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「瀬戸際のハケンと窓際の正社員 (集英社オレンジ文庫)ゆきた 志旗」就活に失敗しても人生は続く
瀬戸際のハケンと窓際の正社員 (集英社オレンジ文庫)ゆきた 志旗

瀬戸際のハケンと窓際の正社員 (集英社オレンジ文庫)ゆきた 志旗

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就活に失敗しても人生は続く#

派遣切りにあって無職となった主人公が、半ば騙されて向かった次の派遣先はマンション販売員。マンション販売員たちグループのなかにも序列があって自分の派遣された会社は一番下、頼れるような売り込み文句をされた上司は完全に窓際社員。果たして主人公の明日はどっちだ! というノリのお話。

裏表紙にあった、就活に失敗しても人生は続くっていう一文がものすごく似合う話だった。
元々は本を作りたいという夢を持ち就活をしていた主人公・澪だが、新卒就活のときに狙った会社はお祈りばかりで、出版業界になどまるで近づけなかった。でもそれで人生は終わるわけじゃなく、生きるためにはお金を稼ぐ必要があるので、夢とは関係ない仕事をしなければならない。そして入った先の事務派遣では、3年になるというときに派遣切り。
このあたり、ああ~~~わかるよ……わかるよそういう状態になるよね……と思いながらひたすら読んでた。私も入りたい業界とかあったし、なのに就職先が見つからず事務で別の会社に潜り込み……と全く同じルートを辿っていたので、なんなら笑いまで込み上げてきた。

派遣業者に『新聞会社だ』と言われて出版に関わる仕事ができると向かった先で、よくよく話を聞くと正しい派遣先は新聞会社の不動産部門であり、間違っても出版には関わらない。しかも意図的に派遣業者は情報を伏せていると来た。ここで怒って帰ることもできたけれど、来月の家賃や食費生活費を考えて結局派遣されることに。
そんなこんなで向かった先での上司はあまりに軽やかにパソコンでどうでもいいサイトを見たり人気のいない場所を見つけては隠れてスマホゲーをしていたりモデルルームで昼寝をしていたりと、サボりに全力を尽くす窓際社員の窓際全力サボりっぷりに笑ってしまった。

それでも澪が『能力を見せれば正社員として雇用されるかもしれない(たいていはされないし、たいていの派遣社員はつなぎである現実から目を背けつつ)』と頑張って契約を取ろうと足掻く様は応援できたし、最初はなんとなく仲良くなれそうもないなと感じられた他の社員たちも、様々な性格だったり事情があったりしているのが明かされていくのが面白かった。特に能海さん。能海さん絶対ヒロインだろ。能海さんが優勝だよ。
前半は何もわからない状況でとにかく動かなければならない澪への不安感や応援感が強かったんだけれども、半分を過ぎたあたりから澪がどんどん強くなっていくので安心して読めたのもあるかも。

マンションって人生のなかでもどでかい買い物だしそうそう買い直しは出来ない。そういうものを買う相手が『私、新人です!』って顔してたら頼りになるか不安だし怖いよな~~。
読者視点だとどうしても澪の視点に立ってしまうのでお客さんもうちょい優しくしてくれ~~と思ってしまっていたが、能海さんのアドバイスとメイクになるほどなと膝を打った。客として考えると確かにあからさまに新人さんな人は頼れないし不安的な意味で怖いかも。そう考えると年だけ取っているように見える窓際社員こと日下部さんが契約を取れるのもわかる……気がする。

物語のラストが結構驚きだった。こういう話の落ちって、咲かれた場所で咲きなさいというか、ひょんなことから飛び込まざるを得なかった全く望んでいなかった仕事だけれども私この先ここで頑張ります! っていう落ちになることが多い。
なのにこの話だと、澪は明確に『私が働きたいのはここではない』を突きつけ、最終的には夢であった出版部門への異動を狙い、もうすこしこの場で働くこととする。
この自分の夢を追いかけるのを選ぶというのが予想外でわくわくした。

ヒーローは能海さんかもしれん#

出てくるサブキャラクターが魅力的だった。

第一印象は無愛想で最悪に近かったけれども、別件で話してみたら案外話しやすかったし、マンションが好きだからこそマンション販売員という仕事を愛している杉政くん、様々な意味でキャラが濃くて可愛かったよ~。マンションが好きすぎて休みの日にはマンション浴をし、マンションの周辺について調べ上げ、自分の仕事を愛する。キャラが強すぎんか? 趣味を仕事にし過ぎである。
ふわふわしている喋り方と外見なのに、実際はクソ強なりこさんも笑ってしまった。この人強すぎるんだよなぁ……。そんな彼女の二面性や滝さんに対して強い理由に関してもきっちりと『社が上下関係厳しい体育会系だったから』という理由が作られているので笑えた。いや笑っちゃいけないんだが、色んな意味でこの人のやってるのもパワハラなんだが、それはそうとしてゆるふわ♡系女性がやってると面白くなっちゃうの、良くない。

そして能海さんがあまりに格好良くて素敵すぎて、この人がヒーローだろ……となっちゃった。
セクハラ客に泣いてる澪を助けてくれて、どういうメイクが良いかも教えてくれて服もくれるあたり、あまりに輝きすぎていて格好良くて、ピンチに現れるヒーローすぎるだろこの人……。そこから澪と仲良くなり、一緒に映画に行ったり家にお泊りしまくって半同棲する仲にまで順調に進んでいくのが良すぎた。能海さんがいたから澪はここまで成長したし強くなりました。能海さんはもっとワシが育てた顔して良い。

能海さんの「非正規だから何?」っていうのがすごくすきなんだよな~~。澪が気になってる杉政くんに対して自分の本当のことを話せないとぐずぐずしてるときに、相手が正規でこっちが非正規だから? うちのチーム非正規多いし、なんならこの世の1/3は非正規! って澪に対して言い切るところ、めっちゃ格好良かった。
実際、非正規のうちは私も結構自分が非正規であるというのを後ろめたく思っているところもあったし、能海さんがそこで啖呵切ってくれる気持ちもわかる。実際澪が後ろめたく思っていたのは、正規ぽくふるまっていたのと年齢の誤魔化しだが。そういうのも含めてすごくこのシーン好き。

そうして最終的には能海さんと澪の半同棲まで行き着くので、やっぱこの人がヒーローだよ。この人が格好いいよ。

タイトルになってる窓際の正社員こと日下部さんは、出番も少ないし活躍も少ないしなので、あんまりこう……タイトルになっている人っぽさがなかったな……。なんでこの人タイトルと表紙になってるんだろう。終盤、日下部さんが行っていた仕事ない暇人仕草としての邪悪なインターネットウォッチャー仕事が澪の助けになったけれども、活躍といえる活躍ってそのぐらいだし。対比としてもさほどでかいものでもなかったので、なんでこの人がタイトルなんだ? となる。