
あらすじ
「私、世界を救わないといけないから」 そんな妄言を言う彼女に、楠木将臣は告白をした。もちろん、罰ゲームに決まっていた。なのに、その嘘は受け入れられてしまったんだ。 “精神界”の“救世者”と電波な妄想を垂れ流し、周囲から孤立していた美少女、貴家雲雀。そんな彼女と付き合うことになったわけだけど、噂と違って普通に会話できるし、なんなら素直に甘えて来るし……。あれ、普通に可愛くない? 気づいたら本気になっていた将臣だったが、彼女のことを知るたびに、その妄想は「現実」だと分かって――。 「――ねえ、将臣くんは私の“世界”、信じてくれる?」 嘘から始まった想いが本当に変わっていく、ちょっぴり電波な恋物語。
面白いよとは噂で聞いていたが、なるほど確かに面白いし、一定の時期に厨二病の青春を過ごしたラノベ読みにはガンガン刺さるタイプだなお前は!?
ふしぎな感じの時代を感じるラノベだった。変化球ながらも古き良き王道、こういうのが好きだったなあと懐かしく思い出させてくれる小説だった。
嘘告白から告白した相手は孤高の電波少女
友人との罰ゲームで嘘告白をすることになった将臣。その相手は精神界《アストラル》の救世主《メシア》を自称する美少女である雲雀。クーデレな彼女についてもっと知りたいとデートをして仲良くなったり、雲雀の精神界での戦いが垣間見られたりする物語。
いや~~~~~懐かしいな!? すごく雰囲気があの頃っていうか、ゼロ年代……? いやこれいつの年代なんだろう……? うまく言えないけれどもこういうの流行った時代があったよね、と言いたくなるような世界観で面白かった。ライトノベル老人会に刺さるんじゃないだろうか。いや老人会まで行くと行き過ぎか。ライトノベル中年会ぐらいの年代に刺さりそう。
いくら美少女でも電波ゆんゆん過ぎて避けられていた雲雀だが、彼女について知るにつれてもっと知りたくなっていく将臣が、も~お前全力で惚れ倒しているじゃねえかと微笑ましくなった。相手を知りたいと思うのはもう恋なんよ。しかもそれがどう訊いても電波でゆんゆんしている内容だったら。
実際雲雀もそれ狙いで意図的に将臣に特殊擁護盛りだくさんの精神界トークをしてみせるものの、将臣がその話をきちんと聞いてくれることに徐々に心を開いていくのが、今まであまりそういう話を受け入れてもらえなかったんだろうな~という風味があってとても痛々しい……。
雲雀にとっては現実であり、守らなければならない世界の話。とはいえ、本人も常識というものがあるので、自分の話している内容が突拍子もなくイカれているのは重々承知。だからこそなおさら、こんな話を聞いても引かず、突然寝落ちする彼女に痺れを切らして見放したりしない将臣に惚れていくのが、わかる~~となっていく。
雲雀を支えると覚悟を決める将臣は強いよ。そりゃあご両親とお話した時にも認めてもらえる。
中盤で嘘告モノの定番とも言える嘘告白だと第三者によりバレる展開が始まるのだけれども、それも物語の根底にしっかりと関わってくる内容なのがめ~~~っちゃ良かった。それが二人の関係性の亀裂として働くのも良いけれども、それだけじゃ済まないのが美味しい。
そして嘘告だったと知った時の雲雀が、だとしても好意自体は今はきっと本物のはずと、疑いつつも信じられるくらいに将臣を好きになっちゃってて信頼できちゃってるのが良いんだよね。トラブルやすれ違いはあるけれども二人の根底にあるのが信頼関係なのがやっぱり好きなので……。
クールながらもさり気なく将臣に甘えて見せる雲雀がとにかく可愛かった!
普通ではない二人のバカップル
精神界という電波設定が、あまり情報を出して来ていないが故に読者も将臣と同じくこの子電波受信してるなという感覚になれるのが良かった。わからないものこそが怖いし、わからないからこそ電波と感じられる。
これが物語上で明確な理屈をつけて異世界だなんだと説明をされてしまい将臣がそちらの世界の存在を完全に認識してしまったら、物語はそういう設定となる。そうじゃないからこそ雲雀が孤高の電波少女という扱いになるわけで。
この配分がめちゃくちゃ美味かったなと感じた。
ところで、雲雀を電波少女扱いしているが、別に主人公の将臣だってそこまで普通じゃないんだよな。何があっても表情がほとんど動かず周囲からは平静だと見られてしまうという外見もあるけれども、雲雀のそんな電波ゆんゆん話を否定せずに受け入れて聞こうとし、普通であろうとしているにも関わらず愛と恋で普通から逸脱していくところ、全然お前も普通じゃないのよ。すごくそこらへんの塩梅が良かった。
そもそも、こんな電波ゆんゆんした発言を半ば意図的にしている子を受け入れてこの勢いで好きになって惚れていくやつ、最初から普通じゃないんですよ。
自分がどうなるかなんて二の次にして怪しげな薬で彼女のところへ飛んでいく男、普通なんてとうに逸脱している。
最終的にふたりとも救世主となり行ったり来たり出来るようになった今、2巻以降では二人で精神界デートとかしちゃうのかな。そうなったら面白すぎる。
ずっとかすかの存在がちょっと受け入れがたいというか納得できなくて、何だこの子は? と思っている時間は長かったかも。最近言われるノイズとかいうやつに近い。
重要キャラっぽい設定、ろくに声を出さないっぽい描写、会話時には「」で括らず太字になる演出ながら、特段なにもなかったのが気になる。最後に声を出したっていうのがあるあたり、めっちゃ声がちいさい? それともずっと念波かなにかで会話している?
