「嫌われエースの数奇な恋路 (電撃文庫) 田辺 ユウ」
あらすじ
五〇人である。前年の甲子園予選で決勝戦まで残った結果、北条館高校の女子マネ志望者は爆発的に増加した。
その決勝戦敗北のA級戦犯にして今は男子マネとなった押井数奇、通称「嫌われエース」は五〇人全員を門前払いしようとするが、一人だけ残った強者がいた。蓮尾凜。
ぱっと見は深窓のお嬢さんな美少女ながら、強気で不遜で唯我独尊。そしてどうやら過去になにか因縁があるらしく、やたらと数奇に構ってくる。
そんな凜と一緒に、数奇はチームを甲子園に導くべく奮闘することになるが!?
「嫌われエース」と変人美少女が織りなす、笑いと感動のさわやかストーリー!
頭の回転の速いツンデレはとても良いもの
ツンデレ最高。
この物語には二人のツンデレが存在する。
一人は表紙にもなっているマネージャー志望の凛。どうやってもマネージャーになろうとぐいぐい来る、言うこときつく、ツンとデレ部分が明確にわかれていて、言うことはきついがやることはしっかりとやるタイプ。
そしてもう一人は、現在野球部のエースたる晴臣。主人公の数奇に対して口にするのはほぼすべて嫌味。しかしその言葉の裏にしっかりと数奇を認めているのがわかる(けれども数奇には通じていない)ツンデレ。
男女のタイプの違うツンデレ二人に挟まれている主人公がひたすら最高だった。
あえて言うなら、解説と実況のいないリーゼロッテ×2に囲まれた主人公。
ツンデレ読解回路のない数奇にはひたすら嫌味に聞こえるが、いやいやいやどれも好意と照れ隠しと言葉がきついだけでめっちゃくちゃお前を信頼してるし好きだし好きでしょう!?となってしまった。ツンデレは解説役が必要……。
凛のツンデレはわかりやすいというか、もしかしてクーデレあたりに分類されるのかな?
わかりやすいし、途中で数奇が彼女の感情なんかに気付いていてよかった。青春モノとしてすごく可愛かった……。
そんでもうひとりのツンデレ、晴臣。
晴臣が主人公に対してひったすらに嫌味を言いながら、そのすべては根底に数奇へ早く野球部へ戻ってこいとでも言いたげな部分があるのめっっっちゃよかったな……。
「わかってるならいいんだけどね。シニアの頃、僕が押井に次ぐ二番手投手だったことが汚点にならないようにしっかりやってよ、じゃ、これ片付けといてね。マネージャーもどきさん」
「ああっ! 使ったものくらい元に戻せ、メガネ野郎!」
晴臣は如雨露を置いてさっさと球場から出ていった。
俺に次ぐ二番手だ? バカ野郎、お前は打つ方で俺が足元にも及ばないくらい活躍してたじゃねえか。嫌味にもほどがある。
主人公は晴臣の発言を嫌味だと取っているんだけど、いや全然ツンデレじゃん!? 自分より投げれたんだし今だってそうじゃねえのみたいな気持ちが根底にあるじゃんこれ!
読んでいて晴臣ーーーー! 誰か! 数奇に晴臣の発言解説を! 実況を! してやってくれ! と拳を握りしめてしまった。誰かこのツンデレなんとかしてくれ。
野球部員の反応がきつすぎ&主人公が自罰的すぎ
嫌われエースというタイトル上かなり根底部分の話になっちゃうんだけど、私が運動部を経験してないこともあって、野球部全体の数奇に対する反応になんでそんなになってんの?と思ってしまった。
いくら数奇が「自分が投げたいからです」と弁明したとはいえ、昨年の状況はどう見ても数奇以外ろくに投手がいなかった。投手以外の選手を投手に回すのって高校野球ではたまにあるけどそこまで多いことじゃない。投球練習をあまりしていない以上、あの状況で晴臣がピッチャーをやったとしても負け、晴臣にその責が行くだけじゃないのか。
そう考えたら数奇の発言は人のためだってわかると思うし、というかあそこまで数奇一人に対してきつく当たるのもおかしいんじゃないのかと思うんだけどなあ。
野球部全体どころか、マネージャー志望で来たものの辞めていった女子生徒たちの発言見る限り二年生以上全体に広まっている噂っぽいし、それもどうなんだ……?と思ってしまった。