「むしめづる姫宮さん (ガガガ文庫)」手代木 正太郎
あらすじ
一寸の虫にも五分の魂。それはヒトも同じ。
――宮城県宮城郡浦上町。そこは虫の魂が漂う不思議な町。時に虫の魂は未熟な思春期の若者の魂にひきよせられ、憑いてしまう。そんなとき、町の老人たちは、そっと若者に告げるのだ。「悪い虫に憑かれたら山の上の姫宮さんの所に行きなさい」と。
身も心も小さい有吉羽汰は、ある日突然、身の丈にあわない「おせっかい」をしてしまうようになってしまう。そのことを祖母に相談すると「……悪い虫さ憑かれたんだな」と姫宮さんのところへ行くように勧められるのだった。
だが、そこにいたのは昆虫のことが大好きなだけの、引っ込み思案の女の子で――?
セミの魂に憑かれ、五日おきにしか家を出られなくなった幼馴染み。
バッタの魂で集団化し、学校を支配し始めた女子ダンス部たち。
虫の魂による奇妙な騒動を、羽汰は虫好き少女姫宮さんとともに解決してゆくことになるのであった。
虫と人間、五分と五分の魂が巻き起こす、ちょっと不思議な青春物語。
【編集担当からのおすすめ情報】
虫の魂が祀られる町に住まう少年少女たちの、虫の魂まつわる青春グラフィティです。
『王子降臨』『魔法医師の診療記録』からがらりと印象を変え、頭身大の少年少女たちの姿を描ききった本作。
これまでの手代木ファンはもちろん、手代木作品に初めて触れる読者をもとりこにすることでしょう。
作家買いとしてはハズレ
読み終えてからひたすら「これじゃねえ!!!!!」と叫んでた。
個人的に手代木正太郎作品はかなり好きな方だった。
魔法医師の診療記録も全巻読んだし(ディストピア小説になった巻はびっくりした)、柳生浪句剣もそこそこツボ。王子降臨は3巻を待ってるぐらいに好き。今紙は減らしているので紙本は読めてないけど多分近々買うと思う。
でもこの小説は、なんとも言い難い。
まずあらすじの担当変種からのおすすめ情報にある通り
『王子降臨』『魔法医師の診療記録』からがらりと印象を変え、頭身大の少年少女たちの姿を描ききった本作。
全くこの言葉の通りで、いつもどこかにあった伝奇モノっぽい空気や突然発生する頭のやべえ敵、突如発生する頭のやべえ敵、カーレンジャーか?と言いたくなるような世界観自体がどこか理解できるものとかけ離れた物語というものが、無い。完全に無い。
私は王子降臨の「ひぃっ!美しすぎるっっ!」の帯文章で買ったような人間なので、このあたりでちょっとえええ……となってしまった。
がらりと印象は変わっている。雰囲気も変わっている。
けどそれが『これまでの手代木ファン』であった私としては、求めるものではなかった。
これなら手代木正太郎作品という名前で出された本としてわざわざ読まなくていいかなーという感じ。私の好きな雰囲気じゃない!というのがすべて。
じゃあ話自体が面白くないのかと言われるとそこまで悪いわけじゃなく、青春ラノベとしてはそこそこだと思う。ひたすら主人公の性格が卑屈なことさえ乗り越えられれば面白いのもある。
すっごく面白い!とか、めっちゃ好き!ぐらいまでは全然いかなくて、でもまあ面白いかな……ぐらいなので本当になんとも言い難い。なんとも言い難すぎて評価がしづらい。
でも、これ別に手代木正太郎作品として出さなくて良いよね……とはとても思った。
この作者として読みたいものじゃないってここまで思うものなんだなーって自分でもびっくりするぐらいだった。
青春小説としてはそこそこ
卑屈な少年が『悪い虫に憑かれた』ためおせっかいになってしまい問題に首を突っ込まされるという物語。
虫のせいで物事に首を突っ込まずにはいられないっていうのが読んでて面白かった。逆に言うとそこまでしないと他人の揉め事に首を突っ込まなそうな主人公なんだよな。卑屈で性格悪くて何かあるとずーっと引きずってて、……うわ嫌なやつだな……。書き出しててこいつ……という気分になってきた。
そんな主人公だから、人助けもそうそううまくいくわけがない。
幼馴染の少女が虫に憑かれ家から出られなくなったとしても、出来る限り関わりたくないと逃げようとする。けれど虫に憑かれているから関わってしまい、それが嫌でああ~~~~と自己嫌悪するようなそんな面倒くさいやつ。
そんな面倒くさくて嫌な主人公が、姫宮さんの力を借りて、他人に憑いている虫が何か解明する物語。
個人的はバッタの回が面白かった。
バッタの群生という特徴にクワガタの特徴、一匹だけ変化出来なかったバッタなど、どれもこれもが面白かった。
今自分が住んでいるのが仙台なこともあり、あーあのへんね……というのがわかるのも面白かったなー! だいたい小説の舞台って東京か京都のイメージがあるので近隣だとわくわくする。面白い。
バッタの少女が練習しているあたりも、だいたいこの辺かな?と頭の中で想像しながら読んでいた。わかるわかる、でもファミレスってサイゼかな……サイゼだろうな……。
先輩がすごいパフォーマンスをしていた、だから自分たちも団体競技に出たい。
そのためには人数が必要だから、たくさんの人に部に入ってほしい。
そんな純粋な願いから事件が始まっていたというのも切なくてよかったし、結局大人数パフォーマンスは出来ないとしても、バッタ少女のさらに後輩が、バッタ少女が先輩に対して抱いた感情と似たようなものを彼女へ持ったというのが、良かったね~~~~~!!!と思えた。
さらには、この話の姫宮さん!
クワガタの特性を理解している彼女だからこその攻撃! 姫宮さんもきらきらしてた。直後に潰されるけど、でも本当に彼女の活躍が良かった。幼馴染の話では特にいなくても良いんじゃね?とすら思ったからなおさらに。
部活モノという青春小説としてすごく良かった。きらきらしてた。
仙台が舞台の小説ってあんまりないんだよね。
伊坂幸太郎が書くのとジョジョの何部だかが仙台が舞台なのでそれなりにありそうな雰囲気だけど、ラノベだと本当に少ない。
だからこういったもろに仙台!と出てくる小説を読むと嬉しくなってしまう。近所が出ると面白いよね!
ただ、読んでて気になったのが、これ幼馴染の回は虫を理解できなくても問題解けたよな? と思う。
現状出ていた内容で私だって理解できた。わざわざソスウセミの話を持ち出してこなくても解決できたんじゃないのかな。
幼馴染の少女はそのことを考えないようにしていたから理解できなかったとしても、主人公はわかってもおかしくない。そうすると姫宮さんの立場がなくなっちゃうから仕方ないとこはあるんだろうけど、別に虫なくて良かったんじゃないのかな。
そういったちょっとした箇所が気になった。
あと、主人公が相当性格悪い。
学級委員に(虫のせいで)手を上げてしまったとはいえ、その仕事をほぼまともにしない。ホームルームでも話をまとめるでもなく、幼馴染少女にほぼすべてぶん投げてやってもらってる。
いやお前、仕事しろよ。やれよ。いくら虫のせいとはいえやれよ。
それに関してもひたすら地の文でへらへらと言い訳してて、読んでて不快感が募る。いやいやいやお前仕事しろよ。
他人が好きな漫画について話しているときに、そこに割り込んでいって「あの話ありえねえわー!」みたいな話をするやつがいるか。
そんな方法で友達作れるか。
なんなんだお前は。本当に何なんだ。
まわりもそんな主人公に対してこいつは嫌なやつだからと認識していてそういう扱いを受けているとは書かれている。
でも、クラスの誰にでも声をかけてくる男ぐらいしか主人公に声をかけてこない~という描写ぐらいで、でもってクラスメイトで幼馴染の少女は話しかけてくれるので、あんまり実感がないんだよな……。
ついでにいうなら姫宮さんの卑屈さも読んでてしんどい。
やろうとすれば2巻も出来る内容ではあるけれど、他の人の評価がよっぽど良いんじゃなきゃ読まなくていいかなという感じ。
青春小説として読むんなら、主人公の性格さえ許容できるならばかなり面白いと思う。作家買いとしては求めてるものはこれじゃない。