「日和ちゃんのお願いは絶対4 (電撃文庫)岬 鷺宮」非日常のなかで日常を続けることの重さと、非日常を生き抜く重さ

★★★★☆,電撃文庫セカイ系,両片思い,付き合ってる,学園,恋愛,現代

日和ちゃんのお願いは絶対4 (電撃文庫)岬 鷺宮

日和ちゃんのお願いは絶対4 (電撃文庫)岬 鷺宮

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あらすじ

「さようなら。深春くん」
 あれから、季節は巡り……数か月。
 日和のいない日常は、それでも続く。世界がもう壊れてしまって、混沌への道を辿っていると知っていても。
 そんななか準備を始めた文化祭。それは、失われる「日常」を守ろうとする深春たちの、精一杯の抵抗だった。そして、彼らがやがて結果を出そうとする、その頃に――

 彼女は、再び深春の前に現れる。

 葉群日和。
 世界を変える「お願い」の力を秘めた女の子。
 〈天命評議会〉に戻ると決めた、深春の彼女だった女の子が。

「とても、単純に。わたしは、頃橋くんの気持ちを知りたいの」

 日常を守ろうとする少年と、その終わりを知りながら帰ってきた少女は、ふたたび言葉を交わし――このセカイと同じように、終われない恋の、続きが始まる。

シリーズ: 日和ちゃんのお願いは絶対

深春パートと日和パートが完全に日常パートと非日常パートに分かれて進んでいくさまが怖かった。なんだよこの話……ちゃんと最後に救われるのかよ……怖すぎる……。

非日常が日常になった世界で、それでも日常を続けようとする深春

大半の流通が途絶え食料品はだいたい自給自足、学校へ来てくれる教師も少なくなっていくし、そもそも学校へ来られる学生たちも減っていくような世界で、それでも日常というものを続けようとしていく人間の強さや頑張りがぐっと来た

教師が足りないならば、高校生らが小学生たちに勉強を教える。足りないものは自給自足の人間版だね。そんななか、深春と卜部がそれぞれ方向性は違いながらも良い先生をやっているさまにほっこりさせられた。
チャキチャキと教えてくれる卜部先生、誰かが疑問点を上げたら自分もわからないからと一緒になって調べてくれる深春先生。どっちが良い先生ってことはなく、18歳のまだ子供でしかない深春らが小学生らにどうやったら勉強を教えられるかというのを考えた結果というのがまた良い。

3巻で、こんな状況でも深春の担任の先生である田中先生が頑張って授業を続けようとしてくれたのが本当にぐっと来たんだよね。大人が責任を全うしようとしてるって。その結果、深春らが自分より年下の子供たちに同じように教育を受けさせようとする様が、なんて言ったら良いんだろうな、助け合いだし今よく言われる自助であり、同時に本当に緊急事態なんだなと感じた。
前の巻では守られる子供であった深春らがこの巻だと教える先生であり頼られるお兄さんお姉さんなのがさぁ……。見方を変えれば立場が変わるという話ではあるんだけど、なんかすごい辛いな。日和が子供であっていいはずなのに子供でいられなくなってしまったのを連想させられる。

ハレとケという言葉が今回の巻には出てくる。今まではハレだった非日常がどんどんケになっていく状況で、それでもなるべく日常を維持しようとし、空いた穴は自分たちで頑張って埋めていく姿は、緊急事態ってこういうのあるよねと思った。
そもそも3巻で学校が休校から再開したときにも思ったけれども、学校があること自体が日常を維持しようという行為だよなあ。もう大学もないし企業だって動いていない。受験もないから勉強しなくたって良い。そんな状況でも教育は必要だと考えて勉強するし、学校というコミュニティ自体が心の拠り所になる。LINEもたいてい不通で時々一気送信されるような日々じゃ友達と会うための連絡もなかなか取れないし、そうだよなぁ。

この状況で、日常のなかでのハレである文化祭を開催しようと奔走する姿が、頑張って日常を過ごそうとしているようでたまらなかった。そうなんだよ、めちゃくちゃな事態だからこそ日常にあったお祭りを再現したいよな。こういうときだからこそ少しでもアガることをやりたいよな。わかる。
そんなことやっている場合ではないと対立してくる中学校副教頭の勅使河原先生の理屈もわかるからこそなんとも言えない。

3巻の感想でも言ったけど、このシリーズって明確な悪者っていうのがいないのかも。いや1巻にテロリストが出てきて学校は封鎖されたが、まあそれは例外として。
勅使河原先生の「こんなときだからこそ教育は必要」も、心の拠り所としてという意味もあるし、この先世界がどうなるかわからないという希望的観測があるのもあるし、なによりここの地域は高校がちゃんと存在しているからこそ中学生らを高校にいける学力にしてあげたいからというのもわかる。そういうのが伝わっちゃうから全然敵って思えないし、実際深春らも真っ向からぶつかっていったり熱意だけで挑むのではなく、自分らの代わりとして協調してくれている高校の先生を出して大人同士の対話にしてみたりとやり方を変える。

子供たちの頑張りの結果、文化祭が開催出来て、圧倒的非日常状況で行われる日常の非日常シーンで泣けてきてしまった。開会挨拶や閉会挨拶の深春や卜部らもじんわり来てるのがまた良いんだよなあ。

非日常を日常にして、非日常を生きなければならない日和

文化祭という日常と、人が死ぬような地帯という非日常。
対話する深春らと、対話なしに『お願い』を行使する日和。

深春らがそれでも日常を生きようと足掻くパートと交代で入ってくる日和の非日常、エグいよ。怖いよ。深春という日和が一人の少女でいられる部分を切り捨てた結果、日和がお願いの行使に一切のためらいがなくなり、敵味方問わず必要と認識したときに使っていく化け物になっていく。
対話というものをほとんど切り捨てちゃってるんだよね。話してほしいときには話してとお願いする。攻撃しないでとお願いすることで危険地帯にも向かう。難民受け入れ地域も全部選定し、受け入れさせる。
深春らが対話で文化祭を成功させたのとは真逆だった。なんなら深春は日和に「なにか出来ることはない?」と訊かれて勅使河原先生にお願いを使ってもらうことを考えたけれども結局自力で行っている。徹底して対話にこだわる深春らの日常シーンとは真逆だった。

でももう対話とか言ってられるターンでもないのもすげえ伝わってくるんだよな……。安堂さんの死が決定的で、もう『お願い』という強い指示で自らを守らないと危険しかねえもん、この世界。そんな非日常のなかで生きていってるなら仕方ない。でもやるせない。

日常のなかの非日常で小市民として生きている深春らのシーンと殺伐とした世界で生きてる日和のシーンがくるくる入れ替わるからこそ、この世界がもうものすごくめちゃくちゃになってるのが見える。ミクロとマクロの両方から見る、猛スピードで壊れていく世界。

そんな非日常で生きている日和がそれでも学校に通おうとするのがいじらしいし、それでも深春を好きでいるのがなあ……。もうなぁ……。
けれども、日和が友人たちに『お願い』で言うことを聞かせている部分で、もう日和は元の日和じゃないんだなって一番感じてしまった。

この世界どうなっちゃうの……

そりゃあ人間の悪意だったらお願いである程度どうにかなるもんな、このシリーズにふさわしいのは人間以外からもたらされる破滅と終焉だよな。おそらく隕石が降ってきた? のかな?

評議会が無くなったら自分の隣にいてほしいという日和の願い、それってもう評議会が解散した今、地球が滅亡するまでの間に隣りにいてくれっていう願いなんだよなぁ……。セカイ系ってそういうものとはわかってるけど、ついこの間まで日常を生きてきた18歳のする願いとしてはあまりに重たすぎる。
これ5巻が最終巻らしいがハッピーエンドになってくれるんだろうな!? ちゃんと幸せに終わってくれるのか!? ハッピーエンド保証はどこにもないしもしかしたら地球滅亡エンドの可能性のほうが漂っているが! 大丈夫なのか!?

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