
あらすじ
――「好きです」。
保健室で部活をさぼって寝ていたちょっとおバカな高校生・真生は、前から気になっていた由良に告白される。
「俺たち両想いじゃん!」と浮かれたけれど、起きてるときには告白してこない由良に、「俺のこと好きなんだよね!?」と振り回される日々。由良からの告白を待ちたいけれど、思いは溢れて――
「由良くん、俺になんか言うことあるよね?」「真生くん、あのね…」
おバカ可愛い探り合いにキュン必至♡ 恋愛スキルゼロのヘタレ男子×天然ピュア男子のハイテンションラブ!
「好き」がダダ漏れな攻め、可愛すぎんか?
まず、この話の何が良いって、攻めがとにかく可愛い。自分の目的のために全力を出せるキャラはやっぱり可愛い。
好きな子が保健委員だからって、部活サボって保健室で寝たフリしてたら、その子がいきなり自分相手に告白の練習を始めるっていう、ラブコメの神様が降臨したみたいなシチュエーションから始まるわけ。
そこから「え、今の俺宛て!? 俺のこと好きってこと!?」って内心大パニックからの大歓喜。ハイテンションな地の文で大喜びしつつ、そこから「両思いだったら自分から告白するか? でも好きな子から告白されたい!」という高校生らしい可愛い思考で好きアピールをしまくるのがとにかく可愛い。
それも教科書忘れたふりをして机をくっつけて見せてもらうみたいなベタなものばかりなので、読んでて尻尾をぶんぶん振り回している大型犬にしか見えなくて微笑ましさしかない。
思考回路がとにかく可愛くておもしれー男なので、読めば読むほど「マジで好きなんだな……」「そうか、幸せになれるといいな……」みたいな感情が込み上げてき続けるし、こいつは間違いなくおもしれー男。
俺の誤った解答の代わりに、由良が正しい解答を……? 席に戻りながら、俺は顎に手を当てて考える。これって、もしかして〝初めての共同作業〟というヤツでは? 実質ケーキ入刀に等しいのでは? つまり入籍?などとスーパーポジティブタイムに突入し、俺は頬を緩めた。
こいつは間違いなくおもしれー男……。
「どう思う、コバよ」
唐突に俺が問いかけると、コバは辟易した顔をこちらに向けた。
「はあ? 何が?」
「これは由良と相合傘するしかないと思わねーか?」
「ほんと脈絡ねえなお前……」
あまりにおもしれー男すぎて読んでるだけでめちゃくちゃ好感が上がっていく。
自分の「好き! 嬉しい! 俺も好き! 大好き! 告白して!」って尻尾振り回してわかりやすいぐらいに行動に表しつてるキャラは、読んでてやっぱり応援したくなる。読んでてずっとこいつ可愛いな……幸せになれ……と思ってしまった。
そしてこんなラブコメ部分だけではなく、量的には少ないながらも攻めと部活の問題なども入っていて、読んでてとにかく満足度が高かった! こういうのがいいんだよ、こういうのが。ほんとに。
攻めも受けも能動的に頑張ろうとする関係は良い
攻めだけじゃなくて、受けもちゃんと告白しようと頑張っているのがこの話の良いところ。
告白の練習しちゃうくらいには攻めのことが好きなのに、なかなか踏み出せない。でも、攻めからのアピールに戸惑いながらも、教科書を見せてあげたり、ちょっとずつ自分から動こうと頑張ってるのが伝わってくる。
そもそも物語の始まりが受けの告白練習からなので、受けからもめっちゃ頑張って動いてんじゃん! となる。
これはわたしが毎度よく言う溺愛ものが嫌いな理由にも繋がるんだけど、結局主人公には自分の足で幸せを掴みに行ってほしい。誰かから一方的に与えられるだけじゃ、物語の主人公としてどうなの? って思ってしまう。
その点、この二人はお互いが現状を変えようと能動的に動いてるから、読んでて気持ちがいい。
ところでこれ、攻めがガンガン行くタイプだなのに、溺愛って言うより何故かベタ惚れって言葉のほうがなんだか妙にしっくり来るな。これは溺愛だともっと格好いい印象があるかもしれない。
受けではないただの友人とずっとアホみたいな漫才をしているからかもしれない。
「まあ、とりあえず、お前は灯と大人の階段を登りたいってわけだよな?」
冷めたポテトを食しつつ、渋々といった様子で俺の相談に付き合ってくれるコバ。
一方で、俺は大きく頷く。
「そう! そういうこと! 分かってんじゃん、さすがコバ!」
「はあ、大人の階段ねえ……まだ早いと思うんだけどなあ……まだ高校生だし、そういうのはちゃんと段階踏んでから……」
「え、やっぱまだ早いかな? ひとまず由良の方からチューしてもらいたいんだけど」
「いや思ってたより大人の階段のレベル低っ!!」
こんな攻めに付き合い続けてくれる友人、あまりにいい奴すぎるだろ。
ところでこのカプ、左右どっち問題
あと、BL好きとしてちょっと考えさせられたのが、性描写の話。
この作品、そういうシーンがほとんどないんだけど、それが逆に良かったかも。
感想では受けとか攻めとか書いてるけど、作中で性描写自体はない。なのでBLは厳密にはセックスポジションで受けと攻めが決まるということを考えると、攻めと受けがないんだよな。いや煽り文句とか帯とか見る限りあるけど。あるけどそうじゃなくて。なんというか。感覚的に。
わたしは二次創作だと相手固定左右固定の強火なので、商業BL読むときも「頼む! 逆じゃないでくれ! 俺の想像したカプであってくれ!」って祈りながら読む。たまに逆でそこで閉じる。事前にちるちるで検索しておけ、それはとてもそう……。
この本も商業BLだったらおそらくこの攻めと受けで想定されているんだろうなっていうのが読んでると伝わってくる。でも終盤で受けが結構押していくシーンがあり、もしやこれは襲い受けか? それとも実はこっちが攻めなのか? などと考えてしまった。セオリー的にも攻め視点より受け視点のほうが多いし、もしかしておもしれー男、お前は受け……?
つまり、性描写がないからこそ、どっちが受けでも攻めでも問題なく読めるというか、性描写シーンでやっぱり逆で無駄なダメージを受けたりしないで済む。安心して二人の恋路を見守れる。
こういう形のBL、ド固定野郎ほど逆に助かるのかもしれないと思った次第。
総じて、部活の話とか友人のキャラとか、細かいところまでしっかり描かれてて、1冊で綺麗にまとまったすごく読後感の良い話だった。
甘々でハッピーなラブコメが読みたいなら、これは間違いなくおすすめできる。読んでてすごく楽しかった。
