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「掌侍・大江荇子の宮中事件簿 参 (集英社オレンジ文庫)小田菜摘」人はなんのために着飾るのか
掌侍・大江荇子の宮中事件簿 参 小田菜摘

掌侍・大江荇子の宮中事件簿 参 小田菜摘

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あらすじ#

定年退職を目指して働く内裏女房の荇子。だが女が集まる宮中に平穏が訪れるわけもなく……。離婚を機に復職した同僚の不穏な噂や夜な夜な響く赤子の泣き声、朽ちていく謎の庭。さらには帝から二人の女御のうち一人にだけ贈られる特別な唐錦が引き起こした女たちの対立。火種はどこにでも燻っている。図らずも帝の信頼を得てしまった荇子は、内裏を騒がす事件と謎を解決しようとして思わぬ人物の秘密を暴くことになり…。死者と生者の思惑が交じり合う、平安京・働く女の秘密の事件簿第3弾!――噂、嫉妬、嫌がらせ…宮中では今日も誰かがこじれている。

安定の面白さ、強かに生きるキャラクターたち#

相変わらず安定感のある面白さだった。

帝は荇子を下手に信用してくれてしまっているので面倒事を押し付けてくるし、卓子は元気に無邪気に失言したり「それやっていいんか」をかましてくる。出てくる新規キャラたちも皆それぞれに強かで、自分の生き方を貫いている。

2巻でも随分と人間味がましてきたなと感じていた帝だけれども、読んでいて『この人は懐に入れた人には情があるし優しいが、それ以外の人に対してはかなりはっきりと冷淡である』『とはいえ何考えてるか分かりづらいだけで優しさはある人なので、この行動は誰かへの思いやりかもしれない』『しかし深謀遠慮しまくりなので、実際に何か企んでいる可能性はものすごくある』という、めちゃくちゃ食えねえキャラというのがどんどんわかってきて面白い。オタクはそういうキャラクターが大好きです。
この懐に入れた人には優しいもののそれ以外の人に対してはさほどそうではないところ、あの頃イイ感じだった女子たちと同じクラスになりました2の花園さんと近いかもしれない。
徐々に荇子も懐に入れられてきて、何かあったらそれなりに守られる相手になってきている雰囲気が発生しているのがとても良い。帝、こういう物事はっきり言うタイプの媚びてこない女性のが好きだろ。

また、今回登場した小大輔も結局しっかり強かに生きていて強かった。このシリーズ、生き方が強かなキャラクターたちが多すぎる。

不器用ながらも己を貫く麗景殿女御#

そんな強かな人々のなかで、逆に不器用ながらもやっている麗景殿女御が一種の清涼剤だった。

帝が舶来の商人から「中宮へ」と貰った超絶すごい反物。現在いる妃のどちらに渡すか? という状況で、早々に辞退してきた麗景殿女御。
争いにならないことに周囲は安堵したものの、麗景殿女御はその後に帝が下賜すると言った反物も、舶来品反物を譲ってもらった妃の家から代わりとして送られてくる反物もいらないという。そこまで拒否するのは、果たして相手の妃へなんらかの鬱屈した感情があるからなのか? それとも他に理由が? と、荇子やその妃の女官である小大輔は悩む。

そんな状況のオチが、自分の求める色の反物ではなかったから、というのはあまりに簡単かつ妃以外ならすぐに思いつくものの、立場が妃の人の理由となるとなかなか思いつかないというのは面白かった。本当に本気で不要と告げているのに、なんらかの理由があって断られているのではないかと勘ぐられる面倒くささと大変さよ。
このあたりは「やり直し悪女は国を傾けない ~かくも愛しき茘枝~」でも思ったのだけれども、本気の発言に対して勝手にこちらを慮って忖度しようとして斜め上に行かれるのって困るよな。

好きな色でもない服を押し付けられて着続けなければならないのは、気が塞ぐし嫌すぎる。けれども周囲の女御たちは麗景殿女御にそんな色を押し付け続けるのは、麗景殿女御が女性としてあまり一般的な感性を持っていないと自覚しているから。
女性としての幸福とされる結婚も恋愛もまるで興味がない、というのはこの時代の女性にはあまり多くないだろう。結婚した上で離婚している人はいるけれども、そもそも結婚自体が人生の選択肢にないという人は、この物語の時代感覚的にはかなり珍しい。
荇子も結婚をしないという信念は(若干崩れかけているが)持っているものの、荇子の場合は恋愛感情はあるし、父親の出来事がなければ間違いなく征礼とも結婚していただろう。だからこそ、そもそも結婚の気がない人という完全に想定外の人と出会い、征礼との関係性をまた考え直したりもするのかな。

最終的に帝にも一枚噛んでもらって一芝居打つのが上手くてよかった。
どちらにも興味がない帝、逆に麗景殿女御のほうが相手に最低限しか興味がないという共通点でうまく行きそう。あまり媚びてこない女性だし、恋愛対象にはならないがともに生きる相手としての相性は良さそう。