「嘘つきリップは恋で崩れる (GA文庫)織島かのこ」コンプレックスや問題解決をしていく、静かな恋愛小説
あらすじ
おひとりさま至上主義を掲げる大学生・相楽創平。彼のボロアパートの隣には、キラキラ系オシャレ美人女子大生・ハルコが住んでいる。
冴えない相楽とは別世界の生物かと思われたハルコ。しかし、じつは彼女は……大学デビューに成功したすっぴん地味女だった!
その秘密を知ってしまった相楽は、おひとりさま生活維持のため、隙だらけなハルコに協力することに。
「おまえがキラキラ女子になれたら、俺に関わる必要なくなるだろ」
「相楽くん、拗らせてるね……」
素顔がバレたら薔薇色キャンパスライフは崩壊確実!? 冴えないおひとりさま男と養殖キラキラ女、噛み合わない2人の青春の行方は――?
あらすじ通りの内容なのに、読後の感覚が全く違う
あらすじを読む限り、距離なしでぐいぐい来るヒロインとやれやれ言いながら付き合う主人公が一緒にいるうちに恋仲になっていく物語だし、実際中身自体もかなりそう。なのに想定されるテンプレ内容とはかなり違って感じるのはなんでなんだろうな。
ヒロインである晴子は、お一人様でありたい主人公・相楽にグイグイ来る。互いに記憶にはほとんどないが同じ高校の者同士。晴子の希望である友達100人できるかなチャレンジに協力してくれる人としてロックオンされた相良が晴子の手伝いをして彼女の友人が100人できるように協力する物語。
晴子はもともとあまりグイグイ行けるタイプではないため相楽の出していく課題をクリアしていく――と見せかけて、それが行われるのはほんの少しだけ。そこから次第に、互いのコンプレックスや問題に向き合う物語になっていくのが意外だった。
それぞれのコンプレックスや問題を解決するための物語
ヒロインである晴子のコンプレックスは、素顔がものすごーく地味なこと。地味だけれども元来の努力家気質で顔面をものすごく可愛くできるようになった。けどその『可愛くなりたい』『友達がたくさん欲しい』も、今までの学生時代に勉強ができるがゆえに「晴子ちゃんって私達とは違う」と言われた経験があるため、彼女たちと同じ可愛くなりたい、異物ではありたくないという思いから発生した感情。友達100人できるかなも似たようなもの。このあたり、読んでてものすごく理解できた。
友達欲しい、でも「私達とは違うから」で拒否られた、だから可愛くなりたい。すげーわかる~~~!! 仲良くなりたい子と同種の趣味や外見を持つことで一緒にいられるというの、理屈としてすごく納得できた。
そして、努力家故にメイクでめちゃくちゃかわいくなった晴子は、自分はメイクで可愛くなったのだけどこれは素顔ではない、だから周囲の人たちを騙しているという認識を持ってしまう。これも晴子が根底は真面目だから発生しちゃうものだよなー。素顔は可愛くないからこそ素顔になったら嫌われるのではないかと不安になる。晴子のそういうところが読んでていじらしい。可愛い。なんだこれ。
そもそも読んでて晴子がめちゃくちゃ可愛いんだよー!! これは行動の話もなんだけど!! グループワークで他のメンバーはあまり真面目ではないからと一人で作業することになってしまっても、できることは一生懸命やりたいと言うような努力家。大学デビューでそこまで可愛くなれるぐらいにメイクが上手になったのだって本人のたゆまぬ努力ゆえ。とにかく好感がガンガン上がる。
やったことある人ならわかると思うんだけど、化粧って面倒くさいし金がかかるんだよ。可愛くなるってめんどうくさい。可愛くなるための下準備もなるための工程も、正直わたしは何もかも面倒くさくてかなり諦めてる。でも晴子はそういうのを面倒とかだるいとか思わない。毎朝1工程1工程丁寧にメイクしてる。ラノベあるある突然ぬるっと最高のメイクが出来上がるんじゃなく、地味な工程を重ねて可愛くなっていく。読んでてこのコすげーって本気で思った。
こういうのを見ていたら、そりゃあ相楽も手助けしたくなる。わかる。好きにもなる。
晴子は距離なしって言うより、友達100人つくりたいがための一生懸命さと、元来の真面目さからくる面倒見の良さなので、距離なしヒロインというより幼馴染世話焼きヒロインの味がする。可愛い。
主人公である相良も相楽で拗らせというかこっちもこっちで根が深くて、家族関連のあれこれがあったがためにお一人様を貫こうとする。
よくあるラノベ主人公的なのかな? と思わせて、読んでいくうちに次第に「いやこのバイト量はおかしいぞ……」とか「熱中症でぶっ倒れるレベルの節約っぷりはおかしいだろ」とか薄々嫌なものを感じてくる。
晴子が同郷なことから生まれる終盤のシーン、そうくるか!!!となったしめっちゃ良かった。マジで。
少しずつ大きくなってく恋愛感情が読んでてとにかく尊い
そんな相楽が晴子に少しずつ影響されて変わっていく様子や、相楽に対してゆっくりと恋愛感情を抱いていく二人の様子が本当に可愛いし、読んでて面白かった。小さな小さなイベントを積み重ねていって、その上で確かに二人の間に互いを気にする感情や恋愛感情が出来上がっていくの、そんなん最高じゃないですか……。文化祭で晴子を助ける相楽のシーンで「ああ~~~これは好きになりますわ~~~」しか言えなくなったし、「はよくっつけ!!!」と全力で叫ぶ人間になった。これは囃し立てるくっつけ!!です。
どうして好きになったのかがわかる話って、すんなり二人の恋を応援できて良いな。このイベントがあって二人が変化した。こういう出来事が起きて相手への感情が変化した。そういうのがわかるの、読んでてめっちゃアガる。
中盤で晴子が振られて以降、晴子は告白しないまでも相楽のことが好きなのはわかる行動を取り続ける。このシーンたちホントめっちゃ好きで、一度自分が告白して振られているからこそこれ以上は好意の押し付けになってしまう、でも好きなのはどうしようもない、だから相手に自分を好きになってもらおうと努力する、ってお前真面目か!? 真面目だわ! この子めっちゃ真面目だわ! 可愛い! 好き!*
こういう自分の感情をぎゅうぎゅうに押し付けたりしない部分がこの物語でめっちゃ良いなと思うところ。好きになってほしいとか、相手を見ていたいとか、顔を見たいとか、そういうのが小さく小さく積み重なっていくのにきゅんとする。
この二人の場合、物語における敵とか恋愛関係になかなか陥れない理由って完全に本人たちの内面的なものなので、外部に敵を用意しなくともここまで物語って転がせるものなんだな。いや、晴子に水ぶっかけたり素顔晒した性悪女子はいたけどね! 逆にそのぐらいしかいないのが興味深い。
そういや前半は晴子がちょっと嫌がっていようと気にせずグイグイ来る陽キャ男子こと木南、てっきり当て馬で振られてからは逆恨みタイプになるかと思いきや、すごくシンプルに相楽の友人ポジションに収まった挙げ句、気づいたら別に彼女出来てるっぽくて笑ってしまった。陽キャだしコミュ強過ぎる。そんなんあるんかい。めっちゃ良いやつじゃねーか。
晴子がメイクしてるシーンで作者さん女性かな?と思ったんだけど、検索したところ他の作品はだいたい女性向けだった。というか甘党男子はあまくないの人だ!! これ面白いし二人がくっつくまでのじれったさが可愛くて大好き。
この本自体は2巻もあるみたいだしそっち読むのも楽しみ。本当に面白かった。