
あらすじ
母との相克から宮中女官を目指して、試用期間中の海棠妃奈子は 今上の叔母・涼宮に付き添って女子医専を訪ねる。 寄付を募るための講演会に、教授の世津子に請われて涼宮が登壇したのだ。 そこで妃奈子は、同級生の初音と再会する。 最初こそぎこちなかった二人だが、たがいの実家での境遇に興味を抑えきれずに、 最後は腹を割って話しあう。 華族学校時代のフラストレーションと反省を共有した二人は、友情を深めあう。
親と子の物語
妃奈子が初音と出会って友情を築きながら、同時に親と子について考える巻。1巻もかなり親と子の話であり抑圧してくる毒母からの開放の物語だったのだけれども、この巻は更に親と子の物語に踏み込んできた。そう来るかすぎる。
おそらくは、親子の間にある(と信じられているが、実際は誰もが持つわけではない)情の物語なんですよね、この巻。思慕というより執念である白藤と帝の間以外にも、様々な情や利用が渦巻いている。
先進的な祖父のおかげで医学学校へと入学出来たものの旧来の価値観を持つ父親によって結婚のために家へと戻されかけている初音。初回は月草によって父を追い返すも、このままではいつまた引っ張り戻されるかわからない。
この時代の、子(とくに娘)は完全に父親のものという家父長制が出ている話だった。この父親も妃奈子の母と同じく子の幸福などまるで願っていない。一方的に押し付けてくるばかりの父親の胸糞の悪さがすごいけれども、この時代のたいていの女子はそれを受け入れてしまうのだろうと思うところがすげえ残酷だった。
でもこのあたり、今の価値観だからそう感じる部分もあるんだろうね。当時の人たちはそれを何らおかしいこととは思わない。現に妃奈子の学生時代の同級生はそういう人も多かったわけだし。
そんなところへ現れた高辻の友人の田村とのやりとりと、月草の「それ普通の思考なら絶対思い付かんし思いついても言わんが?(普通の人は言われても決意できないので)」という最短経路の提案がぶっ飛んでいてもういっそ笑ってしまった。月草さん、常時覚悟がガンギマっているんだよこの人は……。
月草さんの色んな人から目をかけられた分次の世代の誰かに目をかけなさいという教えもいい話なんだけれども、この人が言うと普段の覚悟がガンギマリのせいでなんか別の意味合いすら感じてきてしまう。
初音も同じく覚悟がキマってるタイプの人だからそこからトントン拍子に物事が進んでいくのにも笑ってしまった。そんなことある!?
このあたりで、妃奈子が今まで好感を抱いていた高辻に対してモヤりだすのもうまい。毒親やろくでもない親たちの話についていけず、どうしても家族は良いものと考えてそうな高辻さん、ああいるよなこういう人……(そして大体敵になる)と頷いてしまった。
そして月草さんも、実は息子がいるものの生まれてすぐ引き離されてろくに顔を見ていない状況と判明する。盛大に息子がやらかし、月草さん経由で涼宮さんなど上位の人たちにとりなしてもらえないかとやってくる元旦那。
月草さんが親子の情を持たずすでに切り離していたというのに未だに縋ってくるのもすげえし、息子は完全にバケモンすぎる思考でやばすぎて笑った。この人絶対ろくでもねえな……? なんでこんなのと駆け落ちしようと思ったんだ、相手の娘さん。絶対ろくでもねえだろうが。義母が気に食わないからこっちの生みの母親にすげ替えよ🎶 って並の思考じゃ出てこない。
このときほど月草さんが覚悟ガンギマリの割り切ってる人で良かったと思ったことはねえ。その割り切ってる月草さんですらドン引きしてるのでヤバい。
という、親子の間に情はあると信じられているが必ずしもあるわけではない、という物語のオチとして、高辻さんっていう親との情がとてもあたたかくある存在も、実は実の母ではなかったと明かしてくるのがうまい。
どの家にもそれぞれの事情がある。必ずしも幸福な家庭なわけではなく、愛情を注がれている家庭でもごくごく世間一般として見て普通といえる過程ではない。そんなところでも情で満ちた家族となることも出来る。
月草さんの息子が産みの母ええやんけ! してるあとで、産みの母は産んだ人であって、自分にとっての母は育ててくれた人ですねとからっと言ってる高辻の清々しさが良かった。
そしてその情のなさが逆に一人へ地獄を作ってるわけですが。
様々な意味で親子の物語で面白かった。本当に高辻さんのオチがうまくてそう来るかと唸った。
んだけど、これだけめっちゃ親子の話をしておいてサブタイトルがシスターフッドなのいっそ謎だな。
確かに月草さんが初音さんを助けたりなどシスターフッドはあるけれども、その初音さんの立場を手に入れるためには田村さんを利用している。女性同士の連帯はあるが、それ以外の要素のほうが多いし、なにより最大の要素はどう見たって親と子について。なんでこんな全くあってないサブタイになったんだ……。
妃奈子が学生時代に味わいそこねた友人との青春を再度味わおうとしているのが可愛いし、うまく楽しめたらいいねとにこにこしてしまう。