「推しに熱愛疑惑出たから会社休んだ2 – カネコ 撫子」大人同士の静かに進展していく恋愛模様が読んでて楽しい+推しを推すことの難しさ
あらすじ
この恋心は、キミ専用。恋する彼女《推し》が、最高にかわいい!
独身会社員の俺・新木吾朗は、清純派アイドル・桃花愛未の大ファンだ。
彼女の熱愛疑惑の相手になって、グループを離れた“山元美依奈”としての再起に関わることになって――そして今、恋人になった。
相手は多忙な芸能人。なかなか会えない日が続くけど、空き時間の家デートやドライブは大切な時間で。
意外と嫉妬深くて負けず嫌いなところも俺だけが知る素顔だ。
そんな幸せを実感する一方……「桃花愛未、いや、山元美依奈さんとどういうご関係なんですか」
偶然知り合った美依奈の後輩アイドル・村雨華から、核心を突く問いを投げかけられ!?
恋と芸能の狭間で揺れるふたりの行く末は――?
大人同士の恋愛がすごく良くて、起伏は少ないものの徐々に相手が大事な人であり心の拠り所になっていく様子が良かった。
けど美依奈の歌手としてのデビューへの物語として見るとかなり中途半端な感じがした。
大人同士の静かに進展していく恋愛模様が読んでて楽しい
社会人同士の隠れて大人な恋愛っていう様子が出まくってて好きなんだよなー! 社会人としての責任感があり、無責任に人前でデートするのは難しいと思っている吾朗、もともと自分が彼女を推していたファンだけあって彼女のためにどう行動したら良いのかわかっている。
恋愛方面の起伏はほとんどないんだよ。穏やかで、距離感がちゃんとあって素敵だねっていうのが最大の印象。不用意にめちゃくちゃイチャラブするわけでもなく、外で人目を気にせずべたべたするわけでもない。
でも、面倒くさいと表現される美依奈だって大人の距離感あるし、四六時中会いたいなんて言わない。自分の仕事のことをわかっているし、夜中に面倒くさい電話をしたりもしないし、吾朗の仕事の邪魔をしたりもしない。
このあたりは同じく面倒くさいと言われていた27歳ヒロインである年カノの織原さんが相当面倒くさかったし彼氏の勉強の邪魔をしていた印象が強いので、全然面倒くさくないよ! もっと面倒くさい人だっているよ! 可愛いよ! と思っちゃうのもあるかも。
相手の浮気を疑ったりもない、アイドルなんだから別れなさい!という人もいない(なんなら事務所の社長である夏菜子さんの様子を見る限り、吾朗がいたほうが美依奈は輝くと認識されているから少なくとも事務所側からの反対は今後もなさそう)。
でも、吾朗が落ち込みまくりそうな美依奈を海につれていくシーンなどで、彼が美依奈の心のぶっとい支えであるっていうのはすごく伝わってくるんだよね。
そういう穏やかだけれどもしっかり大事になっていくシーンって、やっぱり良い。
「さっきの人、綺麗だったよね」
「急にどうしたの」
「否定しないんだ」
「いや……そういうパターンね」
非常に面倒である。無意識かもしれないが、このまま突き進めば恋人のことを束縛する女になりかねない。その可能性を、山元美依奈が持っていた。
この吾朗視点のシーンがすごい好き。文章自体では『面倒な女』『この先束縛されるかもしれない』ということしか言ってないんだけど、でも新しい面を知ったことへの嬉しさ、誰も知らない部分を知る優越感が伝わってきて、うわー面倒っていいながら嬉しさすごいじゃんお前……となる。もうめっちゃ愛しちゃってるじゃん。
こういうのだよ。こういうさりげないのが最高なんだよ!!
美依奈の歌手デビューの話としては消化不良
この巻で恋愛面以外の縦軸って、最初のほうにも出てるしラストにもエモ満載の文章で描かれてるから美依奈の歌手デビューだと思うんだけど、そこらへんの消化不良感がどうにもあった。
美依奈はもともとグループでアイドル活動していたため、今更アイドル歌手としてデビューするためのレッスンなどは不要。じゃあ何が必要かって、作詞と作曲。――というのが出てきたのでそっち方面の話になるかと思いきや、そういうわけでもなかった。
作詞の相手として白羽の矢が立ったのは、いつも吾朗が行く喫茶店のマスター。もともとは有名な作詞家だったけれどもスランプに陥り現在はやっていない。そんなマスターになる前のマスターに「自分のプロデュースした子に作詞をして」と頼んでいた夏菜子が作詞を頼む。
ここまでは全然良いんだよ。
そして昔作曲家志望だった夏菜子が作曲をする。しかしなかなか曲が出来ない。
ここまでも良かったんだよ。
でも、バーでうだうだ管を巻いている夏菜子に吾朗の後輩がアドバイスをして、そして夏菜子が曲を仕上げるという展開が、私はなんか違うなーと思ってしまった。
たぶんそれってこの縦軸部分にも波乱が欲しかったからであって、夏菜子さんとしては波乱っぽいのはあるんだけれどもそれはあまりメインとして現れたりせずスーンと進んで行ったのが物足りない理由なのかも。
でもこれって美依奈が関われないターンなので下手にそっちにページ割いたらそれはそれで違うしなー。難しいよな。
けどそこで盛り上がりがなかったので、最後の美依奈のアイドルとしての再起シーンにあまり思い入れが持てなかったのも事実だった。
思えば1巻のラストもあんまり強い感情持てなかったし、このシリーズのラストととにかく相性が悪いのかも。
……と思ってたけど、それは単純にこのシリーズでエモっぽいシーンを描こうとするときには名前を出さない書き方をするのがわたしと合わない部分なだけかも。
今回だとマスターのところに昔夏菜子さんが来たシーンや、美依奈が吾朗と華の会話を盗み聞きするシーンで顕著なんだけど、とにかく「彼」「彼女」「あの子」「あの人」って書くんだよね。で、わたしがそれでエモを感じないっていうのが悪い気がする。つまりはnot for me。
推しに好きな人がいたり恋人が出来たりって難しい問題
これはあとで更に考えて別記事になるかもだけど。
作中で「好きな人に浮ついた話があったらどうする」という問い掛けがあり「推しが幸せならそれでいい」というやり取りがあった。
これについて思うんだけれども、推しが恋人いるなり結婚するなりしてがっかりって大きくわけて2パターンあると思っていて、片方が自分も好きだから、もう片方がそういう解釈をしていたから。
手の届かない人に恋するのだって自由だし、好きな人が誰かの恋人になったらそりゃ悲しい。例えば相手が同じ会社の人や通勤電車で偶然会うだけの人だって、その人が薬指に指輪をしているのを目撃してがっかりするのも、どっちだって自由だよな。
もう片方の解釈違いはもう本当にただの解釈違いで、料理を食うときががっついてて汚くて冷めましたと同レベルのやつ。わたしはこういう人だと思ってたのにそれと違ったから幻滅したってだけで、どっちだってあるものだろ。
だから推しに恋人がいたときに、それを受け入れられなくて担降りするのなんて本来は自由だし、そのことについてあれこれ言われるべきではないとは思うんだよな。
ただし、そのことについて本人にも見える場所で悪く言うのは、わたしとしてはナシかな。別に法や倫理に反する行動をしたわけではないんだし。
でも好きな人が結婚しちゃったんだってーと愚痴るのは現実世界でも全然存在する会話だよ。その好きな人っていうのが現実の場合は友達だったり同級生だったり知り合いだったりするわけで、その相手がマイナーだからこそ話題にもならず一人への攻撃にもならないというだけで。うーん、難しいな。
まあ芸能人のなかでもガチ恋売りしてるときは話が別で、てめぇの商品価値をてめぇで損なったからその分ファンが消えただけでしょう。そのやり方してるなら恋人のように思える○○さん/くんにお金を出しているので、恋人と思えないんならそこで切られてもそりゃ当然だろ。
ついでに言うとガチ恋売りしてる芸能人が匂わせ系恋人にあれこれされてるのも嫌なんだよな。これはガチ恋売りしているという商品価値を損ねるような人間を恋人にする見る目のなさに幻滅するという話です。ホストなのに本命彼女がいるのがバレるとかに近い。
けどこのあたりもよくよく考えてみれば色恋営業しているホストに恋をするようなもので、お金を介在しているからこそ恋人扱いをしてもらっているのだと考えれば自分が恋人ではないのが当然なわけで、……うーん、でもやっぱり商品価値として恋人だと思えるというのがあるわけで、それがなくなったらそりゃあ冷められて担降りされるよな……。
『それで推しを否定するのって、それまでの自分自身を否定することじゃないですか』
この台詞ですごい考えちゃったんだけど、そもそもそれまでの自分は推しに恋人がいないと思っている自分なわけでしょ。だからこそ、推しに恋人がいるなら解釈違い!で、無理!となるのだって全然あり得ると思うんだよな。
むしろ推しを否定する自分は自分じゃないっていうほうが自分自身の否定につながるんじゃないのかな。推し全肯定こそが自分!っていう生き方をしていたんなら良いけれど。
推すのも担降りするのも本来はファンに主体があって好きにしていいし、恋愛するのも恋人がいるのだってアイドル側に主体があるから好きにして良い事項だよ。
好かれたいからこそ好かれやすいアイドルというロールプレイをするのだってアリだろうし、そのままの自分を愛してほしいからこそそのまんま出力するのだってアリ。
そもそも万人に愛されて全てを受け入れられるなんて不可能なんだよ。さっき出した食べるときのがっついてるのが嫌っていうのだって、他のファンからしてみたら元気に食べてて可愛いになるかもしれない。結婚したのか……俺以外の男と……も、誰かと恋してるところが可愛い!になるかもしれない。
なんだか話がそれちゃったな。
でも美依奈は熱愛(嘘)からのアイドル辞めだったんで、その熱愛相手と付き合ってますと全面に出したりさっさと吾朗と結婚して指輪つけたところでも出したほうが話が早い気がする。