、ひたすら淡々と不気味な話なのにめちゃくちゃおもしろかった。
庭に穴が突然発生し、それにゴミをひたすら捨て続けるお仕事小説というか経済小説というか、なんでそのネタで経済小説や会社経営小説になるんだ? とおもいきや、作者が過去に書籍化してたのが異世界経営コンサルタント本なのでそういう路線に強い人なのかもしれない。
淡々と進んでいく不気味さは最高だし、主人公視点だと田舎の変わった経営者の話なのにそれ以外の視点になるとパニック小説やホラー小説の趣になるのがめちゃくちゃすぎてぐいぐい読んでしまったんだけど、悲しいのは書籍の続刊なしかつウェブも未完なことかな……つらいな……悲しいな……。
話としてもうとにかく不気味。ホラーっていうより不気味。いやホラー小説事態もそんなたくさん読んだことあるわけじゃないけど、怖がらせたりとか退治とかそういう方面じゃないんだよね。
突然現れた穴が不気味なのって、それにまつわる出来事が一切理解できないからだ。
庭に穴が出来たリサイクル業者であるヒロキの体が謎に強化されていること、穴にゴミを入れ続けなければならないという謎の強迫観念、穴から出てくるおぞましいもの、そもそも穴はどこへ繋がっているのか。
穴から出てくる化け物は人が変化したものっぽいし、誘拐犯の状態を見る限り穴の表面ラインから入ったらそれに変化するのかな。と考えると石田……お前かなりギリギリだったな……もしかしたら化け物になるかもしれなかったな……。
終盤でヒロキ以外視点が増えてくるに従って、物語はパニック小説になっていく。襲っても全然びくともしないヒロキも、突然発生した謎の病気も、船で化け物状態になって暴れ出した人も。
描写的に肌ないしは服などに掴まれた痕跡が残るとアウトっぽい→液体かなにかが体に付着するとマーキングないしは汚染される?のかな?と思ったんだけどどうなんだろう。
そんでもって穴を掘り続けるシーン的に付着した人たちが穴掘りマンになる? それとも船の人や帽子の人みたく人間を襲うようになる? 船の人たちが漂着して穴掘りマンの島にたどり着いたと想像したんだけどどうなんだろう。
船と帽子の二人は直接穴に触れてるので、穴に触れたら人間を襲う化け物になる、化け物の体液か指などの痕跡が残ったら穴掘りマンになる……? わかんねえ。
これ、ヒロキが穴を利用しているのではなく、穴のほうがヒロキを利用して餌を手に入れていたりするのかな。
経営部分がめちゃくちゃおもしろい。
リサイクル業から産廃受け入れ業に方向転換したヒロキが声をかけたのは大学の人の石田。その石田は金が大好き、ヒロキを利用してベンチャーにしていい感じに産廃業として盛り上げていこうとする。しかしヒロキはその企みを見破っていて、石田を脅し手駒にした上で、産廃業者を動かしていくのだった。
と書けば割と普通かなとも思うんだけど、なんでも捨てられる穴が環境的にもかなり価値が高いものとし、グリーン税制などの廃棄物処理に関する法律的にも大変ありがたいものであり、技術(と周囲に思われている)を手に入れたらめっっっっっちゃ助かるやつじゃん!?と周囲から狙われるという描写がめっちゃおもしろいんだよな。確かに言われてみれば医療廃棄物でも放射性物質でもなんでも投げても問題ない穴なんて最高の環境安全ホールじゃん。その利用法は思いつかなかった。クリーンビジネスに関する小説としてめちゃくちゃ面白くなっちゃってる。どういう業種がクリーンビジネスに興味を持っているか、傘下に入れたがっているかなども描かれる。どういう話だよ。
そこから、更にこういう会社をやってるとどかっと税が来ますよ、うまくいくと株を買い付けたいという人たちも来ますよ、会社ごと買おうとする人も来ますよと、経済小説みたいなノリで経営部分も話が進んでいく。
わたしがあまりそういう経済小説読まないので、慣れてる人からしたら経済小説(笑)なのかもしれないけど、普段読まない人間としてはかなり面白かった。
主人公のヒロキがそういうのにろくに興味がないので元詐欺ろうとした人兼現在共同経営者の石田がばーっとそういうの言いつづけてヒロキがへーってなってるだけなのが面白すぎる。石田、頑張ってるな……お前……。
まともな人間はろくに出てこないし、あと表紙にいる女の出番はマジで数秒なのでウケる。表紙は女がいないといけないノルマでも発生してたのかな。表紙、ヒロキと石田で良いんじゃないのかな。
でもこの話でヒロイン枠で人間が出てきたとしてもろくな扱いじゃないしろくな性格じゃない気がする。
この話の不気味部分ってヒロキが一端を担ってて、こいつがすごいおかしい。
経営者としてはすごくいい人なんだよね。社員のためにバースペース作ったりコーヒー飲める場所作ったり。途中で帰宅困難になった社員たちが泊まってるシーンもあったので、そこそこ以上に広くて人が寝られるスペースも社内に作ってくれている。飯屋が遠いから弁当屋呼びたいと言われたらすぐ了承してくれる。
利益を上げて資産が莫大になっても牛丼で並盛か大盛りか迷うような小市民っぽさがあり、良くなったのが明確にわかるのはビールの銘柄ぐらいのもの。
そういう普通っぽい部分と、不気味すぎる穴を普通に利用し続け、一度恐怖を味わった石田は近づくことすら拒否する穴のそばで寝泊まりし、自分の異様に上がりすぎて鉄すら潰したり引きちぎったりもできる腕力を普通に受け入れ、襲撃しても恐怖すら覚えない(これは強くなったからだろうけど)。そういうヒロキって存在が不気味で、穴と同じく理解できないものへの恐怖が湧いてきた。ヒロキが淡々と物語を進めているからこその不気味さがかなりある。
ところで石田がいいキャラしてんのよ。最初はヒロキを良いカモって思ってたくせに、どんどん経営者として良い感じになってくのが読んでて面白すぎるのよ。
元々大学でうまいこと稼ごうとしていたあたりベンチャーだのの勉強してたのもあるんだろうけど、経営方面の才覚がすごい。終盤にM&Aだの融資だのの魑魅魍魎をいい感じに対応していくところ面白すぎて手ぇ叩いちゃった。ヒロキはそのあたりあんまり頓着ないもんな、お前が頑張るしか無いもんな。利益とメリットデメリットの選別がうますぎる男。
とはいえ穴への研究者としての興味もかろうじて残ってるのもキャラとして輝いてる。オタク、こういう人間に弱い。
途中で人が増えだしたあたりで石田が自分のコマになる人を雇って給料ピンハネしてんのかと思ってごめんな、こいつ真面目に経営者してるからそういうのはなさそう。
本当に読んでて様々な要素が絡み合って面白く、淡々としたヒロキ視点とパニックホラー状態の落差がめちゃくちゃに面白かった!!
とはいえウェブは更新停止してるので、完結が読めないのが大変悲しい。