
あらすじ
ドキドキすると心の声が勝手に送信されてしまう!?
「やっぱり僕は君のことが――大嫌いだ」
「気が合って嬉しいわ。私もあなたが大嫌いよ」
地上900mの赤坂タワーが見下ろす経済特区・東京都白銅区の学園で、高校一年生の有栖川譲と赤坂彼方は毎日毎日いがみ合っていた。
だが二人は実はテレパシーでつながる「不正能力者」。権力の不正を裏付ける存在として、正体がバレれば国中から追われてしまう!
しかも能力は時空を超えて!? 最悪の事故から始まる襲撃、誘拐、逃避行。
特区を支配する大企業、暗躍する公安警察、陰謀論――絡み合う思惑から逃げながら、運命共同体の二人は距離を縮めては反発し……心拍数とともに加速するSF×青春×逃避行アクション、開幕!
6年前から突然、突然の条件が合致するタイミングでテレパシーで互いの思考が強制ダダ漏れ垂れ流しになった主人公とヒロイン。そんな二人が、テレパシー能力の発動の時差を利用して逃避行を繰り広げるSF恋愛青春モノ。ケンカップルは最高。
時差式テレパシーの活用法
口では文句を言い合い喧嘩しあう二人だけれども、心拍数の急激な上昇が発生したら考えていることが伝わってしまうという設定が面白かった! だからこそ、相手のちょっとした発言や行動でドギマギした場合、運が悪いと相手にそれがダダ漏れになってしまう可能性があるという危険さよ。今まで離れた場所にいたからこそ、不意打ちの相手の発言や交信でミスったり馬鹿なことをしてしまったり、けれどもちょっとした相談相手にもなってもらっていたりと交流を深めていた二人の関係性が、口では嫌い合いつつもそこはかとない信頼がある様子がにじみ出ていた。
このあたりで「お、めっちゃラブコメじゃね?」と思っていたのに、中盤から物語が急展開する速度感が面白い。
二人の間のテレパシーは3分の時差がある。ヒロイン→主人公は3分前の相手の思考が伝わってきて、主人公→ヒロインは3分先の相手のが伝わってきている。つまり、主人公がヒロインに伝える内容は未来からの連絡であり、うまく使うと最悪の自体を回避することができるようになる。
この設定が出てきたのが、主人公がトラックに轢かれる寸前。ここから物語はSFに変化していく。この急展開っぷりよ。こういう物語のジャンルが変わる話ってわくわくする。
タイムマシーンを作ってるやべえ科学者が現れて、主人公たちの能力に目をつけて狙ってくる。それを3分という時差を利用したテレパシーによる実質タイムリープで逃げまくる。けれども科学者側も冗談じゃなく知恵が回るので主人公たちの思惑を理解した上で、能力の当たりをつけて追い詰めてくる。延々と窮地が続く状況。
ケンカップルは良い……ケンカップルは……
口では嫌い合っているヒロインと協力しなければ捕まるという状況で、それでも軽口を叩けるのって、強制的かつ時々迷惑な交信でつながっていた6年間の積み重ねがあるからなんだろうな~。
ヒロインの危なっかしい性格もわかっているからこそ、主人公も頭を巡らせて策を組み立てられる。この二人の逃避行って、二人だからこそ大丈夫!感がすごい出ていてワクワクする。
そもそも会話では嫌い合ってるとはいえ、口が悪いだけで信頼し合っているし、相手の弱いところも理解しているケンカップルなんだよなあ……。いや付き合ってはいませんが、お家の関係上付き合えなさそうですが、それはそうとして関係性が良いんよ……。相手の体調不良や精神的に弱っているのも、今までの6年間で何度も見てきた。おかげで相手について最も理解しているっていうのがエモい。
ヒロインのむちゃくちゃな行動に驚かされたりしつつも性格をわかっているからこそうまく軌道修正し続ける主人公が応援したくなる。
また、主人公とヒロインのお家の関係性も面白い(インタレスティングのほうの面白い)よなー。
主人公の家は昔はデカかったが、ヒロインの家が会社の都合で潰したようなもの。そのせいで主人公の母は主人公に「ヒロインの家を潰せ」と呪詛のように吐き続ける。
完全に毒親すぎるわ……。主人公がことあるごとに言うしヒロインも当然のように主人公ののぞみとして言う「褒められたい」は、もともと主人公から母への願いだったんだろうな。結局それは叶えられることはないだろうが。
最後に主人公が呪縛から断ち切るというか、どうにか必死でもがいて逃れられたの本当に良かったし、二度と連絡しないぐらいじゃないとあの母親はどうにもならん……妹ともども逃げ切ってくれ……。
「君にしか聞こえない」にSFとお家騒動と大逃走劇を添えて
この3分間の時差があり最悪の事態を回避するって様子を読んでると、ある程度の年代のラノベ読みだと乙一のきみにしか聞こえないを思い出すと思う。
あっちは頭の中の携帯電話に突然誰かが話しかけてくる。電話相手と交流しているうちに仲良くなるが、途中で相手と自分の電話の間に時差があるのが発覚する。ラストは主人公の事故を時差がある電話キャッチしてる相手側が防いで――という落ち。
この「大っっ(略)っ嫌いな~」も途中に起きるトラック事故を時差のあるテレパシーで防ぐというところは同じながらも、そこから未来を変えられるのを利用したSFタイムリープ活用逃走劇にしているのが印象深いし面白かったし、つぎどうなるのかとわくわくした。
更にそこに主人公とヒロインのお家の事情に大逃走劇が含まれるので、物語としててんこ盛りで面白い。
やーーーーっぱ敵はどこまでも強大なほうがいいのよ……。危険タイムマシーン作成科学者にお家のしがらみなどの問題はひとまず片付けたものの、今度は公安相手にこのタイムリープ能力片手にあれこれする必要がある。
素直になれないケンカップルのこの先も気になる。ところで2年続刊がない。
