
あらすじ
こじれた他人の話題は、いつの世も楽しい。
定年退職を目指して働く女の平安お仕事事件簿、開幕!
内裏女房として働く掌侍(ないしのじょう)・大江荇子(おおえこうこ)の信条は、自分の食い扶持は自分で稼ぐこと。報酬分はきっちり働くけれど、出世は望まず、問題も起こさず、ただひたすら地味に真面目に働いていた。それなのに荇子の耳に噂と謎が入ってくる。
スズメ殺し、汚された紙、引き抜き工作、そして、いてはいけない人…。降りかかる火の粉を払うため、荇子は噂の真相を突き止めるのだが、それが思わぬ闇をあぶり出し――。
本当は火の粉も遠巻きにして、波風立てたくない。
でも噂だらけ、謎だらけの平安宮廷では、平穏には暮らせない!?
穏便に、けれどもしたたかに
父親の再婚などにより自らの結婚を忌避してしまう主人公・荇子が、人目を引かずに地味に生きていこうとしてるのに、親戚で美少女ではつらつとしていて元気に様々なところに首を突っ込む卓子によって様々な面倒事に首を突っ込まざるを得なくなる。幼馴染で同じく宮中務めである征礼に愚痴りつつどうにかこうにかやっていったら、更に面倒事に巻き込まれていくお話。
年末に小田菜摘作品をたくさん読もうキャンペーンなのでその一環。
今回も他のシリーズとおなじく一人で生きていこうとする女性の話だけれども、荇子は恋愛感情をうっすら自覚した上でというのに驚いてしまった。直近に読んだ2シリーズの莉国後宮女医伝シリーズと帝室宮殿シリーズが恋愛にさほど興味がない主人公だったため、てっきりそういう方向が多いのかと。
しかし荇子は幼馴染である征礼に惹かれているものの父の再婚によって生じたあれこれのせいで結婚に対して及び腰、というか自分の結婚は忌避しているところがあり、なんなら征礼にもその旨告げているという状況。これはなんともし難いよなぁ……。自覚があるうえで忌避しているので、感情に気付いてない他シリーズ主人公たちよりも難しいところかもしれない。
そんな結婚とは縁遠くありたい荇子は、養ってもらうための手段を持たない。そのため自ら稼ぐために女官として定年までしっかり働きあげたいという未来への展望をしっかり持っているところがとても良い。めっちゃしっかりライフプランが練られている。
周囲に目をつけられるほど目立つことなく、けれども堅実に稼いでいきたい。生きていくためには正しい。なのに字が綺麗だからと帝に代筆を頼まれてしまったり、元気な卓子が首を突っ込んでは他意なく荇子の名前を出すので、全く穏便に過ごせていないのが草なんだよなあ。お疲れ様です……。いるよね、こういう天真爛漫でヘイトを稼がないけれど、何故か他の人へのヘイトは溜めてしまう気がするが、それはそうとして性格が良いので憎めない子。
そんな卓子が拾い上げた火中の栗をナイスパスしてくるのをどうにかしたり、それ以外でも宮中で起きる様々な事件に好奇心というより関わらざるを得ない事情で気付いたら関わってしまうので、苦労人なんだなあというか、むしろ今までも意外と名前普通に知られてない? と思うというか。
荇子がかなり頭がよく、定年退職まで勤め上げたいのでなるべくは穏便に済ませようとし、下手なところに嘴を突っ込まずうまく物事をいなしていくので、そういう意味ではとても安心感あって読めた。
頭が良い主人公って良いんですよ、最悪の自体は回避しつつ物語に巻き込まれていくので。自分の領分というものを理解しており、なおかつそれで他人を脅迫(お強請り)するのを厭わないあたり、強かで良い性格をしていた。
個性的な宮中の人々
帝の后たちやその下で働く女官たちは、誰も彼もが良い性格をしていて読んでて笑ったり引いたりしていた。
荇子の上司は荇子が帝の覚えめでたいので嫉妬してブチギレ八つ当たりをかましてくるし、后たちに仕える人らは自分の后のほうが上であるとバトってずっとバチバチしている。元々仲が悪いところの女官たちがぶつかりあえば、当然ながらマジで大喧嘩となる。
そんななか、荇子の味方というか共犯者というか何かあったら頼れる人となる如子がなんとも良い性格をしている。
言うことは言う、一つ悪態をつかれたら十の悪態で返す、荇子以上に強かで頭が周り、貸し借りを作りたくない。
他の小田菜摘作品にもたまによくいる、覚悟がガンギマっており良い性格をしていて口のよく回る女性だ~~! とわくわくしてしまった。だいたい主人公の目標となる女性であり強い。
そんなつえー女でありおもれー女である如子と小さな恩の貸し借りの返却から徐々に友情を築いていくのがなんとも熱い。若干近寄りがたい人にそれなりに信頼を置かれているのに気づくと嬉しいし、なにかあったら助けてあげたくなるよね。
幼馴染との恋の行方が気になる
前述の通り、幼馴染である征礼に淡い恋愛感情を持っていながら、同時に結婚への忌避感により征礼との結婚は嫌だし、元々以前から「結婚はしたくない」とも話していた荇子。しかし周囲から見たら征礼は荇子のことを憎からず思っているというかどう見ても好きだし、荇子の側も恋愛感情があるからまどろっこしいし可愛いよ~~!
しかも幼馴染である。幼馴染カプである。
なにかあると気軽に二人で顔を合わせ、外向きの敬語もなにもなくぽんぽんと文句も言うわ怒鳴りつけるわ笑い合うわ以心伝心な幼馴染カプである。もうこんなん最高すぎる……。
菖蒲の薬玉を渡すあたりが本当によくてね……。征礼を気に食わない将軍が荇子にめちゃくちゃお高そうで品の良いものを送ってくるが、荇子の心が揺れるのは征礼から貰ったものなんですよ。匂いが嗅げるような花や葉の配置もだし、なにより征礼から貰ったってのが嬉しいんですよ……はあ最高か。
この二人どうにかなってほしい~~! という気持ちはめちゃくちゃあれど、しかし荇子の性格上それも難しいしな……と考えてしまう。結婚への忌避感がなんとなく嫌という程度ならどうにでもなるけれども、父親のやらかしに根付いた根深いもので家族への落胆も含まれているので、結婚や家族を増やすという行動自体が難しいよな。
うーん、この先二人がどうなるか気になるし不安でもある。
荇子の強かさが読んでいて大変楽しく、いい性格してんな~と読めた。如子とのコンビもめちゃ最高。更には征礼とのカプとしての組み合わせの良さもあるし、この先が気になる。すごく面白かった。