「教え子に脅迫されるのは犯罪ですか? 3時間目」論理男、めっちゃいいじゃんお前
あらすじ
中高受験指導塾で働く塾講師・天神の前に突如として現れた、差出人不明の謎のラブレター。
「中学生に見境なく手を出しておいて、このロリコンナメクジ……」
「きょうの、りんは、とってもわるいこ、なので!」
――それをきっかけに、仲良し小学生たちの人間関係は完全崩壊、仲悪し中学生たちは美術館でダブルデート、おまけにスクール水着でデッサン勝負!?
大混乱の塾と天神のピンチを救ったのは、
「関係者全員を集めてください――わたし、犯人、わかっちゃいました」
――天下無敵の美少女名探偵(自称)!?
恋する教え子×冷ややか先生で贈る、ミステリちょっぴり恋愛たっぷりの刺激的すぎる年の差三角関係ラブコメ第三弾!
今回も物語としておもしろ! 手紙爆弾という統合した他の塾から持ち込まれた悪い文化がどう転がっていくかというのと、ロリコン教師の元に現れた手紙は結局なにか? で物語が転がっていくのが面白かった。
というきれいなまとめは置いといて、人間がそれまでの体面ぶっ壊されるのはやっぱり良いなあ!!!
ロジカルマンみたいに、描写としてムカつく!嫌なヤツ!気に食わない!と読者側が思うように作られたキャラクターが、とあるエピソードで一転綺麗にひっくり返るの、やっぱりどうしても好き。ドンブラザーズにおける桃谷ジロウが最初なんとなくやな感じだったのがカガ村エピソードが入るたびに愛おしくなるのと同じ現象です。
序盤に子供たちをシールでうまく操り論理的に管理していたロジカルマンが、論理の完全に欠けた恋愛っていう行動でめちゃくちゃになるの、めっちゃ良い。恋愛ってやっぱりそういう本人のいつも掲げているお題目がぶっ壊れてしまうものだよなーというのも。
ロジカルマンが好きな相手である日向ちゃんの台詞って中二病拗らせていて相当わかりにくい。シャークあたりは全然理解して無くて、天神と日向ちゃんが会話しているシーンで「二人の世界に入っちゃってる」と描写するほど。そんな日向ちゃんと言葉交わして恋をするって相当の交流があったんだろうし、日向ちゃん自体打たれ弱い部分はあれど夢を追いかけ可愛い子なので好きになる部分はたくさんあるだろうな。そんな日向ちゃんの分かりづらい言葉でのロジカルマンをフォローしているのだけれども実質ひたすらお断りされている言葉を理解できてしまったのが彼のつらいところ。
日向ちゃん的にもロジカルマンの書いた手紙があまりにも彼の論理的な部分と似ても似つかずイコール出来なかったからこそ、手紙の主をロジカルマンと認識できないためにガンガン下げてるし、結果、初めて論理性をぶん投げて書いたラブレターがボコボコにされるロジカルマン、辛すぎる。恋はつらい。
理知的論理的男が恋でめちゃくちゃになり、しかも相手から自覚ナシにめっちゃめちゃに振られる。こんなん最高。最高につらくて最高に良すぎる。
ちびっこ探偵×2のおかげで、手紙爆弾が塾を移動の間に子供たちの間で『好きな人へ連絡するツールになった』というのが出てきて、そこから『塾を移動したのは生徒たちだけではない』『大人も好きな人へと連絡する』『連絡が来ていないのに早く来ていたロジカルマンと日向』が綺麗にまとまっていくの、お話として本当に綺麗だし面白い!!
今回、鶉野姉妹と天神先生とのやりとりがすごく好きで、やっぱりこの人本質的には子供を大事にしている人なんだなと改めて思った。
「中学は義務教育です。義務教育とは、大人側に通わせる義務を課すものだ。通う側が義務を負っているわけでは断じてないんですよ」
「はあ、いえ、しかし」
「冬燕さんがどうしても通えないというのであれば、それは学校側の責任です。環境を改善する義務はあちらさんにある。向こうの怠慢まで、こっちが気に病む理由はひとつもないでしょう──なにを言われたのか存じ上げませんが」
よくあるやり口だ。
公立学校というものは、第一義的に、通わぬ子どもとその家庭に責任を押しつけるシステムが出来上がっている。
親のほうも自分がどこかしら完璧でないことは苦みとともに承知しているから、あとは勝手に自省反省のループに陥ってくれる。馬鹿馬鹿しい。
このシーン。鶉野姉の環境改善をほっといてる学校への怒りが滲んでて、本人はそれを指摘されたらバカバカしいって嫌そうに言うんだろうけれども、根っこのところ子供のために親身になってしまう熱血な人なんだよなあと。こんなんオタク好きに決まっている。
星花の小説個別指導に付き合ってしまうのも、彼女の小説を書きたいという熱意に負けている部分もあれど、根本的なところで教え子に頼られたら応えなければならないという教師としての部分があるんだろうなあ。
ところでラストに落とされた、星花が小説家デビューという爆弾。
前の巻?かな?この巻だったかな?で、社長の書いた小説に対して嫉妬していた天神がどうなるのか。嫉妬って、要するに『自分が先に思いついているかもしれなかった』『自分だって出来た』『なんで自分よりこいつが』の部分に出やすい。
教え子が、己を越えた。今までは自分より下だったから教えているというポジションだったし、こいつのあこがれは俺なんだという自尊も満たせた。けど星花が小説家になったら、そして万が一自分より売れてしまったら、その矜持も自尊心も崩壊する。
爆弾のデカさが本当にデカくてやばい。