「推しの認知欲しいの?←あげない」誰かを推すってどういうことか
あらすじ
謎の覆面系音楽ユニット『たぶん、きっと、月の下』のボーカルであるderella(デレラ)の正体は、あたし、有真手毬(ありさだ てまり)。
普段は、どこにでもいる女子高生で、しいて挙げるとすれば、あたしには好きな人……うそ、大好きな人、星地春永(せいち はるなが)がいる。彼は、あたしの幼馴染であり、大切な『家族』でもあるんだけど――
「derella大好きだよ~~~~~~!!」
そう……何故かハルはあたしではなく――derellaを好きに。いや、ガチ恋になっていた。もうホントに……どうしてこんなことになっちゃったんだろう。……でも頑張る!! 絶対ハルに――有真手毬を好きになってもらうんだから。
すれ違いまくりのガチ恋ラブコメ、ミュージックスタート♪
主人公を好きなヒロイン、ヒロインを家族のように大事にしている主人公、そして主人公がガチ恋しているネット配信者の中身は実はヒロイン、という最近増えてきたタイプの物語。
なんだけど、これ、誰かを推すってどういうことかとか、そのときの感情とかすごい考えさせられて面白かった。
歌い手であるderellaにガチ恋を公言している主人公だけれども、彼女が配信者で顔出しNGでリアルライブがないから現場もなく、リプはキモくなりそうなので送らないと自分に課している。そんな主人公が、じゃあ推しとどうなりたい?と問われ、考えた結果が『認知してほしい』。
そこから、彼女に誕プレと手紙を送ろうと決めて、他ジャンルのオタクやってる友人のファンレターを参考に見せてもらったり、幼馴染と一緒に雑貨屋で便箋などを見ているうちに、次第に『認知してほしい』から『自分の感情を伝えたい』『感謝を伝えたい』に変化する。
これって推すという行動において、結構デカいというか、相手からのなにかが欲しいというのから相手になにかしたい(見返りを求めない)になるのってすごい大事な気がする。
認知してほしい、ファンサが欲しいっていう方向に行くと、どうしても推し活ってすごいしんどくなってくるときがある。特に推しが三次元の場合。二次元だとこちらを認知してくれることって絶対にないんだけど、三次元になると認識してくれる可能性が上がって、認識してほしい、こっち見てほしい、ファンサしてほしいになる。でも推すって元々はそうじゃないし、なにか伝えたりプレゼントを贈ったりするってそういうことじゃないんだよな。感謝を伝えるだけであり、それで認識してほしいっていうのはまた違うんだよなー……というのを読んでてすごく考えた。
この小説、主人公の地の文や台詞がかなりオタク特有ハイテンション早口で、それに乗れるか乗れないかが面白がれるかどうかのポイントな気がする。人によってはウザさを感じるかもしれない文章だけれども、わたしは読んでてめちゃくちゃおもしろかった。こんなオタク、ツイッター(現在X)に無限にいる。ウケる。
こういうノリが良くてわかるわかる~~!ってなる文章すごい好き。
そんで、主人公のその『好き』やオタク特有早口を否定するキャラがほとんどいないのがこのラノベのいいところなんだよね。
一人いるっちゃいるけど、彼女も主人公のオタク特有早口が嫌いというより、自分の親友と仲が良いから主人公が嫌い、だから否定するっていう雰囲気と、加えて自身もモデルをやっているからこそ過激派ファンのヤバさを知っていて、だからこそ恐怖や危険性を理解しているからこそ嫌がっているという様子。
主人公が同担拒否なこともあり同担はほぼ出てこないんだけれども、周囲の人たちも何かしらを推していて、なにかを好き!という気持ちが強いのがすごく良かった。
また、人によっては接触有りのアイドル推してたり、野球の球団推してたりと、推すものがバラエティ豊かなのもすごい良かった。そうだよね。推し物って同じアイドルグループ推しの話になりがちだけど、学生だとむしろメインのコミュニティが学校である以上、同担よりも完全に全く知らんものを推してる人同士の話のほうが多いよな。うちの推しは接触できないけどそっちの推しは接触できるの羨ましい……みたいなトークに笑ってしまった。
物語のメイン張ってるヒロインから主人公への片思い恋愛ラブコメもすごく可愛かった。
このヒロインがノリが良いし突っ込み全力出だしで、出てきてすごく可愛い!読んでて楽しい! 主人公や他のボケ気味キャラとのノリの良い掛け合いが読んでいて楽しい。主人公を好きだからこそのあわあわとした慌てっぷりも読んでてすごいにやにやしてしまう。
主人公もヒロインを恋愛感情ではないけれども家族や妹として心底大事にしているのがわかるし、ヒロインがそれを焦れったく思っているのがわかるからこそ、ヒロインいけー! がんばれー! と応援したくなった。本当に微笑ましい。
自分じゃない自分に恋していて好意を全力で顕にしている主人公にやきもきしたり嫉妬したり、自分のほうを見てほしいと思ったり、でもそれは自分だと思ったり。ぐるぐる悩んだりするところも本当に可愛いし、青春!って感じで微笑ましい。ぐるぐる悩んだりとは書いてみたけどそんなに深刻な描写はされないところもいいよね。深く思い悩んだり本気で怒り続けたりするわけじゃなく、次のシーンではまたけろっと明るい様子を見せてくれるからこそ、読む側もストレスためたりセずに読める。
とはいえ、主人公のガチ恋相手がヒロインの歌い手としての姿なので、三角関係としても誰かが可哀想なポジションになることがなく、なにがどうなっても優しい世界だな。
書いてて思ったんだけど、この話嫌な人っていうのがほとんどいない。当て馬や邪魔者というのがほぼおらず、ヒロインを全力大好きして主人公に牙を向いてくる親友キャラぐらいしか邪魔してくる人もいない。
主人公に気があるような様子を見せる女キャラもいないのでヒロインの嫉妬したり嫌な面を見せるイベントもない。周囲の人にヒロインから主人公への片思いがバレていて、むしろお膳立てするような様子を見せてくれる人の方が多い。なのでキャラの嫌な面を見ないまま、全員可愛なーと思えた。
それでも物語として面白いのは、主人公が一方的に好かれるだけのラブコメとしてじゃなくて、ハイテンションガチ恋オタクが推しとどうなりたいか自分を見つめるというストーリーがあったからなのかも。本当に面白かった。