不思議の国のハートの女王 世界の強制力で毒吐きまくり!? おかげで破滅ルートに入りそう……! (ビーズログ文庫) 長月 遥

★★★★☆,ビーズログ文庫ファンタジー,両片思い,恋愛,悪役令嬢,異世界転生

あらすじ

「妾にたてつく者は、死刑だ!!」――悪役女王、爆誕(したら困ります)

国王夫妻の不在により、急遽女王の座に就くことになった私――エリノア。
そのお披露目の場で

「これよりは妾が貴様らの主となる。喜びに打ち震え、跪け!」

って、前世でプレイしてた乙女ゲームの暴言ばかり吐く悪役女王になっちゃった!!
ヒロイン・アリスが現れる前に、攻略対象の帽子屋を味方につけて処刑エンドを回避しようとするけれど……!?

たった一人だけが理解してくれる安堵

面白かったー!

今いるこの世界が前世でやった乙女ゲーの世界と全く一緒ではと気付いたのとほぼ同時に言いたくないのに毒舌が口から飛び出し強制的に『毒舌ばかり吐く悪役女王』になってしまった主人公と、攻略対象であり意味深な台詞もあるからもしかして抑止力になるかな?と思って声をかけたら味方になってくれたジョーカーの、バディものっぽさもあるお話。

突然口から出る言葉出る言葉すべてが暴言になってしまった主人公は、誰も本心を理解してくれない。そんな彼女の思っていることをジョーカーだけがちゃんと理解してくれるの、すごく良い……。
いくら(設定上のあれこれ)あるとはいえ、ジョーカーと主人公はほぼ初対面。なのに主人公の思考をちゃんと読み取ってくれるのってすごい……。
おそらくジョーカーが聡いのにプラスして戦闘力が高いからなにかあっても主人公に簡単には倒されないという余裕で観察出来たんだろうけど、だとしてもやっと理解してくれた人で、主人公本当にほっとしただろうな。

からの、ちょっとしたやりとりやふれあい、会話を通して二人が次第に距離を縮めていくのが良いんだよね。
個人的にすごく好きなのが、ジョーカーが主人公に「じゃあ付き合っちゃう?」というあたり。

「ふん、それは面白くないな。じゃあ、今ここで運命に逆らってみようか」
「?」
 今? ここで?
 フェデリの考えがわからずに首を傾げる。そんなわたしに、フェデリはにやりと挑戦的な笑みを浮かべた。
「エリノア、俺と恋人にならないか」
「!?」
「ああ、その反応いいね。君の知る俺の未来の中に、俺達が付き合う未来はないわけだ。魅力的な選択だな」
     (中略)
「俺達は今、自分の意思で未来を選べる。試す価値はあると思うが、どうだ?」
「断る」
 フェデリの提案は、実験的に興味をそそられる。でも、わたしは断った。
 だって、それは、違うと思うんだ。

ここからの流れが凄く好き。
自己意思で、ちゃんと相手に好意を持って付き合う。それは自分からも相手からもで、ただの甘ったるい理想論じゃなくて、とにかくうまくいえないんだけど、主人公の断り方というか、誠心誠意さがすごく好きなんだよね……。

そして、主人公の発言によって思いを理解し納得してくれるジョーカーもすごく好き。
この二人の関係性が、信頼し合うバディみがあってすっごく良い。

王族としての自覚がある主人公

これは同じ作者さんの花冠の王国の花嫌い姫もそうなんだけど、主人公がしっかりと自覚を持っているのがすごい。

王族だから自分が行方不明の両親に代わって国を統治しなければならない。
王族だから死刑と言ってしまった場合その言葉は絶対だが、裁判をちゃんと開ければ覆すこともできる。
王族だからパーティは嫌でも出席しなければならない。

これ以外にも、王族だからという文章は地の文には全く無くとも、主人公は自分が国のトップたる自覚があるし、それに見合った行動をしようとする(現在状況が状況でできなくなっちゃってるけど)。

その立場と甘えなさがすごく好きだなーと思った。

乙女ゲーの世界、と思わせ実は違う

これ面白いな!
というか、ご都合主義~もそうだったんだけど、こういうとこにひとつどんでん返しがある物語が好きなのかも。

町の図書館にあったのは、織田信長やラ・ピュセルなど様々な覚えのある歴史上の人物のあれこれをこちらの世界用に若干脚色した物語。織田信長は死なず明智光秀と縁側でお茶を飲む終わりなど若干違いはあるものの、それでも主人公の知っている『自分の世界』のもの。
自分の世界のものを持ち込んだ人がいるのなら、この世界のものをあちらの世界へ持ち込んだ人がいるのではないか。
主人公が遊んだハートの国のアリスを題材にしたゲームも、もしかしてこの世界で存在した事実を誰かが脚色して持っていったのではないか……?

ここ本当に面白かった!
だって、今まである程度主人公がゲーム内の記憶と思われるなにかで未来予知をしていたのは、そのゲームの中でちゃんと歴史について描かれていたから。でも必ずこの先もそうとは限らない。だってゲームの内容は誰かの手が入った創作物だから
例えばこちらの転生世界の人間が幼い頃から織田信長の物語(大量脚色有り)を暗記するぐらい読んだ上で日本の1582年に飛んだところで、おそらく本能寺の変を止められないじゃん。この世界の物語では織田信長と明智光秀が仲良く縁側でお茶を飲むぐらいなんだから。
そんなふうに、今後主人公はゲームの予想通りに動いてもうまくいくとはいかない、というドキドキ感すっごい好き!!!

アリス……ではなく、アレフ

主人公の覚えている通りのものではない最たるものである、アリスではなくアレフという少年。
事前に話を聞かされていたジョーカーが、もしかして男色趣味というのが彼女の知っている状況!?と焦っているのに笑ってしまった。それだとお付き合い拒否られたのもちゃんと理由がついちゃうもんね。違うからな!?

アレフのキャラがもーーー最高。
向こう見ずな冒険家で、遺跡荒らしみたいなことをしてたっぽくて、魔法というものに好奇心旺盛で、独白を読み限りディストピアの空気すらある世界から来た?っぽい。えええ、こちらはこちらで面白そうなバックがあるぞこいつ!

アレフはきちんと主人公の言葉を読み取れるから、今まで意思疎通がきちんとできる相手のいなかった主人公はほっとしている。
けどこれ、ジョーカーの立場で見るとちょっとむずむずしそう。今まで理解できるのは自分だけだったのにっていうのあるじゃん。絶対するでしょ。可愛いな。

ところで完全に余談なんだけど、アリスモチーフの乙女ゲーっていうとどうしてもQuinRose思い出すね……友達がクロアリでパソコンブルースクリーンになったアレ。懐かしい。と思ったらなんか復活してた!?マジかよ。

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