「さくらだもん! (実業之日本社文庫)」 加藤 実秋
あらすじ
安楽椅子探偵の新ヒロインさくらちゃんに釘づけ!
警視庁=通称・桜田門に勤める久米川さくらは、ドジでちょっぴり腹黒な事務職員。
毎日のんびり雑用をこなしていたが、エリート刑事・元加治が持ち込んだ密室殺人の謎を鮮烈なひらめきと推理で解決して以来、事件解明に協力することに。
無差別殺人、窃盗、爆破予告……数々の怪事件にさくらちゃんが挑む!
ユーモアたっぷり新感覚警察ミステリー。
(事件は軽くないけど)軽く読める警察ミステリー
1本が文庫本で30p前後のかるーい時間で読める警察ミステリー小説。ちょっとした時間があるときにぴったりな分量ですごく良かった。
読書メーターで見た感じ、元々ウェブ連載か何かだったみたい? だとすればこの分量も納得。ウェブで読むならこのぐらいの分量だと読みやすいよなあ。かるーくさくさく読める(中身は殺人事件に爆破予告に殺人事件と生臭いが)ミステリーですっごく良かった。
仕事は出来る限り長時間はやりたくない、定時退勤がモットーの警視庁事務員さくらちゃんへ問題を持ち込んできたのは童顔な同期の元加治。彼の挑発に乗っかって、持ち前の洞察力を使って事件を解決したことからその他の事件解決にも参加していく。
……とはいえ、さくらは表舞台には出る気はない。問題を解決しては、あとは元加治へ細かい調査も出世もお偉いさんとの会合もぜーんぶ押し付け、彼女はきっちり5時に定時退社していく物語。
このさくらちゃんが良いキャラしてるー!
洞察力が高いとはいえ、それは主に腹黒いイベントに使われる。具体的には、ペット禁止の官舎に住んでいる嫌な他部署の人の体に猫の毛がついているのを発見し、おそらく猫飼いの人と不倫しているのだろうと推理してエチケットブラシをプレゼントして圧力をかけるだとか。あらすじのちょっぴり腹黒は完全に嘘だよさくらちゃん。十分腹黒だよ。
同じ部署の人たちもいちいちキャラが濃い。加藤実秋作品に必ずといっていいぐらいにいる古い着メロの元ヤンもいる。好きなのかと言いたいぐらいに確実にいるよね、元ヤンのおねーちゃん。
毎回さくらに事件を持ち込む同期の元加治くんがすごい良い塩梅の人だな。
さくらに事件を持ち込み、彼女がそういうの面倒がっているからとはいえ、彼女が本来は得るべきはずだった称賛や出世などを得ている――と言ってしまえば聞こえは悪いが、元加治くん、さくらに構ってほしかったりお喋りしたかったりつながりを持ちたくて事件を持ってきてる雰囲気があるので憎めない。
それに、最初の回で
「(前略)それがこんなことになって、お偉いさんたちは大喜びでさ。『直々にねぎらいたい』って、刑事部長に呼ばれてるんだよ」
後半は声をひそめ、周囲を気にしながら告げる。あっさりと、さくらは返した。
「ふうん、よかったじゃない」
「よくねえよ! 俺と一緒に来てくれ。刑事部長に本当のことを話すんだ」
と、ちゃんとさくらを前に出そうとしてくれてるもんな。たださくらがそういうのを
「え~、やだ。面倒くさそうだし、出世欲とか上昇志向とかないから。そもそも、もう五時だもん。私、定時で帰る主義なの」
で一蹴しちゃってるからだけどね!
ほんとさくらと元加治くんの関係好きだな……。元加治くんがおそらくは勇気を振り絞って最終話ではあんなことまで言っているのにさくらは一ミリたりとも意識してないし恋愛対象として視界にすらいれていないし、それが鈍いうざい女風味ではなくああ~……これ単純に完全に脈なしっすね……という雰囲気で描かれているから読んでて不快感もない。すごい塩梅だな。
気になるといえば、この長さだからしょうがないんだけど、物語が全部パターン化している部分。
元加治くんが問題を持ってくる→さくらが嫌々ながら受ける→事務の人たちとのあれこれ→問題が解ける→元加治くんが出世する(笑)
元加治くんが「お前のおかげで俺がまた褒められた! 今度こそちゃんと言うぞ!」というとこまで含めてのパターン化。面白くてめっちゃ良いし水戸黄門的な安定感もあるんだけど、謎にひっかかるという部分などが何もないのでちょっと物足りないかも。あとさくらの仕事中のシーンオンリーなんでオフの話も見たかったかも!
分量的にさくさくよめて面白いミステリーだった。
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