日和ちゃんのお願いは絶対 (電撃文庫) 岬 鷺宮
あらすじ
「——わたしのお願いは、絶対なの」
どんな「お願い」でも叶えられる葉群日和。始まるはずじゃなかった彼女との恋は、俺の人生を、世界すべてを、決定的に変えていく——。
ほんわかしていて、かわいくて、どこかちょっと流されがちで。
それなのに、聞いてしまえば誰も逆らう気になどなれない「お願い」の力を持つ日和と、ただの一般人なのにその運命に付き添うことになってしまった俺。
「——でも、もう忘れてください」
世界なんて案外簡単に壊れてしまうのに、俺たちの恋だけが、どうしても終わってくれない——。
これは終われないセカイの、もしかして、最後の恋物語。
セカイ系
あとがきにある通り、一時期不思議なぐらいセカイ系ってやつが流行った。
セカイ系でぱっと思い浮かぶものは最終兵器彼女。
彼女がセカイを握っていて、僕はほとんどセカイになんて触れられなくて、ただ彼女が無事に戻ってくるのを待つようなやつ。
そして、この本もセカイ系だ。
主人公はある日、クラスメイトの少女に告白される。回答を一日保留したものの、主人公は彼女と付き合うこととなる。
しかし、彼女はとても不思議な能力が使える。彼女が『お願い』したことはなんでも聞いてしまう。それは大統領や極悪人相手であっても。
セカイを掌握していると言っても過言ではない彼女と、ごく普通のお付き合いを続ける主人公。
彼女がセカイを握っていくら大変なことになっていても主人公は何も出来ない。ただ彼女の話を聞いてあげることぐらいしか。――そんな物語。
この少女と主人公の恋愛がねーーーーほんとほのぼのでピュアでかわいい。どこまでもかわいいんだ。
彼氏彼女ならキスぐらいしたい、でも出来ない。彼女のことがもっと知りたいけれどもどこまで訊いていいかわからない。一緒にいるのが楽しい。彼女の力になりたいから彼女が入っている組織について知りたい。
好きな子のことを知りたい、でもなかなか聞き出せない、というめちゃくちゃ甘酸っぱくて初々しい青春みたいな恋愛をしている。かわいい。最高。
中盤の予想はしていたけれども、終盤の展開がめっちゃいい
以下ネタバレすごい多い。
学校にテロリストが! 狙われる彼女! 彼女に力を貸して見事に学校ごと救い、彼女に協力できた!
というよくある妄想のような展開から一転、一気に訪れた絶望の流れがめちゃくちゃに上手い。話がここで一瞬で変化したのがわかってすごくぞっとした。
個人的には彼が死んだことよりも、主人公が思う通り「もっとも大事にしているものが妹から彼女になった」ことにぞっとした。
日和は他人の好きなものも愛するものすらも全て変える事ができるし、彼女は意図的に利用している。終末医療のようなものだとしても、それが愛や優しさから起きるものだとしても、彼女は人の感情や思考を変えてしまう。
これを伏線として、実は彼女は主人公の『お付き合いをする』という思考ごと操っていました、と【愛するものを変化させる】という箇所の回収を行うあたりが見事すぎる。
ある意味開始時点で予想はついたもので、想像通りとは言える。
これだけ世界の命運すら変えている少女が、自分の好きな相手の感情を変えていないなんてありえないとも言える。
でも、そこから「彼女のことが気になる」「彼女を意識しているうちに改めて好きになる」「今度は自分から告白する」なんてさあ! そんなさあ! あまりにもかわいいじゃん! 初々しいじゃん! 青春じゃん!
一度目の恋は強要されたもので、主人公の感情は操られたものだった。
でも二度目の恋は間違いなく本物で、二人の間に築き上げられたものだった。
良かったねえ、良かったねえと思いながら読んだし、本当にありがとうございましただった。最高。良かった。