「こんな小説、書かなければよかった。」百合の横で支える男が良い男すぎる

★★★★☆,ガガガ文庫友情,学園,現代,百合

こんな小説、書かなければよかった。

こんな小説、書かなければよかった。

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あらすじ

親友の恋を、わたしは小説に閉じ込める。

「ずっと一緒に――隣にいてくれる?」「うん。永遠に」幼い頃に交わした約束。それ以来、わたしとつむぎは何をするにも二人一緒で、変わらない関係のはずだった。それなのに――。
「私、恋がしたいんだ。しおりはそれを小説に書いて?」
体が弱く入院中のつむぎが口にした『お願い』は、彼女と、わたしの昔馴染みの男の子との疑似恋愛を小説に書く、というもので――。
一つの『お願い』から変わり始める、わたしたちの関係。恋と小説の中に、つむぎが求めるものとは?
わたしと彼女、そして彼とで紡ぐ青春物語。

「私、恋がしたいんだ。しおりはそれを小説に書いて?」
体が弱く入院中のつむぎが口にした『お願い』は、彼女と、わたしの昔馴染みの男の子との疑似恋愛を小説に書く、というもので――。

このあらすじを見てこの中身を想像できる訳がないだろう2023のトップを飾ったこの作品。
どう考えても親友と元彼が付き合うことで発生する三角関係ものだろ。むしろ嫉妬しているのに余命◯年の友人の願いだからと小説に書くために二人の行動を逐一見なければならない自分という切ない物語だろ。
どうしてこれで百合(非恋愛ではあるが強感情が存在する)が来たんだよ。いや最高か???

この話、女の子同士の友情というか強感情の話ではあるんだけど、そこに挟まるというか横に添えられた少年後野くんのポジションがものすごい。
後野くん視点からしたら、この話めっちゃハーレムというか三角関係の芽があったんだよ。
病院で会った少女は、中学時代によくおしゃべりをしていた同級生が話題に上げていた病弱少女。病弱少女との諸々のあれこれの末に、彼女の恋人役を請け負うこととなる。余命◯年系病弱少女の病室で、中学時代に親しくしていた同級生との再会。病弱少女とのデートを小説にしなければならないからとついてくる同級生とも実質デートでお喋りをして数年ぶりに距離を縮める。
こんなんどう考えても『最初は契約上の仮初めの恋人だったはずなのに、徐々に病弱少女との距離が縮まり淡い恋を抱いていく。けれども同級生も実は自分に好意を持っていて――』じゃん。友情と恋の間で揺れ動く二人の物語じゃん。
でもこの話で後野くんはそんな百合の間に挟まる男ではなく、徹頭徹尾百合を応援しファインプレーを決め続ける男をしていた。なんだこれは!

デートの彼氏役、主人公に小説を書かせるための発破かけ、主人公が困ったときのアドバイスといった良いスパイス役。そして間違っても恋愛っぽい行動はなにもしない。
全体的にほのぼのとした雰囲気をもつ少年なので、いてもそこまで脅威にもならない。まじで百合のそばにいる男としてすげえポジショニングと性格だな……。
このほのぼのとした空気と性格が良い味出してるんだよね。デートの行き先を考えるときに、病弱少女が良いところならどこでもいいよーと全く持って参考にならない発言をし続けるところ好きだよ。ほのぼのしすぎて選択には向いてなさすぎる男。

結局最後の最後まで良い友人ポジションを一切崩さず存在していた彼、本当にめっちゃ良い男だった。結局後野くんも主人公に小説を書いてほしかったのが行動理由というのがエモ。

ただ物語として全部が全部好きだったかと言われればそんなことはなくて、主人公の染み付いた奴隷根性のような親友のわがままきこうとし続ける関係性がちょっときつかったかも。
過去に親友を傷つけたことがあるので親友のために行動しなければならないと思いこんでいる。友人のように軽口を叩くけれども表面上であり、その行動や発言自体も結構親友のための部分が強い。
部活に入らず親友の病室に通いつづける。親友側から「そんなのしなくていいよ」と言われるけれども、今までの行動の積み重ねを考えるとそれが試し行動にも見えてしまった。

それ含めて独善という言葉でまとめていて、主人公と親友どちらにもかかるものとしているのは物語として素直にうまいなーと認識したんだけど、主人公の結局のところかなり親友のためで、やりたいことを見つけたと親友が嫉妬した小説を書くという行動すらも原点を見つめれば親友のためというの、ちょっとグロいなって。

誰かのために行動するのは独善で、でもそれでいいじゃないかと落としているし、ずっと「主人公の行動は独善じゃないのか?」「親友の行動は独善じゃないのか?」と思わせていたところでこの落ちを持ってくるのはうまい。
でもそれまでの行動が独善かつ自己犠牲が強く、親友側がその自己犠牲を己のわがままで誘発していたところを見ていたため、あまり良かったねと手放しでは言えなかった。

こんな小説、書かなければよかった。

こんな小説、書かなければよかった。

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