「イレギュラー・ハウンド いずれ×××になるだろう」懐かしさすら感じる王道の裏社会現代異能モノ
あらすじ
その特異<イレギュラー>が、君を凡人ではいられなくする。
死にたがりの少年・桃矢はある日「ハチ」という少女に命を拾われる。「ダイハチ」という警察の下部組織を管理すハチに「イレギュラー」という特殊能力があることを見出され、桃矢は裏社会を探ることになって……。
めっっっっちゃ良かったーーーーーー!!!! 現代異能、最高。
そうそうそう!! これだよこれ!!! って言いたくなるめっちゃ良裏社会現代異能。ドラッグ! 売春! 裏社会に取り込まれた少女を助けるために身を張る主人公! めっちゃ好き! 最高!!!
王道の現代異能ラノベ、めちゃ良い しみる
どこか古臭い空気のするラノベだった気がする。古臭いというと言い方が悪いかなー……、なんというか、懐かしい。すげー心地よい懐かしさがあった。
現代、他人の悲しいや辛いという感情を己の胸の痛みとして認識してしまう主人公。自殺しようとしていた主人公を拾ってくれて利用してくれる謎の女性。彼女によって誘われる異能を持つ人々の世界。ドラッグや売春がはびこる場所で、主人公はいつのまにか消えていたクラスメイトの情報を探る仕事を命じられた。
現代異能! 現代異能だ! そう! 現代異能! 現代のなかでも裏社会と言われがちな場所を舞台にし、そこで行われるドラッグや売春などの中から、ちょっとだけ特殊な能力を持ちながらも心優しく正義感がありけれども本人はそれを認めていない主人公が、恋人でもなければ親しかったわけでもないクラスメートを救うためにボコボコにされつつも戦う! めっちゃ好きな現代異能だ!!!!
この恋人でもなければ親しかったわけでもないというのが個人的にすごい大事で、親しい関係の人を救うのは人間として当然。でもいなくなったのすら忘れていたようなポジションの、本当にほとんど関わりのなかった少女を救うというのが個人的にもうグっときた。そういうのが好きなんだよ……。なおこれはシリーズが続いたらハーレムになりかねないフラグだなとも思うけれども……。
古き良き、とよく言うけれども一体いつの時代なのかと問われれば迷う、でも確かにこういうののブームあったよね? と言いたくなるタイプの王道物語で、本当に最高だった。
割りと素直にいうと読み始めた頃は2000年ぐらいのラノベかな?と思ったら2022年でびっくりした。これ最近なんかい。この雰囲気で!? ありがとうございます。
しかも読み終えてから読書メーターでこの作者さん他に何を書いてんのかなって見たら、ひげを剃る、女子高生を拾うの作者さんだった。びっくりした。なんか現代は現代でも現代ラブコメっていう印象があったので(それはひげひろの印象だろうと言われればそれはそう)。
この本があまりにめっちゃ良くて懐かしくてしみるし熱い話だったから、今まで女子高生との恋愛ものなのかな……どうなんだろう……と敬遠していたひげひろも読むか? とちょっとなっている。そのぐらいに面白かった。
泥臭くまっすぐな主人公がめっちゃ良い
主人公が、他人の胸の痛みを己の胸の痛みとして己に具現化してしまうという日常行動に利用できるとは思えない異能を持っているが故に他人の痛みに敏感で気遣いが出来る人間である、という設定からのキャラ付けがめっちゃスムーズですげえ良かった……。
人とあまり関わりたくないのは、近づくと相手が傷ついたときにその痛みを感じてしまうから。優しいのは自分が痛みを感じたくないから。そんな理由があったとしても、そこから形成された主人公の性格は、結果的とは言え優しく気遣いができて他人の痛みに敏感で、当たり障りなく如才なく動ける。だからこそ主人公は良いやつで、現在無理矢理売春させられている同級生をそのままほっとくなど出来ない。
いくら自分に痛みを与える存在だとしても他人というものを嫌いにはなれない。相手に同情したからというのがあったとしても、泥臭くクラスメイトを助けようとする主人公の真っ直ぐさがすごく良かった。
個人的に、売春部屋に主人公を連れてきて脱いでいく同級生にいちいちどぎまぎして目をそらしちゃう主人公がすっごい好き。脱いでくれるんだから見ようとかじゃなくて、思春期男子だから興味はあるけれども見てはいけないものを見てしまう気分になり目を瞑っちゃうあたりが。監視カメラの目を逃れるためだとわかっても全然耐えられてないし、彼女がほぼ裸で主人公に身を寄せると羞恥でほとんど耐えられない。そういうまっすぐで純粋なところに同級生はこの人なら信じられると思ったし救いを見たんだろうな。
最後の同級生とのやりとりがすっごい好き。
「ダメだ」
「なんで? トウヤくん、あたしのこと嫌いなの? そうだよね、こんな、人間のクズみたいな女、イヤだよね……」
「違う、そういうことじゃない」
僕は慌てて首を横に振る。 僕から見ても、彼女は女性的な魅力が満点で、捜査の時もどれだけドキドキしたことか。(中略)
「これからは、自分の身体のことも、大切にすべきだ。そういうのは、特別な時に、特別な相手とするべきだ。君がどう思うかは分からないけど、僕は、そうしてほしい。だから……そういうことは、しない」
僕がはっきりとそう言うと、エッチはしばらく視線を床の上でうろうろと動かした後に、小さく笑った。
「……セックスって、特別なことだったんだね」
彼女のその言葉に、僕はなんとも返事ができなかった。
ここしばらくで価値観全部ぶっ壊されて己の体を売りさばく行為すらただの日常や販売業務としか思えなかったクラスメイトがそう思えるの、なんかすげーじんときた。
これ他のキャラが言うんじゃただの上っ面でしかなく、主人公が言うからこそ彼女に響いたんだろうなと思えるところがすげーもう好き。
努力して、苦労して、痛い目にあって、それでも折れずに必死で誰かを救おうとするっていうのは、やっぱりいつ読んでも熱い。しかもその相手はめちゃくちゃ親しかったという相手ですらない。けれども彼女を救うために全力を尽くす。こういうのもうめっちゃ好きなんだよ。最高だった。
続き! ください!
続刊が絶対にある!と思わせるつくりではなかったけれども、続刊あったら嬉しい! というラストだったのでこのまま終了しちゃうのはもったいなさを感じた。
人気シリーズを手掛けた作家の新シリーズ1作めにあるあるのクリフハンガーだのではない。全然そういうのじゃなくてこの巻で終わっても全然納得できる。死にたいと思っていた主人公はもうそうは思わなくなった。主人公の変化によって物語は良い方向へと進むし、いちおうの決着はつく。同級生の売春ドラッグ利用され事件自体は、犯人の確保逮捕で決着が付いた。
でも物語としては全然この先も出来るし面白そうだから読みたいと思った。まあ2022年4月なのでもしかしたら今年出るかもしれないけど。出たらめっちゃ嬉しい。