「日和ちゃんのお願いは絶対5 (電撃文庫)岬 鷺宮」日常ヒロイン(主人公)のお願いは絶対!

★★★★★,電撃文庫セカイ系,付き合ってる,幼馴染,恋愛,現代

日和ちゃんのお願いは絶対5 (電撃文庫)岬 鷺宮

日和ちゃんのお願いは絶対5 (電撃文庫)岬 鷺宮

AmazonBookWalker
あらすじ

「お願いです……最後にわたしといて」
 そして彼女は、こう続けた。
「終わりのときまで、二人でいさせて」 

 日和の宣言通りに訪れた「終わり」。お願いの力でもなすすべのない崩壊の中、深春と日和は旅立つ。この壊れた世界で、ふたりだけで生きるために。そして……つかの間の、夢のような日々の先に。
 終わったはずの世界の姿を、ふたりは――俺と彼女は目にする。
 葉群日和。
 世界を変える「お願い」の力を秘めた女の子。本当はごく普通に、俺の彼女でありたかった女の子。
 海と山と坂の街、尾道。あの頃、きっと壊れないと思っていた日々の中で始まった、終われない恋の行く末で。

 彼女は、最後のお願いをする。

シリーズ: 日和ちゃんのお願いは絶対

非日常系ヒーローに対して日常ヒロインのお願いは絶対!! 絶対なんだよ!!!

セカイ系つったらやっぱりこれよ!!!

やっぱセカイ系つったら「君」と「僕」の関係で世界が滅亡しかけたり救われたりしてほしいじゃないですか。その希望、この巻が叶えます!!!
本当に徹底的に完全にセカイ系をやってやがっておりびっくりしてしまった。マジでセカイ系じゃねえか。

やっぱりさぁ、日常の象徴たる主人公ないしはヒロインの純然たる「お願い」によって、世界の滅びが回避されるのって良いじゃないですか。やっぱり二人の関係が世界へ影響を及ぼしてほしいんですよ。まんまそうだった……最高だった……。

前半の、深春と日和の二人っきりでの生活パート。3ヶ月間カップルとしてイチャイチャしたり喧嘩したり、喧嘩をしてもすぐさま付き合いたてカップルのような具合でイチャイチャしたりとする二人が微笑ましくて、同時に本当だったらもう数年経って新婚生活という時期にこれをするはずだったのにいましている二人の未来のなさに辛くなってくる。

そしてこんなところでも深春がどこまでも『日常』を送ろうとするところが良い。缶詰や非常用ご飯を更に盛り付けたりする程度なんだけど、深春はあくまでこんな状況でも日常を過ごそうとするところがすごく深春らしい。今まで非常事態でも文化祭をやろうとしたりとどこまでも日常を続けようとした深春らしさがここに来て活きてくる。
二人のちょっとした喧嘩のポイントが面白かった。お風呂カビさせちゃっての喧嘩とか本当に新婚生活じゃん。そしてそういうのが気になっちゃうのが深春っていうのがまたなぁ……。細かいところが気になるタイプっていうのと、やっぱりその『カビが生えたのを気にする』という行動自体がすごく日常を送ろうとしているところだと思うんだよ。だって3ヶ月後に世界が滅びるんだったら、ぶっちゃけカビなんてどうでもいいじゃん。風呂の端っこがカビてようと今月と来月我慢したらいい話じゃん、だってもう世界は滅びるんだし。でもそうはならず、深春は風呂場のカビについて日和に注意して喧嘩になることを選ぶ。それってすごく日常だよね。

そして、結局3ヶ月後にシェルターから出ても、人類は滅びていなかった。そうして諸々あって日和が人類を滅亡させることを選ぶんだけれども、そこで深春が卜部とのやり取りに出てくる台詞がまた、深春だからこそ言える台詞なんだよな。

「俺、負けたくない。不条理にも、世界にも負けたくない」

今まで非常事態に陥る世界に対して抗い続け、強制的に押し付けられた不条理な非日常とも戦い続け、どこまでも日常を過ごそうとしてきた深春だからこその台詞じゃんこんなの……。今まで深春が過ごした日常は、負けないために戦って手に入れてきた日常なんだよ
日和が世界が滅亡しないように非日常にいて戦い続けたように、深春も日常を過ごすために戦い続けたんだよ。そう思えたからこそこの台詞がもうめっちゃくちゃに好き。

カビが生えた風呂場に怒るシーンについて書いてて思ったんだけど、深春は未来があることを信じてる。日和は未来でどういう災害があるか知っているからこそ「世界は滅亡する」と否定的だけれども、人々はそれでも日常を過ごすし、どう見ても滅亡しかけているような状況でも日常を営み続ける。

卜部の台詞が、未来があると思っているキャラとしてすごく象徴的だった。

「だから……わたしはもう少し待つことにするよ」

未来があると思ってる。こんな絶望的な世界でも、それでも未来があると信じ続けている台詞で、一般人側の人間代表の発言としてすごく好き。

評議会側の日和や志保ちゃんなどは世界を見ているからこそ人類は滅ぶと思っている。
でも狭い場所しか知らない卜部や深春は人類はまだまだ頑張れると思っている。
日常と非日常の差としてすっごい好きだわ、ここ。

そして1巻のリフレインとしての「お願い」の回避も、もうめっちゃ良かったな……。好きです。こういうラスト、大好き。

幼馴染ヒロイン:卜部

卜部が深春に対して将来的に自分と結ばれるから日和と付き合っててもノーダメだったの、まさかすぎたし強すぎない!? 目の前で好きな――というより愛してる男がほかの女といちゃついてても「最後は自分のところに戻って来るから」と本妻の余裕ぶっこいてたの、良すぎない!?
とはいえぽっと出の女にとられましたが……。でもその結果すら、卜部は「深春が深春らしくいられるんならそれでもいいんじゃないの」と軽く受け止めてくれそうな雰囲気があるところ、良い。本妻の風格。付き合ってたのが1秒もないのにこの本妻の風格よ。

これはメタ的な発言になっちゃうんだけど、どのぐらいの時期にそういう設定になったんだろうな。1巻読んだ感じあんまりそういう雰囲気あるとはおもわなかったんだよな。2巻以降はフラグか?と思う部分がなかったわけではないんだけど。謎。

それでも日常は崩れていっている

田中先生が死んだのが悲しすぎる……。3巻時点ですでに好感度高かったのに4巻で更にバクアゲされてしまったが故に、まさかの死がつらすぎる。
3巻の「子どもたちへ教育を」の理念が本当に本当に好きなんですよ。大人としての責務を果たそうとしてくれる大人大好き。反対語として未成年に手を出しやがる大人がいます。最近年カノ全巻読んでサイコーって言ってた人間がして良い発言ではない。

卜部弟が随分と大人びてしまっているのも、日常ではなく非日常に完全に突入してしまった感がありありと出ていて辛かったな。子供には子供らしくあってほしいし、そのためには大人が守るべきだと思ってる。子供が無理に大人びてしまうというのは、大人が子供を守れない状況だと思うから。
追い詰められた状況であればあるほど、子供は子供でいられない。本来は子供というポジションを享受していて良いはずの深春が小学生らの教師役をしていたように、小6にして卜部弟も高校生らと友達という存在になるような非日常を過ごしている。

友達というのが非日常という話をするのなら、深春も言ってたけど今までだったら友達になんてならないだろう立場の人間と距離が近づいて友達になるのって本当にそれだよね。すごく非日常なんだよ。

まさか2020年代にここまでセカイ系やってくるとは思わないだろ……

まさか2020年代にここまで全力でセカイ系やってくるラノベがあるとは思わなかったわ……。もうめちゃくちゃに最高にセカイ系だった。
彼と彼女の関係によって世界が揺らいだりどうこうしたりってのはセカイ系の醍醐味ですが、まさかセカイ系の流行が完全に過ぎ去ってから20年ほど経過した今の時代にこんなん読めると思わないじゃないですか……。しかもかなり身近なコロナウイルス的な存在のある世界の物語として。

古めのラノベを読むと、やっぱ時代感が今と違うなって感じちゃうことある。連絡ツールに世間の流行り物描写みたいなの。個人的にはオカマってワードは干支一回り前まではまだ聞いてたけど最近は聞かないし、一時期のラノベにいたガチホモ系ネタキャラ男子もかなりその枠。
そういうあ〜昔の話だなぁと認識する部分が出てくると時差を感じて本との間に1枚壁を感じてしまうんだけど、このシリーズはかなり時事ネタであるコロナ的なウイルス(実際はコロナより強毒性を持っている)やスプラトゥーンみたいなまだ流行ってるゲームなどすごく今を感じるものが多くて、世界が真横にある感じがした
そういう部分がこれは2020年代に書かれたセカイ系! って思ったとこかも。

いやー、本当にめちゃくちゃ良いセカイ系だった……。現代で描かれたセカイ系っていうのがすごい。
同時に読んだのが今で良かったとも思った。1巻読んだときは2020年で、ちょうどコロナ禍が始まったばかりの頃。1巻は校内テロリスト占拠といった内容がラストに来ていたし謎のウイルスに関してはさほど出てこなかったが、2巻以降は謎のウイルスの影響やそれによる陰謀論、紛争が物語のなかに含まれだす。
2巻以降を2020年~2021年ごろの先が見えない世の中の状況で読んだら、かなりしんどかったと思うんですよね。バカスカ人は死ぬのにもし自分が重症化しても治療されるかどうかすらわからない医療体制(病院が悪いとかではなくウイルスが悪い)、飲食店はいたるところが休業となりあからさまに変わっていく社会、そしてロシアによるウクライナ侵攻。
作中に描かれるしんどい描写が目の前の現実と重なって、読むのがかなりしんどかったろうことが想像つく。
コロナ自体はまるで落ち着いていないもののコロナの話題性が落ち着き、日々の感染者数はろくに出ず、ロシアの戦争が日常になってしまった現代だからこそ、これだけ落ちついた気分で読めて、セカイ系だなんだと騒げるのかもしれない。

近い物語はあまりに近すぎるとしんどい。でも読んだことを全然後悔はしない話だった。本当に本当に面白かった。

日和ちゃんのお願いは絶対5 (電撃文庫)岬 鷺宮

日和ちゃんのお願いは絶対5 (電撃文庫)岬 鷺宮

AmazonBookWalker

スポンサーリンク