「インフルエンス・インシデント Case:01 男の娘配信者・神村まゆの場合」ネット事件モノなんだけど片思い描写が最高最高最高

★★★★★,電撃文庫YouTuber,バディ,ラブコメ,先輩後輩,女性バディ,学園,探偵助手,新人賞,片思い,現代

あらすじ

SNSの事件、山吹大学社会学部『白鷺ゼミ』が解決します!(多分)

人気女装配信者「神村まゆ」として活動する男子高校生・中村真雪は、ある日SNSを悪用したストーカー被害に遭ってしまう。
そこに手を差し伸べたのは、優秀だがエキセントリックな大学教授・白鷺玲華と助手をつとめる女子大生・姉崎ひまりだった。

「お願いします。僕を守っていただけませんか」
「任せて。お姉ちゃんたちが助けてあげるから!」
「まずSNSの原理である『六次の隔たり』の考え方に基つけば――」「教授ストップストップ!」
「……あ、あの。そもそも、なぜ僕はひまりさんの膝の上にずっと乗せられているんでしょうか?」

女教授と女子大生と女装男子(インフルエンサー)が、インターネットを起点としたさまざまな事件(インシデント)に立ち向かう!
第27回電撃小説大賞《銀賞》受賞の新感覚ミステリー!!

ネットにまつわる炎上や事件という題材

主人公であるひまりが助手をつとめている相手である教授は、インターネットにまつわる様々な事件を題材として研究している。この研究内容であり作中でもかなりメインに出ているネットの事件が、実際にもありそうなもので面白かった。

人気なインフルエンサーともなれば一方的に他人に知られているけれども自分は相手を知らないという状況が発生しまくる。インフルエンサーだから稼いでいるだろうと一方的に狙われたりもする。インフルエンサーなのでストーカーが発生する。読んでいてどれもうわーありそう……と思ってしまった。

最後のネット炎上した人たちの同盟の話がねー。実際作中で描かれているように、一度炎上したら名前で検索すると簡単に情報が出てしまう。炎上じゃなくとも一度ネットに出た情報は(場合によってはインフォシークやジオシティーズ消滅で消えたものもあるけれども、少なくとも近年の情報だったら)なかなか消えない。ちょっとした友達とのお遊びとしてやって仲間内だけに見せるつもりでアップしたコンビニ冷凍庫や全裸踊りが、インフルエンサーの目についてリツイートされたせいであっという間に炎上し、自分の知らない人たちからも石を投げられる事態となる。

しかも石を投げている側としては、行っているのは自分という個のつもりであっても、投げつけられている側はたくさんの人vs自分。しかも投げるだけ投げてこちらの先の人生をぶっつり途切れさせておいて、石を投げた側はその後のことなんて何も知らない。

そんなん確かに嫌になるだろうし、どうにかして救済してくれと願ってしまう気持ちが分からなくもない。

この話において炎上した人は配信者の同級生の子とひまりのライバルの子以外は悪として描かれているだろうけれども、実際この同盟に入っていた人のなかには、そこまで酷いことをしていないのに炎上状態になっちゃった人もいそうだ。そういうの想像してうーん……となってしまった。

ひまりは最終的に自分の正義を見つけて叫べたけれども、他の人だったらどうするんだろうねというか。

ところで、あらすじでは新感覚ミステリーとあるけれども、ミステリーというよりサスペンス気味。ミステリーだったらもうちょっと読者側に謎を解けるかもっていう部分は提示してほしいかも。

キャラ同士の関係性

真雪に姉パワーを全力で投球するものの真雪がまゆになっているときは憧れの配信者相手ということで微妙に一歩引いちゃうひまり、彼女の圧倒的な強さに恋をしてしまった真雪という関係性も良いんだよ。それは後から語るんだよ。

教授である玲華と助手であるひまりの関係性がもうめっちゃ良かった。玲華が頭脳メインの探偵でひまりが腕力の助手な女バディでもあるんだけど、ひまりが暴走してしまったときに玲華が抱きしめて心音聞かせて落ち着かせたシーン最高だった。

それまで時たま誰かを教え諭す人としての冷静さを見せ生徒ならば無条件で守ろうとしてくれるところは確かにあれど、基本的に冷華はずぼらで我儘で常識知らずでエキセントリックな変な人として描かれていた。ついでにスピード狂。

そんな玲華が、真雪のピンチに暴走しかけたひまりを抱きしめて止め、生徒である存在は守ってやりたい側の人間だからひまりの暴走や危険はあまり認めたくないだろうけれどもひまりのためにタクシーを好きなところに行かせてやるの、完全に信頼だし愛じゃんこんなの。

からの、ひまりが犯人を潰すための隙を作る玲華。もうバディものとして最高すぎるだろう。読んでてテンションぶちあがった。めっちゃ最高。相手の性格を理解して、相手が動きやすいように状況を作ってくれる。バディものとして最高でしょう……。

片思い描写は良いものだ

さっきちょろっと書いたけど、真雪からひまりへの片思い描写がすっっっっっごい良かった……。元々片思い側の視点の物語って好きなので本当にぶっ刺さった。

ひまりは恋愛感情じゃなくて姉みの発露としての感情で真雪にぐいぐい来て膝に座らせたり体調悪いところに看病しに来たりとかなりぐいぐい来るけれども、でも真雪としては恋愛感情があるからこそうわーーーーってなってるの本当に可愛かった。

好きな人には良いところを見てほしいからこそお見舞いに来てくれるっていうから調子が悪いのも無理やりどうにかして部屋を片付けてしまう。好きな人の前でちょっとでもいい顔をしたいから女装メイクもして顔を合わせてしまう。そういうのがいじらしいし可愛らしいし、読んでいてあーもう……この子は可愛い……と何度も天を仰いでしまった。

真雪がひまりに惚れるの、わかるんだよ。姉みみたいなことを言いながら自分を膝にのせて楽しんでいたような年上の女性が、自分のピンチのときに現れてキックボクシングで敵を叩きのめしたら、そんなのギャップで惚れてしまうよ。しかも自分が誰に向けてやっているのかもよくわからないけれども「かわいい」と言ってほしさにやっていたネット配信を見てくれて、しかもファンだって言ってくれて、自分のおかげで楽しくなったみたいなことも言われたら、そりゃ落ちるよ。

ネットへの配信って、ごくごく身近で反応してくれる人以外存在が見えない。先程のネット炎上のところでも言ったけれども、大多数に個として向き合うときって大多数はそういう数の塊でしか無く、一人ひとりの顔は見えない。石を投げてくる人の顔が見えないし、その人がどんな感情で自分に石を投げてきているかなんて本当のところはわかんないぞと思ってしまうのと同じように。それと同じでインフルエンサーをしているときの真雪=まゆだって、自分が虚空に向かって投げ続けているそれを、本当に他のひとが面白がってくれているかどう見てくれているかなんてわかんなかった。そこへ来てどういう気持ちになったとか話してくれて、しかも自分を守ってくれた超絶強くて格好いいお姉さん。そんなん惚れるしか無い。最高か?

最初のほうはあんまり異性として見られていないと思っていたっぽい真雪が、最後のあたりでは完全にそれをうまく使って役得しまくってんの笑ってしまった。お前……どんどん強くなって……。

物語の最後で今回の黒幕が判明、しかもその隣にいるのがひまりがずっと心に残っているライバルとわかったのでこの先が気になる。どう考えても最終決戦ここだよな。このあたりの探偵役としての教授の動きが強くてサイコー。

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