宇宙へ”飛ばせた”者の物語「月とライカと吸血姫 3」牧野 圭祐
あらすじ
宙と青春の物語、連合王国編始動!
――これは人類史に残る偉大なる一歩。連合王国に、その礎を築いた若き二人がいた。
人類史上初をかけた有人宇宙飛行計画で、共和国に惨敗した連合王国。劣勢に立たされた王国議会は、途方もない計画を宣言する。
「我々は、人類を月面へ送り込み、帰還させることを約束する!」
王国南部の宇宙開発都市<ライカ・クレセント>の研究所では、同時にとあるプロジェクトが進んでいた。アーナック・ワン――それは『民族融和と科学技術大国推進』を打ち出し、汚名を払拭するための広報プロジェクトだった。
新人技術者のバート・ファイフィールドは、連合王国初の宇宙飛行士アーロンの弟であることを理由に、その人間代表に選ばれてしまう。そして、吸血鬼の末裔である新血種族代表は、アーロンの飛行を成功に導いた才媛カイエ・スカーレット。
研究所での仕事と、宣伝活動の二足の草鞋。不慣れな日々の中、バートはカイエの秘めたる想いを知っていく。
「――私は月なんて、大嫌い」
華々しい宇宙飛行の裏側には、語られることのない数多の人々の情熱が確かに存在した。宇宙を夢見る技術者の青年と新血種族の才媛が紡ぐ、宙と青春の物語がここに!
1,2巻は宇宙を飛んだ者の物語、3巻は宇宙へ"飛ばせた"者の物語
1巻であまりにきれいに完結した物語の2巻は蛇足になるのではないかと思ったら、非常に美しい2巻が出てきたと思った先日。
2巻までできれいに完結しているんだから3巻は流石に蛇足だろと再度考えていたところに読んだ3巻。
蛇足なんてそんなことはない、あまりにきれいに青い物語だった。
ちょっととぼけているところもあるけれども数式にめっぽう強い女性と、家族について引け面のある青年のボーイミーツガール(ボーイでもガールでもないけれど)、そこから始まる空と憧れと異種族の融和についての物語、すごく良かった。
仮面ライダー555やキバが好きな人は月とライカシリーズ合いそう。多分会う。
共和国にいる飛ぼうとする人の物語だった12巻とは違い、今度は連合王国側、そして飛ばせようとする人の側の物語となる。
今度のコンビは当時のコンピューターを操る新血族種(人間と吸血鬼のダブル)才媛のカイエと、有能な家族たちを引け目に感じているバート。
この物語としての対比が面白い。
そうだよね、飛ぶ人がいるなら飛ばせる人たちもいて当たり前。しかし1巻2巻を読んでいる最中はそんなこと全く考えもしなかった。
ロケットの弾道計算、パラシュートを開いてからどう落ちるかなどを計算し、正しい数値を出す彼女たち。彼女たちのような人の働きがなければレフたちも空なんて飛べなかったんだろうなと改めて思わされる。
そりゃそうだよね、どんな物事だって裏方の人がいるもんね。
そして、吸血鬼たちと人間の間にある差別意識と種族の違い。1巻や2巻でも出ていたそれが、明確に示されたのがこの巻。
イリナは吸血鬼ということでただ隔離されていた。そこにレフが現れた、という印象のほうが強い。
しかしこの連合王国の巻では、吸血鬼や新血族の人々は人間と一緒に働いている。だがその環境には明確な扱いの差がある。
新血族の人たちは給与も低い。仕事もどんどん奪われる。人間に迫害されている。そういった立場の人たちのしんどさがじわじわと描かれていく。
こういうのひでえよなと思ってもまあ実際にあるものだしな……となってしまうの、マジで物語がうまい。
ところで私は人と人外萌えというか、具体的に言うと仮面ライダー555のオルフェノクと人間の関係性萌えというか、仮面ライダーキバのファンガイアと人間の関係性萌えというか、要するに井上敏樹の描く人間と人外の融和萌えめっっっっっちゃあるんだけどすごいそれだよね……。
人と外見もしくは内面がめっちゃ似ているんだけど明確に違う箇所があるからと差別されている人間みたいなのたちと人間が、種族の垣根を超えて手と手を取り合いなにかに向かって駆け出す、そういうのめっっっっちゃ好き……。
ライカのシリーズってそういうのが近くて、目的に向けて(前述のライダーよりは人間と人外の距離感が近いし人間に迫害されているけれども)手を取り合って歩いていく、そういうのほんとよかった。
今回もラストでバート主導でデモをするシーンが本当に……。めっちゃ良かった……。
表紙もすっごい良いよね、旗を持って歩く彼女たち。いつか目の前に迫害などなく手を取り合う未来が広がってほしいと思う。