250年後に目覚めたら、求婚されました 魔法使いは恋愛初心者につき (ビーズログ文庫) 小野上 明夜
あらすじ
偉大な魔法使いの血を引きながら「期待外れ」と言われ続けたメリールウ。
目覚めると目の前には仮面の伯爵の姿が!?
彼いわく、ここは彼女が眠ってから250年後の魔法が失われた世界らしい。
一夜にして私TUEEE状態になったメリールウだが、彼から「お前は貴重な存在だ」と求婚されて吹っ切れる!
どうせなら二度目の人生、楽しく前向きに生きていきます!?
暴走ヒーロー×暴走ヒロイン×トンチキストッパー(ほぼ)不在
膝に乗っけて飯を食わせながら
「とにかく、誤解しないように。俺はただ、ネリーを愛玩しているだけだ」
(中略)
「主と愛玩動物。程よい情愛を育てるには適切な関係だろう。魔法使いにはサーヴァントはもちろん、ファミリアも付き物だからな」
と言いはるところから始まるラブコメ、ちょっとどうかしている。それに対するヒロインの発言も
「ヴィクトール様がおっしゃるとおり、魔法使いにはファミリアもつきものよ。サーヴァントの扱いが得意な家系でいらっしゃるし、いっそファミリアとして契約を結べば、すんなりエーテルの使用が可能になるかも」
「試す価値はありそうだな」
とさくさく受け入れ進んでいく。この二人とも若干ネジの外れたトンチキっぷりと、周囲の微妙なツッコミ(ちょくちょく不在になる)が面白い本だった。
ちなみにあらすじにあるような俺TUEEEEEEEE展開はあまりないというか、強いんだけどそこまで披露する箇所はないというか、過剰に演出がされてなくて読みやすかった。
主人公のメリールウは、とある魔術師によって250年眠らされ、なおかつ体がエーテル(魔力の源のようなもの)を溜め込みまくりアーティファクト状態になった少女。
そして現在の世界はエーテルが枯渇してしまった世界。
彼女を目覚めさせたヴィクトールは自分に『どんな女性も彼を好きになる』という地獄のような呪いをかけた張本人である魔術師を倒したいがためにメリールウを目覚めさせる。
彼女と心を通わせれば彼女の体に溜め込まれたエーテルを使って魔法が使用できる。そのためにヴィクトールはメリールウと心を通わせようと距離を縮めていくが、友人もろくにおらず女は追いかけてくるだけの相手であるヴィクトールはひたすら他人との距離の詰め方がおかしい。
そしてメリールウもメリールウで友人もろくにおらず恋人ができる前に眠らされ、なおかつ、一度死んだこの身、だったらいろんなことをしてみよう!となんにでもチャレンジ精神であるため、若干どころではなくトンチキをしてくる。
そんな二人が妙な感じに歯車があって気があってしまい、やることなすことトンチキばかりで面白かった。
主人公のメリールウが、かなりひどい現状でありながらも前述の理由によりひたすら前向きなので読んでいて楽しいし元気になれた。
トンチキ同士の会話、ズレているのか噛み合っているのか(やばい方向に)ちょっと微妙な感じで読んでてひたすら面白い。
終盤のヴィクトールが恋心を自覚してからの流れが可愛い。
「仮面を外しているのは、俺の素顔の良さを活かしたいからだ」
堂々と言いきれるだけの美を、その姿は確かに有していた。服装は例の魔王もどき状態なのだが、禍々しい仮面に隠されていた力強い美貌は衣装に負けていない。
「メリールウ。『魅了』に惑わされず、俺と向き合ってくれる強く優しい魔法使い。お前が好きだ。だから、お前にも」
「はい、ありがとうございます!」
かすかに眉根を寄せた真摯な告白を、メリールウはあっけらかんと受け入れる。
「認めていただけた上に、好きになってもらえて嬉しいです。だから心配なさらないで。私一人でもきっとディートリヒに勝てるよう、がんばりますから!!」
噛み合ってた会話が噛み合わない! いや今までだって噛み合ってたのか若干怪しいけれど!
ひたすらズレているような噛み合っているような、そんな流れが面白かった。
ヴィクトールはヴィクトールで迫られるばかりで自分から迫る恋愛経験が薄い故にアピール方法がずれてるあたりがめちゃくちゃに可愛いなあ。どうやったらメリールウに対して効果的か、複数種類をやって、ひとつひとつ効果のないものを潰していくあたり、完全に研究者とかそこらへんの人だわ。読んでいてめちゃくちゃ笑ってしまった。
メリールウについて、読んでいてずっと不安感や不穏さがつきまとっていたのだけれど、どちらもきれいに回収されたし本当に面白かった。