
あらすじ
主人公は高級マンション住まい、高身長、高学歴――でもヒロインは!?
「可愛い私めが炒飯作りに来たんですから、中に入れてください」
俺と同じ神戸市の国内有数の進学校に通う高校二年生で、さらには首席で特待生――桐原銭子の来訪に俺は迷惑していた。
だって深夜二時だよ。しかも俺は別に桐原と付き合っていない。
「私は藤堂君なら性的に無茶苦茶にされてしまっても構わないのですが」
いや、俺の両親の前でマジでいらんこと言うな。
「キスしましょうか。藤堂君。鳩のように情熱的なキスですよ」
「桐原銭子は一度受け取った以上は返品が利かないんですよ!」
知らんし。俺はお前の告白を断ったはずだよな。
好きな女の子からの好意を拒絶し続ける青春モラトリアムラブコメ開幕!
ものっすっごい癖の強い話だな!? 少なくとも前半の、貧乏でトンチキな女子に付き合おうとアプローチされているがいなしている金持ちの主人公というパートはあまりおもしろくなかったし文体も好みじゃないしで読みづらかったんだけれども、中盤とある事実が判明してからは一気に加速して面白くなっていった。
アマゾンレビューでの「後半から面白い」というネタバレがなかったら絶対に序盤で本を閉じていたような前半の面白くなさと後半の刺さりっぷり。かなり尖った作品だなという印象を持った。
クセが強すぎるラブコメだよヒャア!
前半は前述のとおり、頭おかしくてイカれた雰囲気のあるヒロインに振り回され告白される、告白を断りながらも完全にはヒロインを見捨てられない主人公の物語。
ヒロインはとにかく元気に頭おかしい。冒頭からタイトル通り深夜二時に主人公宅に押しかけてチャーハン作り出すヒロインのイカれっぷりや、「猫と決闘しに行く」と告げて本当にサイズ180cmほどある変な猫を金のために捕まえようとするイカれっぷりなど徹底的に見せつけられて、あーこいつやべえなと思うには十分だった。
ところでこの話、とにかく文章が読みづらい。癖が強いと言うかなんというか、ぶちぶち途切れる間隔、文学作品について突然語りだすような読者の事前知識を試してくるような書き方。そんでもってヒロインは行動はイカれているし、ときどき「ヒャア!」と突然謎の奇声を上げるしで、まるで何考えているかわからない。いや大丈夫なんかこの話……本当に後半面白くなるんか……と不安感しかない状況で読み進めていく。
少なくとも前半は、イカれたヒロインに振り回されるやれやれ系主人公っぽさがあるので。前半は。
頼むから中盤まで読んでくれ。
それが中盤で一気に話が変わっていく展開なのが凄まじかった。
主人公はヒロインを人として異性として好みだし愛しているけれども、彼女が主人公の父親から『援助の代わりとして主人公と付き合え』と言われて現在のような行動に出ているのならば付き合えないと思っている。彼女という人間を愛しているからこそ、そんな人身売買のような行動で自らの身を売り渡すような彼女を憎しみにすら近い感情を覚えている。
そんなんめちゃくちゃ愛じゃん……。好きだからこそ、そんな彼女自身を貶める行動をする彼女と自らの父親を憎むの、もうめっちゃ愛じゃん……。その事実が出てくるだけで、ヒロインが主人公に積極的にアプローチかけまくってるのを断る意味も変わってくるし、主人公が時々ヒロインにタカられてメシを食わせたりする意味も違ってくる。
そしてヒロインも、ただ主人公父に言われて主人公にアプローチしているわけではなく、彼女自身も主人公を好きだし手に入れるための策略として主人公父を利用した。このあたり本当に話の空気が変わってめちゃ熱かった。文章は相変わらずめちゃくちゃ読みづらいけれども。
品行方正っぽく振る舞っている同級生が今まで隠していた自らの身のうちをぼろぼろとさらけ出してしまうのは、そりゃあこう……言葉に出来ないものがあるよなあ……。惚れてしまいもするよなあ……。ぽつりと言われる「父が桐原を褒めていた」の言葉は、主人公の言葉が続くほど重みを増していく。
とはいえ、主人公を手に入れるために主人公をまともな人間性へと育てている最中、友人が主人公に惚れちゃったのは笑ってしまった。お前の教育がうまいばかりに!!
このまま二人はずっとねじれきった両片思いのままなのか、それともなんらかの理由でねじれが解消されるのか、と考えてみるけれども解消されなさそう。あと主人公父、何気すげえ毒親ですね。ヒャア!
