「宮澤くんのとびっきり愚かな恋 (電撃文庫)中西 鼎」沓先輩が変なところに刺さってしまったんだけど助けて
あらすじ
昔好きだった幼なじみのアイツは、今はビッチになっていた――。
小学生の時からの幼馴染・藤代瑠音(ふじしろ るいん)は、誰だって自然と振り返ってしまうような美人だ。突き抜けるように快活で、いつでもオシャレで、みんなの注目のギャル。そして――自他ともに認めるビッチだ。常にセフレがいて、昨日も駅前でイケメンとイチャついているのを目撃した。
一方の俺こと宮澤恆(みやざわ わたる)といえば学校の日陰者で、今や瑠音とは全然縁もなくなっていたのだが……。
「ねえワタ。私たち、付き合わない?」
俺と君が? いやいや、それ絶対に裏があるじゃん。そう思いつつ、かつての初恋相手である瑠音からの告白をつい受け入れてしまい――。
性に奔放な彼女と過ごす、青くてちょっぴり危険なラブストーリー。
え、ええーーー面白い。めっちゃ面白いこの話。タイトルに違わぬ愚かな恋愛物語。
NTRとか偽装恋人とかそこらへんの要素はキャッチーで良いね、好きな子がセフレと駅前でべろちゅーしてるところを目撃してしまうとか、その子から「セフレが彼女に私との関係バレかけててやばいから偽装で付き合ってよ!」と言うあたりとかは普通にこの女ようやるな……(いろんな意味で)なんだけど、そのセフレの男子がめちゃくちゃ刺さった。
はちゃめちゃ多角関係
主人公の宮澤は、小学生の頃からルインが好き。けどルインは小学生の頃に宮澤に告白され付き合うことになった数日後、クラスのイケメン男子とも付き合い出してクラスメイトの前で熱烈キスをかまし、宮澤はがっつり失恋。
高校生になった宮澤は、上記の流れでルインと付き合うことに。で、そのルインのセフレのイケメン男子である沓が付き合っている相手は、宮澤の部活仲間で宮澤しか話す相手がいない陰キャ女子の果南。そして果南は宮澤が好きで……というはちゃめちゃ四角関係。
もうこの時点でどう頑張っても幸せになる可能性がない。図にする必要があるレベルで面倒くさい。
しかも恋愛感情がそれぞれ強烈なものを持っているからこそ幸せに終わる流れが見えない。まじで愚か。
そもそもね、宮澤が悪いよ! ルインから「セフレが彼女に疑われてるから、私は私で彼氏がいるということにしたい。だから付き合って」と頼まれた時点でOKするのが悪いよ! いくら好きな女の子に誘われたからってそれは許容しちゃ駄目だよ! やっている内容としてはいつだってみんな愛している偽装カップルものなのに、こんな最悪な理由はないよ!!
セフレがいる女子高生というのもそれなりに問題だろとは思うんだけど、ルインのなかで何故セフレが必要なのかという理論がしっかり出来ているからこそ、そこのところ「彼女はそうなんだな」で納得させられちゃう。それが宮澤や読者とは思考が違っていても、でもルインはこういう理屈と道理で動いているのだなというか。そういうのが果南や沓など他のキャラにもあって、それが妙な引力になって読ませてくる本だった。
ただ、その理屈や道理を説明する時の台詞がすげー硬めで、読んでて「おっ説明ターン始まった」とも認識した。全体的に台詞硬いよね、この話。キャラの掛け合いは可愛いのにそこら辺が変な感じ。
視点による見えかたの変化
今回読んでて一番ぶっ刺さったの、ルインのセフレであり果南の彼氏である沓かもしれん。というか絶対にそう。
宮澤の人生において強く関わった女子は2人しかいない。好きな女の子であるルインと、数少ない話す相手であり部活仲間の陰キャ女子の果南。そのルインのセフレであり果南の彼氏であるこの男・沓、女子2人について語られる像と宮澤の視点によって描かれる様子が違っており、それによって多面性が描かれていくのがめちゃくちゃに面白かった。
ルイン視点となれば、性欲旺盛で本体が下半身みたいな男。何にも考えてないし馬鹿。陽キャでウェイっぽそう。
果南視点となれば、幼馴染で自分が映画を好きになるきっかけではあった。しかし何を話せばいいのかわからない陽キャのイケメン。自分をすごく好きなのはわかるし大事にしてくれているのもわかる。
この時点で共通項が陽キャっていう部分しかない。人って相手によって見せる部分が違うっていうのは、果南について宮澤の認識と沓の認識が相当ズレていることからもわかる。だとしても本当に全く違っている。
ここから更に宮澤視点が入って、沓についての情報が増える。
映画館のチケットもぎりで会ったときは、実際に陽キャで筋肉質。その後連絡先を交換させられたと思ったら呼び出され、パフェを奢ってくれた上で、彼女である果南と親しい宮澤に恋愛相談をする。果南について語るのを聞かされ、何故好きになったか聞かされた上で、彼女の好きなものはなにか、何を上げたら良いのかと問われる。
果南が言うとおり果南のことを好きっぽい。ただ、果南について語るときの「上品」といった内容は、宮澤の知る果南とは大違いなので結構彼女に対して幻想を持っているか果南が人見知りを発揮して六に素を出せていないのがわかる。だとしても、果南に喜んでほしいからと、彼女と仲の良い男に頭を下げパフェを奢るだけの果南への好意もある。
沓、おまえ……めっちゃ……めっちゃだな……。
この時点で勝手に沓についての想像が走ってしまうんですよ。好きな子が上品で下ネタとかダメそうだからよそで発散している男という図を。ルインとセフレになりだした頃は果南とは付き合ってなかったけどそこはまあ。そこはまあどうにか。ルインが言う通り下半身が本体みたいな男だけどそれは果南にそういうの出来ないからその分ルインでじゃないかと。
こういう男がめっちゃいる所あるじゃないですか。BLのビッチ受けカテゴリとか。
こいつ、絶対そっちにカテゴリ移動すると輝ける。まじで。攻めを好きで好きでたまらないけどそういうの見せたくないから他の男とそういうことしてて本命の攻めの前では清純派気取ってるBLのビッチ受け(金髪)だよ。お前行けるよ!! ポテンシャルあるよ!!!
まじで最悪なことに気付いてしまってめっちゃテンション上がった。上げるもんじゃねえ。見たいです!
愚かな果南は救われない
果南が宮澤にここまでの流れを聞いた後のキレがすげーわかるし辛いっていうのが想像つく。ここらへんの解像度というか胸を打つというか胸ぶん殴りっぷりがすごい。
果南は沓を好きなわけじゃない。でも、沓は自分に告白してきた。そんな相手がほかにセフレ作ってよろしくやっている、しかもそのセフレが自分の好きな人を取ったルイン。
もう馬鹿言うんじゃねーよとなるよ。軽んじるな。私はお前を好きなわけじゃないが、でも、だとしても、私を軽んじるな。
これで好きなの、別に果南はここで「自分は実は沓を好きだった」みたいな真実の愛に目覚めたわけじゃないところ。好きな人がほかの人に取られたから好きだと気づくというのは宮澤で発生しているし、別に沓にそういう感情はない。ただ軽んじられたのがとにかくムカつくし悲しいし嫌。
だから果南が復讐であり好きな人をいっときでも手に入れる方法としてああいうのをとったのは理解できなくもない、ただもうハチャメチャに愚かすぎるし、果南自体だって愚かだとは理解しているんだろうっていうのがなあ。しんどいよな。
まとめ
全員愚か! 全員馬鹿!!
最初読んでるときは文章が地味に硬いし台詞は説明調なところが気になってたんだけど、後半戦の果南パートが始まってからはそんなのすらどんどん気にならなくなっていってやばかった。
それはそうとわたしは沓がめっちゃ好きだけど、こいつもこいつで別に幸せになってほしいとは思えないのがすごい。