「BAT 吸血鬼探偵オリバー・サンシャイン」二人が保護者と被保護者になっていく、海外ジュブナイル風物語

★★★★☆,富士見L文庫お仕事,バディ,ファンタジー,吸血鬼,家族,男性バディ,疑似家族

BAT 吸血鬼探偵オリバー・サンシャイン

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あらすじ

NYの高校に通う心優しいナード少年オリバー。ある日不可解な事件に巻き込まれ母親が重症。自身は奇跡的に回復したが、体の様子がおかしい。やがて訪れた教会で、オリバーは自分が吸血鬼になってしまったのだと告げられる――。
 戸惑いながらも、母親を救う手立てを求めたオリバーは、怪しげな私立探偵ヤンに預けられる。だがヤンは、暴力折檻も厭わない吸血鬼専門の事件解決請負人だった! 半人前の吸血鬼として躾けを受け、時には命の危険を感じながらも、オリバーはヤンと共に怪物絡みの事件を追うことになり……?

おもしろ! 前にバディものとしてめっちゃおもしろいなと思ったEATの作者さんの小説で、微妙にキャラクターも一部共通。とはいってもよくスピンオフにある「あーこのキャラ別作品にもいそう」くらいのものなので、前作を知らなくとも覚えて無くとも読みやすかった。
今回はバディというよりも疑似家族物、偶然出会った二人が保護者と非保護者の関係になる物語って感じ。

海外ジュブナイルっぽさがすごかった。もしくは洋ドラの翻訳小説っぽさ。
出てくるワード(スーパーマン、ヒーロー)のセレクトや喩えとして出てくるコミックがアメコミばかりという部分やクラスカーストの雰囲気などが合わさった結果かな。
主人公の面倒くさかったりどちらかというと他者に文句をつけがちだったり、ここまでしてるのになんで評価してくれない!?という思考部分に、日本のラノベよりも昔読んだダレン・シャンやハリポタやタラ・ダンカンを思い出したせいかも。いやこれもかなりめちゃくちゃな言い方ではあるんだけど。
前作はもうちょい大人向けというかレーベル相応の年齢向けだったけれども、これは対象年齢がすごく下がったような印象がある。

事件に巻き込まれて吸血鬼となってしまった少年が、死にかけの母親も吸血鬼という形で生きてほしいと思うが、吸血鬼退治や人外事件を請け負う男のところに預けられて人外の生き方や事件を見ているうちに、本当に母も吸血鬼として生かしたほうがいいのか?と悩む物語っていうのでいいのかな。

多種多様な海外の人外が、実際出てこずとも種類や名前だけでも出てきまくるのがおもしろい。
主人公が預けられているのが人外の起こした事件対応をする男のところなため、様々な人外の起こした事件が持ち込まれる。けれどもその人外はなんて種類の誰なのかがわからない。一体なんて人外なんだ? と考えるキャラクターたちによって、吸血鬼という大まかなくくりだけでもかなりの数が出てくる。

「ドーベルマン、シベリアンハスキー、チワワ、シェパード、マルチーズ――これらを総じて何という?」
「犬?」
「それと同じことだよ。一言で吸血鬼と言っても、国や地域によって姿かたちや造形が違うんだ。最初の一体となる始祖がいて、その子孫たちが世界各地に散らばって、それぞれの国や地域で独自の進化を遂げてきた。ロビショメンというのは、ブラジルに伝わる吸血鬼の一種のことさ」
「へえ、そうなんだ。他にはどんな吸血鬼がいるの?」
「ロビショメンは人を襲うが、命までは取らない。奴らは経血の臭いを嗅ぎつけて獲物を見つける。襲われた被害者全員が月経中だったとしたらこいつで辺りだろうが、この種族はまだニューヨークでの発見例はないはずだ」

そんな方言みたいな……と思ったけど、たしかに犬にも種類があるなら吸血鬼も全然違うのぐらいいるわな。吸血鬼なりたて少年の主人公と学ぶ、人外多種多様講座。

母親が瀕死で弱っていく状態、唯一の家族だからと母を吸血鬼にしようと頑張っていた主人公が母を人のまま死なせても良いと思えた理由のなかに、当然ながらリズの血を吸いたくなった自分はどうしても人外だと認識してしまったことや、人外が起こした事件をいくつも見聞きしたこともあるんだけど、ヤンという年上の保護者を信頼できたっていうのがあると思うんだよね。
もしヤンがいなかったら、可愛いと思っている同級生の血を吸いたくなるような化物になってしまったという自覚を持っても、人外が起こしてしまう恐ろしい事件をこの目で見ても、母親という唯一すがれる相手を死なせるって選択肢は取れなかっただろう。そういうところすごく子供なんだよね、主人公。いやほんとジュブナイル……。

徐々にヤンが保護者になっていき、主人公が非保護者になっていく、この関係性の変化めっちゃ好きなんだよ。
きっかけはおそらくいじめっ子を殴って呼び出し食らったあたりだよね。伯父として、家族として現れたヤン。その後、何度も何度も「友達と仲良くしろよ」って言ってたのが印象深い。ヤンってそういうこと言うようなキャラだった?と思ったし、そこでヤン側も家族とかこいつの保護者として呼ばれる立場なのか……と認識したのかなって思った。
さりげなくオリって呼ぶようになったところが熱い。家族じゃん。もう。

なんてことはなく出てた要素が終盤に回収されるのが好きなので、序盤に子供の居場所を調べるために買わされたアイテムであり、領収書をモーガン刑事に押し付けて怒られるギャグのために出てきたんだと思ってたスーツが、最後の最後で物語に大きく関わってくるの超良かった!!

バディもの期待して読んだらめちゃ良い疑似家族ものが読めてすげえ良かった。

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