「夜がどれほど暗くても」犯罪加害者を記事にしていた週刊雑誌副編集長、犯罪加害者遺族となる

★★★★☆,ハルキ文庫ミステリー,現代

あらすじ

志賀倫成(しがみちなり)は、大手出版社の雑誌『週刊春潮』の副編集長で、その売上は会社の大黒柱だった。
志賀は、スキャンダル記事こそが他の部門も支えているという自負を持ち、充実した編集者生活を送っていた。
だが大学生の息子・健輔(けんすけ)が、ストーカー殺人を犯した上で自殺したという疑いがかかったことで、
幸福だった生活は崩れ去る。スキャンダルを追う立場から追われる立場に転落、社の問題雑誌である『春潮48』へと左遷。
取材対象のみならず同僚からも罵倒される日々に精神をすりつぶしていく。
一人生き残った被害者の娘・奈々美から襲われ、妻も家出してしまった。
奈々美と触れ合ううちに、新たな光が見え始めるのだが……。

最近読んでる中山七里のノンシリーズ物(おそらく)。

 

犯罪系のネタや芸能人のスキャンダルをネタにしていた雑誌の副編集長が、自分の息子が殺人事件の加害者なおかつ死亡したことにより、本来は加害者に向くはずだったヘイトや取材なども全て向けられることとなる、という逆転構造のえぐさがめっちゃいい。
自分がやっていた立場だからこそカメラを向けてくるマスコミ連中がどういう意図でどういう絵面を取りたいのかもわかっていて、だからこそ腹立たしいし苛立つし、自分の無力さを実感する。この対比がすごい上手いのと、主人公が徐々に疲弊していく描写のさりげない旨さが相まってて読む手がとまらなかった。

どこか行こうとしたときにマスコミに取り囲まれる、妻もどんどんと疲弊していくので相談することも出来ない、なんなら雑誌の副編集長というポジションすらも奪われてゴミ捨て場みたいな人事を行われ、異動した先でもポンコツの邪魔者扱いされる。
主人公が今まで持っていたプライドや立場も全部剥ぎ取られて人間としても貶められ心休まるところが全然なくなっていく、という描写のえぐさがすごい。
でも主人公としても実際今まで自分が似たようなことをやっていた負い目もある。この絶妙さが最高だった。

 

途中から被害者遺族の少女との交流のほうに焦点があたっていき、居場所がなく貶められ続けるだけだった主人公が、自分がなにかできることを見つけて少しだけ心の光が指すのがいい。
主人公としては少女のもとに自分の居場所を作ろうという意図ではなく、単純に同じ事件の関係者でありまだ幼い子供が酷い目に逢うという状況など見過ごせなかっただろうし、それが大人としての義侠心だったとしても、結果的にそこに自分自身の居場所を見つけたんだよな。

 

毎回作者がやってくるどんでん返しとしてはすごいさらっとラストの数ページで行われて、事件そのものよりもそれからどうなったのほうに焦点があてられているのが面白かった。

 

https://www.wowow.co.jp/drama/original/yoruga/

ドラマ版のサイトを見たら知らん設定が生えてたり知らんキャラがいたりするのであとで配信を探してみたい。

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