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「掌侍・大江荇子の宮中事件簿 二(集英社オレンジ文庫)小田菜摘」帝がどんどん人間っぽさが増してくる
掌侍・大江荇子の宮中事件簿 二(集英社オレンジ文庫)小田菜摘

掌侍・大江荇子の宮中事件簿 二(集英社オレンジ文庫)小田菜摘

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あらすじ#

「ありがとう。私のために主上(帝)をゆすってくれて」
四季折々の宮中行事と人間模様が織りなす平安トラブル絵巻、シリーズ第2弾!

定年退職を目指して給料分はまじめに働くことが信条の内裏女房の大江荇子(おおえこうこ)。
だが中宮の不貞と帝の不敬という、いらぬ秘密を知ってしまい、最近は給料外労働が発生しがち。
そんな中、亡き先帝の母で帝と血縁のない皇太后が帝への非難を胸に参内し、難題を突きつけてきた。
解決策のない要求に女房たちは右往左往するが、荇子は宮中行事を利用したある奇策を思いつく――。

こじれた他人の噂は楽しい、渦中にさえいなければ。
帝の寵愛を乞う女たち、秘めた恋、そして…。
無関心を装っても、火の粉は向こうからやってくる。
平穏に暮らしたい女房が宮中のトラブルを華麗に解決!?

荇子の恋の悩み#

面白かった。幼馴染への恋愛感情と結婚への忌避感に悩む荇子、そして周囲で恋愛したり惚れた腫れたをしまくる人々。
1巻でも書いたけれども、下手に恋に鈍いよりこちらのほうがよほど大変だよな……。

 男女の恋愛の真っ当な行き着く先は、結婚とされている。
 その結婚をする覚悟はないのに、恋だけは成就させたいだなんて虫が良すぎる。
 だったら結婚を考えればよい。とはけしてならない。幼少時の父の再婚を切っ掛けに心に深く刻まれた想いは、歳を重ねるにつれてやわらぐどころかいっそう意固地に頑なになっている。

自覚の上での忌避感は、もうこれはどうにもならねえよなあ……と感じてしまう。
ここまで意固地で、かつ相手である征礼もそれを理解した上で無理に距離を縮めてはこない。それでも好意自体は示してくれていて、ゆっくりと荇子の様子を見ている。そうなると、もう徐々に荇子の気持ちが変わるのを待って、ずっと一緒にいろよぉ……などと考えてしまう。

という状態で、帝が時折、ラノベにおけるおせっかい女子高生友人たちのようなノリで「お前らまだくっつかないの?」「お前らそろそろくっつけば?」「お邪魔して悪かったな」みたいなテンションの構いをしてくるのが時折御上なにしてらっしゃるんですかではあった。
ただそれ、この人の場合は、自分の最も愛した后との後悔があるからであるというのがこの巻でもどんどんと描かれていくために、その発言もしゃーなしかみたいな気分になってくる。

帝としては、誰もが(というより最も信頼がおける相手である征礼が)後悔の残るような状況にあってほしくない。だからこそ、征礼の好きな相手であり二人がくっつくうえでの障害である荇子をつついてはよ恋愛しろ何かあっても後悔がないようにしろって急かしてるんだよね。
これは帝から征礼への愛情である。帝がそんなことしてるって征礼が耳にしたら一体どんな顔をするかはちょっと気になるけれども。や、絶対面白いな。荇子は絶対言わなそうなので、如子あたりからバラされてほしい。

実際、帝の言うとおり、人間いつどこで何が起きるかなんてわからない。もしかしたら最悪の事態が起きて征礼か荇子が死んでしまうかもしれない。そしたら後悔するのは互いだ。だからこそどうにかしろ、という気持ちもわかる。
これって帝からの、おせっかいかつわかりづらく、なおかつ帝の日頃の行いがよろしく無いせいで分かりづらい愛情なのかもしれない。

帝、案外人間みがあって驚いた#

その帝が唯一恋した死んだ后によく似た姫宮が入内してきたりと問題が起きるのがこの巻。帝が何を考えているのか分かりづらかった1巻から比べ、ものすごく人間味があると感じられるようになった。

最愛の后と姿かたちが似た人の入内だからもしかしてとうとう帝の寵を受けるのかと周囲がやきもきするものの、結局帝はその姫宮にさほど感情を抱かない。外見が似ていたところで最愛の姫君とは別人だから。
このあたりの割り切りというか、執着している相手にはド執着をするけれどもそうではない相手にはさほど情がないあたり、帝の「この人そういう人だよね」感がすごくあった。

でもそういうところ含めて、今回「あ、帝って人間なんだ」ってすごく思ったんだよね。
言い方が悪いのもあり、帝の命令に対して周囲がこいつなんか裏があるな? と勝手に思い込むも、実際は裏などなく単純に相手のためを思っての提案だったりする。かと思いきや、「裏など無い」という発言をした事柄についてばっちり裏が存在していたりもする。
読めねえけれども、日頃の行いが悪いだけで、何でもかんでも企みを繰り広げているような悪い人ではない……のかな。だと思いたい。どうだろう……やっぱわかんねえな……。わかんねえんだけど、征礼への信頼と『こいつの人生が良くあってほしい』という願い、そして荇子への『こいつ使えるな』って感情は間違いないんですよ。やっぱこいつ信用ならなくない? キャラの枠で言えば、帝室宮殿の見習い女官の月草さんに近い不安感がない?

ところで出てきた

 妃嬪が複数の氏族から送り込まれていた時代なら、奸計を巡らせてその地位を剥奪するなどの謀略もあった。しかし藤家の娘たちが后妃の地位を独占している現状では、そんな過激なことも怒らない。まして堕胎薬や避妊薬をひそかに服用させるなどの物騒な話は、この国の後宮では聞いたことがない。

の流れで莉国後宮女医伝シリーズを思い出し、そうか……この時代は平和だな……同じ一族から姫が出ているというのはかくも平和なことなのか……と謎に感慨深くなった。これは一気読みの弊害かもしれない。