「就業規則に書いてあります!」労務管理、アニメ会社での労務に転職しました。

★★★☆☆,メディアワークス文庫お仕事,現代

あらすじ

仕事は「好き」ですか――? 喜び悩める、働く全ての人に贈るお仕事小説。

平河東子は大手企業人事部の労務管理。社員皆が健やかな職場環境を作る事にやりがいを感じていた。だが業績悪化でリストラに。叔父の伝で再就職したのは、違法すれすれの労働が蔓延る、下請けのアニメ制作会社だった――!
過剰な労働時間、最低賃金を大幅に下回る月収。日常的なパワハラ、セクハラ、従業員の失踪……。問題だらけの「8プランニング」の労務管理者になった東子は、”アニメの鬼”と怖れられる演出担当・堂島蕎太郎をはじめ、業界の闇と真っ向から対決する羽目に!?

超絶ブラックなアニメ制作会社に、新米労務管理が殴りこみ――!? 仕事にがんばるすべての人を元気にする、人事部労務管理のおしごと。

面白かった。
労務お仕事小説というよりはアニメ会社お仕事小説のほうが近いかも。
「好きなもの」を仕事にした人たち、それによって起きる諸問題を解決する物語として面白かった。

アニメ制作会社×労務、どうなることかと思ったが

どう考えても地獄すぎる題材である。そこまでアニメ業界に詳しくない人間(ツイ廃)が見ても、事あるごとに叫ばれている酷い労務条件たちのお陰で相当相性が悪そうなのはわかる。 だからどうなのかな、とわくわくしながら読んでみたものの、そのあたりは肩透かしだった。

労務条件は悪いし延々と酷い状況だったんだけれども、それよりも仕事上発生しうる諸問題の解決をメインにした話だった。

とはいえ物語自体はすごく面白かった。アニメも見ない、ゲームもしない、制作会社にいる人たちがこれだけ情熱を向けている作品をほぼ理解できていないながらも尊重したい主人公が、アニメ制作に愛も情熱も命も捧げているものの性格的には口が悪くて素直じゃない堂島にやり込められたり彼の性格を知ったりしながら、少しずつ制作会社について知っていったり、普遍的な職場環境を少しでも良くしようと頑張ってて応援したくなった。

主人公は物語の主人公によくある人の良さでついつい問題ごとに首を突っ込んでしまうし誰かが悩んでいたら助けたい性格なのはわかるんだけれども、口が悪くて仕事に関係ないことはだいたい全部拒否りそうな堂島も、2話で『仕事に差し障りがあると困るから』のような理由をつけて調査に参加してるの面白かった。案外いい人だよな。普通に人が良い。

好きなものだからこそ

あらすじにもある『仕事は好きですか』という問いかけに答えるように、出てくる人たちはみんなアニメを作るっていう仕事が好きでたまらない。主人公だけは「なんでこの仕事してるの?」に対してすぐ答えられないけれども、主人公の周囲にいる人達は、社長である叔父以外はみんなこの仕事を愛している。
だからこそ諸問題を抱え込んじゃったり、問題になっちゃったりというのを繰り返している。

ギリギリどころか無茶すぎる納期を繰り出されても堂島がなんとかやろうしてしまうのは、作中でも言われていたとおり、彼が過去に自分が大仕事1件ポシャらせちゃって非常に悔いているということ以外にも、彼自身がアニメって仕事自体をむっちゃ好きだからっていうのは当然のようにあるよね。仕事の鬼というよりもアニメというもの自体を愛しているからこそ成功させたい。

他の人たちもアニメ制作が好きだからこそ、1話で辞めたがった青年はモブしか描かせてもらえないのが嫌だったし、2話のセクハラ問題の女性は大事にしたくなかった。なんなら2話でセクハラ容疑者(?)にされた男の評価も堂島からは仕事バカと表現されていた。出てくる人たちはみんなアニメという仕事自体は愛している。

作中でも言われている通り、アニメ制作は制作に携わる人がアニメが好きだからこそのやりがい搾取にも繋がりかねない。っていう問題提起はしっかりされている。ここから出てくる、主人公が過去に好きだからで動いて挫折していたというのが出てくるのはいきなりだなーとは感じたけれども。

好きなことに邁進することの、何がそんなに偉いのか。堂島たちの働きぶりを見るたびに、東子は思わずにはいられない。自分のように、壊れてしまうかもしれない。頑張るあまり、家族も周囲も不幸にしてしまうことも。やりがい搾取、という言葉があるが、彼らはその「好き」の気持ちを利用されて、過酷な業務を強いられているのだ。自分たちで選んだ道だろう、と。

けれども好きだから仕事にするというのを否定するばかりではなく、最終的に好きだからっていうのは原動力にもなる、というのも魅せの場面でしっかり出されてたのすごく良かった。この結論が出せるの、最初から今まで、主人公がお人好しとも言える必死さで奔走して仕事に関係ないんじゃないかというぐらいまで誰かの悩みを解決しようとしてきたからだよね。労務という仕事自体が、社員が皆より良く勤められる会社を作り出すためにある。誰かのためにある。なんでこの仕事しているの?と問われて今まで答えられなかった主人公が「好きだから」と他の社員と同じ理由を今度こそ堂々と出せたの超良かったし清々しかった。

ただ、3話目はそれこそ好きだからこそで押し付けられて発生した事件だけれども、今回は相手方の会社に明確な落ち度がありそこ突っ込んでどうにかなったものの、今後もし不正の流れではなく相手の企業が本当に作品を良くしたいからで何度も何度もコンテ変更を出してきた場合は同じ手は使えない。その時主人公はどう対処するんだろうな。人はそう簡単には変われないので堂島はまた無茶をしてでも完成させようとしてしまうだろうし、それを次に止める手段はないので。

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