盲目の織姫は後宮で皇帝との恋を紡ぐ (双葉文庫) 小早川 真寛

★★★☆☆,双葉文庫お仕事,ミステリー,三角関係,後宮,恋愛,時代物,片思い

あらすじ

機織り宮女として後宮にやってきた氾蓮香(ハンレンカ)。
盲目である彼女は、目では見えない些細な情報を感じ取りながら生活をしている。

後宮で問題となっていた幽霊騒動も、
盲目であるがゆえに解決できた……のだが、
褒美として蓮香のもとに渡ってきた皇帝の「ある秘密」にも気づいてしまい――⁉
穏やかに暮らしたいけど、暮らせない機織り宮女の中華後宮ラブ&ミステリー!

盲目の機織り宮女の安楽椅子探偵物

主人公は後宮の機織り宮女。村で受け継がれた秘伝の方法でとても素晴らしい帯を織る盲目の少女。
そんな彼女のもとへある日お付きの侍女が持ち込んだのは、あかずの扉の前に幽霊が出るという話だった――から始まる物語。

見えないが故に耳の良い彼女は、様々な『音』を頼りに推理を行う。例えばそれは人の足音だったり、衣擦れの音だったり、誰かの会話だったり。
あまり分厚くない250pという分量に小さな事件が大量に詰め込まれているタイプの連作短編集。

個人的にはちょっとうーん……。
面白い場所と面白くない場所がかなり真っ二つに別れた話だった。
具体的には

  • 事件ものとしては面白い事件とまったくもって面白くない事件がわかれてる
  • 犯人たちは基本的にアホ
  • 恋愛要素があんまり……
  • 恋愛要素の落ちが残念

こんな状況なんだけど、それはそうとして面白い事件がめちゃくちゃツボだったので一概に面白くないとは言い切れない……でも面白くない部分が本当にひどいんだ。

皇帝は二人いる

ミステリーと同時進行で行われるのが、表向きには隠しているが、実はそっくりの双子がいる。政治が得意な片方と女の扱いがうまい片方でわかれ、片方が皇帝をしている時はもう片方は宦官に化け、後宮と政治それぞれをうまく動かしている。
そんな彼らとの恋愛模様も物語のもう一つのメインの内容。

……とはいっても、恋愛要素が若干どころではなく残念だったんだよなあ……。

双子といえど、主人公は『見えないが音で聞き分けられる』キャラクター。なので双子の要素が全く生かされていない。
外見が同じ二人を自分だけ見分けられるという面白さもない(聞き分けられて当然だから)。

また、皇帝二人が主人公に対して矢印を向けているのは序盤からものすごくわかりやすかったどころか二人が明言しているせいで他の皇后や後宮の女たちが嫉妬するぐらいだから良いんだけど、主人公がいつ好きになったのかが読んでいてあんまりわからなかったんだよね。
一応序盤から伏線らしきものも貼ってあったと言えばあるんだけれど、その程度で?と思ってしまう。しかも途中で結構明確に否定している部分があったし。うーん……。

そして恋愛方面の落ちひどくない!?
いくらなんでもそれはないでしょ!?

「私の初恋の相手は、お二人で一人ございます。お選びできません」

ってどういう発言だよ……お前……さすがにひでえよ……。
最初からどちらからも矢印が出ているのがわかっていたし、初恋の相手についてだって「相手が自分に機織りやめさせるっていうなら違う」ぐらいのこと言ってたんだから初恋の相手にそこまでこだわらなくて良くない!?

ついでに言うなら主人公が皇后になると決まったときの現皇后の態度それさあ!?今まであれだけきつめな会話をしておいて、ここでそういう発言したところで、変わり身が早すぎない?と読んでいて戸惑った。

そんな雰囲気でどうにも不完全燃焼だった。

むしろ、主人公カップルではない後宮内自然発生カップルのほうが良いまである。

事件が良いのと悪いのの差が激しい

まず、とにかく証人や犯人がアホ。
ある程度かまをかけると「ど、どうしてそれを……!」から始まって、自分でぽろぽろと証拠になる内容を話し出す。主人公は安楽椅子探偵で証拠不十分なものが多いので隠そうと思えば隠せるのに、証人や犯人たちの頭が弱いのでぽろぽろと話してしまう。
ちゃんと犯罪をする気があるのかな……?

かなりひどかったのが終盤の事件。
今まで死体を頑張って隠蔽していたはずなのに大声で死体を作った理由と隠した理由をペラペラと喋りだして、お前は何を言っているんだ……?
本当にこれで物語的に良いと思っているのか?

もちろん、良いのと悪いのの差が激しいと言ったとおり、上記の部分はひどいけれども、良い部分もあった。
具体的には事件の動機がかなり好き。第四章の物語が最たるもので、私がそういう要素が好きであるという加点要素があるけれど、それはそうとしてすごく良かった。後宮だったらそういうことが発生しても良いよね、という。

はっきりと言ってしまえば「后妃になってね」と好きな相手から言われてキレて自殺し罪を好きな女に引っかぶせ絶対に自分を忘れられないようにした女という女女超巨大感情(相手の女からもちゃんと好意があった)。
こんなんみんな好きでしょ……好意のすれ違いからの永遠に手の届かないところへ行ってしまう絶望……。

この他にも、恋愛絡みの動機はどれもおもしろかったし、それによって発生していた人間関係はすごく好きだった。
もうこの人、下手にミステリーにせずに後宮の人間関係短編集とかにすりゃよかったんじゃないのかな。ミステリー部分が壊滅的にひどい。

個人的にはとても残念な本だった。

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