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「王妃になった魔女様は五人の王子に溺愛される (小学館文庫 Cみ 1-19)宮野美嘉」宮野さん作品にしては常識と倫理が伴っている主人公による、息子たちの嫁探し
王妃になった魔女様は五人の王子に溺愛される (小学館文庫 Cみ 1-19)宮野美嘉

王妃になった魔女様は五人の王子に溺愛される (小学館文庫 Cみ 1-19)宮野美嘉

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宮野さん作品だからもっとめちゃくちゃなぶっ壊され方と愛の使われ方をするのかと覚悟を決めて読んでいたものの、存外に順当なキャラが多くて驚いた。主人公も他のヒロインたちと比べたら思考回路が理解できるぐらいにはまっとうだし、出てくるヒロイン溺愛している王子×5もそれぞれ個性豊かながらも全員ギリギリ常識と良識持ってる範囲で読みやすかった。
ただわたしは作家読みしてて、あの倫理観だのなんだのがぶっ壊れた登場人物たちを求めてたので、少し物足りなかった。

魔女による、5人の息子の嫁さがし#

宮野さん作品のヒロインって初期ほどぶっとんでる印象がある。幽霊伯爵の花嫁のサアラがその筆頭で、蠱愛づる姫君の玲琳しかり。読んでてちょっと意味分かんないっすねと思うようなヒロインがぽこぽこ出てくる。そんな彼女らと比べたらかなり常識人気味の魔女・ナユラ。極悪女帝の後宮くらいに常識側。

「しょうがないでしょ。あそこで私がやらなかったら、あなたたちがヤバい奴だと思われてしまうじゃない。嫌われるのは魔女だけで充分よ」
 一国の王子が本当にヤバい奴だと思われたら本当にヤバい。国が終わる。
 こんな調子で、彼らが何かするたびにナユラの悪評は広まる一方なのだった。

出てきて当初のこのあたりで、思考回路が本当にびっくりするほど正気でびっくりした。サアラや玲琳あたりだったらこんなものじゃない。というかその2人は『あなたが私を嫌いでも、私があなたを好きという事実には一切の違いも問題もない』という思考。でもナユラは相手が自分を嫌いで自分が相手を好きで、なおかつ家族以外だった場合、それなりに相手に敵対感情を抱けそう。そういう意味でもとても普通の人間。
そんな彼女が市井の皆様からは悪い魔女だのただの人間が魔女を名乗っているだけだの思われている。本当は良い人なのに様々な噂のせいで悪く思われているというよくあるやつ。

そんなナユラが血の繋がらない5人の息子である王子たちに結婚相手を見つけよう!と決意し奔走するのが物語のメイン。ただし5人の王子たちはそれぞれ曲者かつ常時反抗期もしくは変人のどちらかみたいな人間なので、相手が決まる様子もない。

最初に出てきた第一王子のオーウェンだけは意外とうまくいくんじゃね?って思ってしまった。
魔術学が好きでそれ以外には一切興味のないオーウェンとご令嬢の接点を作るために、ナユラは魔術学の講座を開こうとする。それにつられてきたご令嬢たちは大半が王子の嫁というポジション狙いだが、ただ一人だけ毛色の違う令嬢がいる。

「私は今まで独学で魔術学を必死に勉強してきて……やっと昔の歴史を知る本物の魔女様に魔術学を学べる機会がやってきたのに……あなたみたいに恵まれた環境でぬくぬく育ってきた王子様にそんなことを言われる筋合いはありません! 最初からいけ好かない人だと思ってた!」

ガチモンが混ざってんじゃねーか。笑った。途中でオーウェンと彼女でオタク同士の解釈バトルが始まるあたりもめちゃくちゃ笑った。魔術学を習いたいという名目で来た人のなかでは最も正しいじゃねえか。なんならほかの王子目当ての人々よりも彼女が一番建前上の名目には合致しているよ。

王子たちは全員ナユラを女性として愛しているが、ナユラは王子たちの恋愛感情にまるで気付いていないままに結婚しなよと言い続けている。

「確かに国の行く末を心配してるのは本当だけど……それよりもっと単純な問題で、私は王妃になって、彼らの母になって、幸せだと思ったから、彼らに同じような幸せをあげたいと思っただけなのよ」

これすごいな。誰かに結婚してほしいと思うキャラクターの思考として一番しっくり来たかもしれない。これが赤の他人が言うなら押し付けがましいんだけれども、私にその幸せを与えてくれた彼らが同じ方法で同じ幸せを得てほしいっていうの、押し付けがましいのはそうなんだけれども、そう思って母親としてお節介してしまうの自体は理解できた。まあ彼らの好きな相手はナユラなので完全に余計なお世話だしやめてほしいんだけど、でも確かにそう考えてしまうところは理解出来てしまった。

結局のところ愛の物語#

他の作品もだいたい愛の物語として決着できる話が多い印象があるんだけれども、この話も愛の物語ってところに帰着して良かった。

愛を知らない魔女が、自分の国と民を愛する爆裂バグった国王に影響されて愛を知ってみたくなり、愛を知るために王子たちを利用し、物語に出てくる母親たちを真似して、結果愛を知った。
――というのはめっちゃまともなんだけど、国と民を愛するがために、自分の子孫の魂も悪魔に捧げる国王、バグり散らかしてんな。理解できないことは無いけど相当やべえ。国と民は、確かに国王の所有物。国土を拡げたり豊かにするのは自分の所有物を愛しているからこそ。詭弁なのかもしれない。そんなことを言って、実際のところ国を豊かにし国力を強化し他の国を侵略するためかもしれない。いやでも、それだって自国を愛しているからこそ豊かにしたいという思考があるがためなのかな。わからなくなってきた。

この愛でおかしくなっているような行動を選ぶがどこまでも正気の昔の国王が、今回読んでて最も宮野さんのキャラっぽく感じられたかもしんない。他の面々、ギリギリ理解できる程度の狂い方しかしてないので。

1巻で王子たちの嫁探しはこれからも続く!という形で終わらせつつ、2巻以後があるとしたら召使であり使い魔でありナユラのちからを封じた元凶がメインとなってくるんだろうなというのは薄々察せられる。とはいえ、これで終わってもギリギリ許容できる範囲。
にしても、1巻だからここまでかなり一般的に収められているのか、それとも現在はこのぐらいのレベルに押さえてるか、どっちなのかまるでわからん。王子たちのぶっ飛び方もそこまでトビまくってるわけじゃないのでギリギリ正気に思えてしまう。いつもならもうすでに国滅びてるじゃん……。今回も「悪魔の力が無くとも国は大丈夫なんじゃないの」とは片付いているけれども、でもヤバの面々だと国滅びてよくね?になるだろうし。