「推しに熱愛疑惑出たから会社休んだ (角川スニーカー文庫)カネコ 撫子」大人同士のやわらかな恋愛風景が愛おしい
あらすじ
独身会社員の俺・新木吾朗は、清純派アイドル・桃花愛未の大ファンだ。
ある日、彼女の“熱愛疑惑”が報じられ――ショックのあまり会社を休んだ。
週刊誌には、コンビニ前で彼女が男の手を握っているかのような写真。
「……これ、俺じゃね?」
そこには以前財布を拾ってあげた女の子と自分が写っていて!?
さらに『疑惑についてお話したいことがあります』SNSに届いた怪しいメッセージ……俺を呼び出したのは、渦中の桃ちゃん本人!
グループを脱退すると言う彼女に、それでも応援し続けると宣言した俺が、
「特等席から、私を見守ってくれますか?」
推しの日常と、再起の道に寄り添うことになるなんて。
タイトルから想像するよりも、かなり社会人同士の恋愛っていう雰囲気の小説で驚いた。もっとポップで軽い傾向の話かと思っていたら、主人公がサラリーマンであるということがかなり全面に出ている話となっている。
また、主人公が32歳、ヒロインが27歳アイドルということで、それなりに大人同士の恋愛なのがしっとりとした雰囲気で良かった。
最後がマジで突然読みづらくなったのはなんだったんだ……?
オタクと推しだけれども、社会人と取引先としての関係
長年推してきたヒロインが、ほとんど付け火されたような炎上(しかも相手が落とし物を拾っただけの自分)で引退する、という状況から始まる。
そこから主人公が自社の会議で出てきた知名度アップについてでポスターに推しを起用できないかと話題にあげ、部内会議が通り、稟議書を作成し、彼女を呼び出して自分の部下も一緒の場で仕事の依頼として彼女に頼み、そうして彼女との距離が徐々に近づいていき……という、主人公のサラリーマンという属性がガンガンに話に関わってくる。
この、元推しだけれども現在はアイドルをやめている彼女と、仕事で関わりが出来て連絡先を交換して少しはやり取りする友達以上ぐらいの関係になる、という距離感がすごく良い。
二人の間にあるのは、アイドルであった彼女を応援する気持ちと同時に、仕事という関係性なんだよ。仕事があるからつながっていられるみたいな瞬間も確かにあり、けれどもそれを越えて友達という関係性になるのが読んでてエモかった。ある意味取引先の人みたいな関係性の相手にどこまで近づいて良いのかと距離感を推し量り合う様子がさり気なくすごく良い。社内恋愛よりも、やっぱり社外取引先との恋愛に近いかもしれない。
ふたりとも社会人としてしっかりしてるところも好感度高い。
主人公は推しを自社のポスターに起用というある意味オタクの夢を叶えるような行動をしているが、そのために資料作成だの連絡だの自力でやっているし、ヒロインと仕事として会うときは毎回後輩など誰かしらを伴っている。この誰かしらを必ず伴っているっていうのがすげーさりげないけど好感度高いのよ、社会人として。
もちろんプライベートやヒロインと偶然会うという場面では二人っきりもあるけれども、社会人として会うシーンは誰かいる。すげえよこいつ。
ヒロイン側もしっかりしていて、辞めてからスカウトされたときに、スカウトしてきた会社を法務局できっちり調べていて、正しい!って言っちゃった。そう、それは正しい行動。
互いに、主人公は彼女は前にはいたがしばらくはドルオタをしていた男、ヒロインはアイドルという立場で、恋愛も疎い。そのためちょっとずつ距離を詰めていくが、いきなりぐっと詰めたりはしないという静かさも良方のかも。じれったいのだけれどもそこが良い。
同時にどちらも成人してそれなりの年数が経っているので、会話も軽妙ながらも落ち着きがあって、読んでてくすっと笑ってしまった。この年齢だからこそ素直にあけっぴろげに感情を伝えることは出来ない、感情がストレートに出ていないがうっすら伝わってくる。エモい。
ヒロインが次第に煙草の匂いになれていったってのが良いんだよ~~。最近のラノベでは少ない喫煙者主人公の吸う煙草の匂いを覚えてしまい、主人公の煙草の匂いがついてしまった上着を愛おしく思うの、もう最高すぎた。
ただ、そこまでは良かったのに最後の告白シーンの読みづらさが凄かった。
名詞が全部二人称になっていき、主人公の一人称が俺と僕が混在する。明確に名詞を出さないほうがエモが上がるのはわかるんだけど、一気に読みづらくなったなーっていう印象が強かった。てっきりヒロインを追いかけてるパパラッチないしはストーカーが再度ヒロインを見つけて追いかけてきたんかと思ったわ。