花冠の王国の花嫌い姫シリーズ(全6巻) 長月遙

★★★★★,ビーズログ文庫ファンタジー,付き合ってる,偽装/政略結婚,恋愛,戦記物

あらすじ

結婚したら花粉症とはおさらばよっ!! 残念体質ヒロインが嫁いだ先は!?

『花冠の王国』と称される大国エスカ・トロネアの王女フローレンスは、重度の花アレルギー!
常にくしゃみ鼻水が止まらず、淑女にあるまじき鼻の下(以下略)。
そんな彼女に、人生の転機が!! 北の辺境国ラハ・ラドマ、イスカ王子との婚姻話だ。
アレルギーが出ない不毛の地こそ我が楽園☆と浮かれるフローレンスだが、イスカにとってはなぜ大国の姫がと不審でしかなく!?

打算から始まった結婚生活に、未来はあるのか--!?えんため大賞奨励賞作!

花粉症姫の結婚、どう考えても裏があると訝しむ王子の政略結婚物語

花粉症のお姫様は、一度留学した北国は花粉が飛ばず花粉症が発症しないからと嫁ぎたがる。
しかし北国の王子様は、条件の良くないうちの国に来たがるということはきっと間違い無く何かしらの裏があるということ、信用してはいけないと訝しみつつも結婚自体は自国にとって好条件なのでとりあえず婚約まではする――というところから始まる物語。

ただの政略結婚のはずのふたりが、相手のことや相手の国を知るにつれて、ただの条件だけでは無く相手自身も好きになっていくという流れは、ありがちだけれども、だからこそすごく良かった。
やっぱり王道って良いよね。

花粉症で鼻水と涙だらけの顔を馬鹿にされて以来人前に出るのが嫌になってしまった王女が、それでもただの引きこもりになるだけではなく、自分が生きやすい国を探していこうとするのは強くてとても良い。

彼女が見つけた、花がなくて安心できる国のラハ・ラドマ。
最初はただの【花粉症が発症しないから】というだけで選んだのに、その国に住む人々ののんびりとした気質やなにかあったときに助け合う優しさ、そして王子であるイスカがいるからといった理由で徐々に国自体を好きになっていく流れも良かった。

フローレンスは(そう描かれているわけじゃないけれども)読んでて計算高いなと思う箇所がちょこちょこある。
それがイスカ王子といると良い方向に作用していくからすごく良かった。良いコンビ。

対してなにか裏があるのではないかと疑いつつも、根本的に人を疑うことにあまり慣れていないからあんまりうまくいってない王子も面白くてよかった。
1巻のうちはただ顔と人間性が良いだけの王子なのか? と思いきや、2巻以降からは彼が実は戦闘力がめちゃくちゃすごいというのがわかってきて面白かった。

という2巻まで、そこから始まる戦記物の3巻、政略物のそれ以降

ってどうなってるんだこれ。

3巻以降も当然恋愛要素はあるし、イスカとフローレンスの両思いならではの甘ったるい恋愛もあるんだけど、ガンガン戦記物、戦略ものとして面白くなっていく

3巻で描かれたのは、橋を落とされ孤立した拠点の奪還と、友軍をどこまで見捨てどこまで助けるかという計算。フローレンスが軍師となり、自分の兄やイスカを動かし拠点の奪還を図る。
4巻では政略として北国ではなく他国へ嫁げと言われたフローレンス、自らの王女という価値を理解しているが故に一時的に嫁ぎ、そちらで軍事問題を暴いてく。
5巻では嫁ぎ先の帝国の謀反を防ぎ、6巻では結婚式で起きる政略的暗殺を防いだ上で宗教洗脳されている少年を自らのいいように動かす(語弊が若干ある)。

どうしてこうなった。面白かったから超いいんですけど。

ちょっと意地悪な言い方をすると、少女小説ってどうしても恋愛がメインになりがちで、戦闘などあっても主人公の奪い合いであり、他国へ嫁げと言われても三角関係の幕開けかとなるところを、これでもかと全部ぶち破ってきた。
兄が拠点に孤立したという状況で、行うことは好きな相手も戦略に組み込んだ軍師。他国へ嫁いでやっていることは間諜&王様と政略的なお話し合い。最終巻の暗殺を防ぐあたりはまだあるかもと思ってたけど、宗教的に洗脳され、自らの言葉は神の言葉であると思い込まされていた少年に現実を突きつけて洗脳を解くあたりは「私何読んでるんだ……?」と思いかけたりもした。

それでもイスカとフローレンスの恋愛が物語にがっちりと絡み合い、なおかつ上記政略部分がものすごく面白かったのですごかった。とてもおもしろかった。こういうやり方もあるんだな……。

私はアクションや戦闘の多いラノベが好きだし、恋愛ものも大好きだ。
少年向けラノベだと、国を取り戻すのをメインにしつつヒロインともいい感じにというものもあるが、少女向けだとあんまり多くない(私はすぐには思いつかない)。
なのでこういったタイプのものももっと増えてほしいなとも思った。

……とまで書いてから、この軍略物展開が出来たのは、前の2巻で二人の思いが通じ合ったからかもしれないと思った。
少女小説に求められるものはやっぱり恋愛要素だ。その恋愛要素をないがしろにして他の要素をメインに――というのはやっぱり難しいのかもしれない。
前の2冊で二人の関係はすでに盤石のものになっている/話自体が面白い/軍略部分が物語にちゃんと噛み合っている、この要素が組み合わさったからこの3巻が出たのかなあ、などとも思った。

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