「恋は夜空をわたって」容赦なく青春の瑞々しさを詰め込んだお話
あらすじ
「……あれ、この声、御簾納じゃね?」
ある晩、適当に選んだ配信から流れてきたのは、聞き覚えのある声だった。
小柄なのに大人びた、お洒落な美人。つれない態度のクール系後輩、御簾納咲。
そんな御簾納が生配信!? しかも、話しているのはまさかの“恋バナ”。リスナーからの相談に乗って、自分の片思いの話までしていて……なんか普段とキャラが違くない!?
そのうえ、俺は気付いてしまう。御簾納が話す“好きな先輩”。
それがどう考えても、俺自身であることに……。
ラジオが二人を近づけていく、配信青春ラブコメディ!
読んでてひたすら青春!!!って味がしてすごい読みやすかった。
とあるきっかけから後輩が自分を好きかもしれないと知ってしまった、一方的に知ってしまったことへの罪悪感や困惑、本当に彼女が自分を好きなのかカマをかけようとする、カマかけの失敗、逆にカマをかけられたり、委員会の仕事で一緒にでかけたり。
どれも良く言えば王道、悪く言えばありきたりなものばかりなのに、何故かすっげーーーー青春感じて読んでいてひたすらにやにやしてしまった。
主人公があんまり『彼女は俺が好きだから』で胡座かかないのも良いのかもしれない。彼女の配信を聞いて一方的に好意を知ってしまったことへの罪悪感や困惑が最初のうちは全面に出ているのが、主人公のいい人っぽさが出ててよかった。
後輩ちゃんが語る主人公が結構美化されちゃってるのがいいんだよね。それこそ恋に恋した少女ってかんじで。
彼女が配信で語る主人公についてのエピソードは、どれも確かに記憶にはあるものの、かなり脚色され主人公がイケメンっぽく語られる。惚れた瞬間についての過去の記憶なので美化されている、恋は盲目などとわかりつつ、うわ青春……とにやついてしまった。とはいえ実際の状況を知っている主人公としてはたまったものじゃないし思わずツッコミメール入れちゃうのもわかる。
「けれど、表現方法が僕に合わなかったな」
それでも、彼は端的に。恥じる様子もなくそう言ってのける。
「露悪的に過ぎる。これでは、思想にたどり着く前に拒否感を覚える人も多いと思うよ。特に、僕らぐらいの若者であればね──」
*
『──その言葉でね……うん。すごく気持ちが楽になって。名作といわれてても、合わないことはあるんだなって思えたんです。そのことを恥じなくてもいいんだって』
(中略)
──そして俺は。
ようやく好きになられた経緯を把握した俺は──、
「ち、ちがうよ……!」
焦りに(またもや)椅子から立ち上がっていた。
「俺マジで、普通に読めなくて、御簾納にそれを打ちあけただけだよ! しかも結構情けない気分で! ていうか、そんなカッコいい言い方しなかっただろ! 『大事なことが書いてある気がしたけど、描写エグくて無理だった。高校生にはきついわ』とかだっただろ!」
ここ好き。そんなん記憶にねえすぎる。あまりに美化すぎる。
でも恋ってそういうものだよね。好きな人のちょっとした行動を美化してしまうし、恋は盲目すぎる。それにしてもコレは記憶を美しい思い出にしすぎて笑うし、聞かされている主人公が耐えられなくて赤っ恥なのがわかる。
少し前だったらツイッターの裏垢を見つけたっていうシチュエーションなんだろうけど、それが配信っていうリアルタイムコミュニケーションになっている。文字じゃなくて声のため、そのときどんな雰囲気かわかる。落ち込んでいるか、無理しているか、楽しそうか、そういったものが伝わってくる。そういう部分が面白かった。
最初から最後まで、ひたすら青春を煮詰めたものを読み続けるような小説だった。