「落ちこぼれ王女と黒の番犬 (ビーズログ文庫)」結都せと
あらすじ
気弱王女、 最強軍人の飼い主に!? 最弱×最強のワケあり主従ラブ!
気弱で側室の娘、その上王位継承順位も第四位の“落ちこぼれ王女”リーザレットが、王位継承の証となる《護り犬(ガーディアン・ドッグ)》を手に入れるため、契約の儀に臨むことに!
しかし何を間違ったか“漆黒の狂犬”こと最強軍人オルバと契約してしまい……?
「俺があんたの犬だと?(殺気)」
こ、この契約、破棄にできませんか!? 最弱×最強のワケあり主従ラブ♪
徐々に変化していく王女の物語
これは主人公の性格がとても好き嫌いがわかれそう。というか、好きじゃあないというタイプの人が多そう。
気弱、誰かが機嫌を悪くするたびにきっと自分のせいだと思い込む、なにかあるたびに自分が原因だと思う、他人に頼ることなく自分が犠牲になればいいと思っているタイプのキャラクターのため、そういううじうじ自己犠牲が耐えられない人は読んでいてかなりきついと思う。
主人公は王位継承権を持った王女。この国の王族は護犬という一種の犬神のような使役できる犬を持つために、ある程度の年齢になると儀式を行う必要がある。
主人公が儀式を行う最中に誰かから命を狙われ、その状況に吠える犬を守るためにばたばたとした結果、護衛の軍人を自分の護犬としてしまう。
この「自分は犠牲になっても良い」の感覚、一般人ならば美徳とされるものではあるだろうが、しかし主人公は一国の王女。その立場にも関わらず誰かをかばおうとしたり、自分だけが犠牲になればいいと思い込んだり、落ちこぼれ王女と自ら名乗ったりするのはちょっと大丈夫だろうかと読んでいて不安になった。
誰かを庇おうとして実際それで王女が怪我をしつつも救われた人がいたら、間違いなく助けられた人が何かしらの処罰をくだされるんじゃないのかな。それにも関わらず身を挺して助けようとしまくる主人公、ちょっとした不安感がある。
護衛の軍人が自分のせいで護犬にされたからと、解除する方法を探して図書館に通い詰める主人公。そして契約者とあまり距離を取れない制限がかかっているために徐々に近づいてくる護衛軍人との距離。
このあたりは読んでて楽しかったー。どちらも会話がまっすぐにすすまないのでじれったくてもどかしい。
主人公はなんでも自分を卑下して相手の発言を悪いように取ってしまうし、護衛軍人はツンというかあまり言葉を飾らないので言い方がきつい。そのため、二人の会話にちょっとした緊張感があった。
そして徐々に、主人公は護衛軍人に、思考ややり方を認められて強くなっていく。どこが、というほど明確な場所もなく、けれども次第に、本当に徐々に自己肯定感を高めていくのは読んでいて楽しい。
最後まで自己評価はめちゃくちゃ低いものの、やっている事自体は悪くないし思考も(マイナスだけれども)悪くないと言われ、徐々に少しずつ自信をつけていくのが良い。
とはいえ、この自信をつけるまでがあまりに長くひたすら自分を卑下して落ちこぼれと自称し発言の大半が後ろ向き、兄たちからは扱いが悪く嫌味を言われるわ遠ざけられるわで、そのあたりはあんまり読んでいて楽しいものじゃなかったかも。
でも、なんやかんやで脇役たちが強くて楽しく読めた。
好きな脇役は男性だけど女性扱いを望んでいるルーシー姉様、主人公が推しなロザリエッタ。
「動機はわかった――が、何故ドレスを破る必要があったんだ。直接伝えればすむだろう」 ため息と共に、オルバが呟いた。途端にロザリエッタが顔を跳ね上げ、オルバを睨みつける。 「できるわけないでしょ、そんなこと! 陰からこっそり見守り、陰からこっそり支援する――たとえそれが伝わらなくても、お姉様が幸せならすべてよし! それが私の推し方なの!」
ドレスを破るというやり方はどうかと思うものの、この感覚は若干理解できる箇所があるので笑ってしまった。
推しに自分の存在認識してほしくないんだよな。わかるよ。推しから万が一ファンサもらったりなんかしたら死ぬよな。すごくよくわかるよ。彼女には健やかに推しライフを過ごして欲しい。
私はロザリエッタと共に推し活をしたい。