「恋人以上のことを、彼女じゃない君と。」疲れた社会人同士のヒューマンドラマ

★★★★☆,ガガガ文庫お仕事,同級生,恋愛,現代

恋人以上のことを、彼女じゃない君と。

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あらすじ

たのしくて・気を遣わない・ラフな関係。

元カノと夜を共にした。ブラックな仕事に疲れた山瀬冬は、ある日大学時代の彼女・糸と再会し飲みに誘う。愚痴や昔話に花を咲かせ、こういう友達関係もいいなと思っていた矢先、酒の勢いに呑まれてやってしまった。後悔する冬だが、糸は「謝っちゃだめ」と真剣な表情で制す。「ちゃんとしようとか言わないでよ。ただ心地良いから一緒にいようよ」糸も疲れていたのだ、社会が強要する正しさや、大人としての不自由さに。こうして二人は『仕事とか恋とか面倒なことは抜きで、ただ楽しいことだけをする』不思議な関係を結ぶ。社会に疲れたアナタに贈る、癒やしとちょっとエッチな短編連作。

すげー面白かったし雰囲気が好き。
古い人間なのでライトノベルといえば中高生向けで少し現実から離れたぐらいの鮮やかなファンタジー物語と一瞬頭に浮かべてしまいがちなところがあるんだけれど、それとは真逆レベルに離れた、人生に疲れた社会人がそれでも寄り添い合って少しでも呼吸しやすくしよ!って感じの話だった。
ライトノベルっていうよりヒューマンドラマとかそういう区分のほうが雰囲気合うかも。

仕事にお疲れ状態の主人公と、仕事にお疲れ+最近ろくでもねえ彼氏と別れたばかりの元カノヒロインが偶然再会し一夜を共にした流れから、二人で「一緒に現実を忘れる関係」を築く、というのが曖昧さでとてもいい。
社会人だからこそどうしても付きまとう面倒くさいあれこれや仕事のあれこれを完全に投げ捨てて馬鹿やりたくなるときはあるけど、案外それって一人でやるのは難しい。だからこそ互いにこうして全力で一緒にちゃんとしてないことをやれる人に出会えるってすごい助かるし嬉しいよね。作中でも言われているけれど、二人がこのタイミングで出会えて本当に良かった。
カラオケでフリータイムで入って馬鹿みたいに歌ったりするというド健全すぎるぐらいの健全と、付き合っていないのにラブホに行くという不健全すぎる関係の入り交じる二人の曖昧さが面白かった。
ちょいちょい出てくる「昔はできたのに今はもう体力的に無理!」、いやお前ら24歳だろうが! 24歳でそれを言うな! まだアラサーですらないだろうが! と読みながらちょいちょい突っ込んでしまった。挿絵のヒロインはどうみてもめっちゃ若いしラノベだから仕方ないとは言えあんまり年齢感じないのでなおさらに。

ちなみにあらすじにちょっとエッチなとあるとおり、社会人だけあって不健全行為の回数は地味にちょいちょい多め。しかし描写が全然濃くなくさらっと描かれてるので、最近のエッチなラノベの雰囲気を期待して挑むと悲しいことになる。なおさらヒューマンドラマっぽさがあった。
あらすじを見て「社会人同士のえっちな展開読みたいぜ!!!!!!」と読んだ人間が「申し訳有りませんでした……」と頭を下げる感じでした。わたしのことです。

一番好きなの、午前の仕事をフケて現実逃避にお台場の観覧車に乗りに行くシーン。
行き詰まっているときって自覚できなくて、全部終わってあとから思い出してから「あーあのときはそうだったよね」って気づくもので、そういうときに気付いて一緒に現実逃避してくれる人がいるのってすごく助かる。

読み終えて考えてみれば、これでけえ問題の解決は全然してないんだよな。
ヒロインの側で大問題な父親の問題はなにひとつ解決しておらず、転職云々もここからどこまでうまく動かせるかわからない。ヒロインの母親もよろしくねえ雰囲気がぷんぷんしている。
でも社会人モノってのを考えると、このぐらいの、全然きれいには収まらないけど少しだけ意識が切り替わって前に進めましたっていうほうが収まりが良いというか現実味があるよね。
これで高校生ものなら父親に一発ガツンとなにかしらやってほしいところなんだけど、大人になって金も体力もある社会人もののほうがそこらへんで動けなくなってしまう。

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