「元勇者、印税生活はじめました。~担当編集はかつての宿敵~」魔王と勇者というより業界モノ部分に比重多めのラノベ
あらすじ
異世界の危機をその手で救った少年、刃桐創一。
勇者の使命を終え、現代日本に帰った彼が最初にやったこととは
――異世界での冒険をそのままライトノベルに書いちゃった!
実体験ならではのリアリティが絶賛され、即デビュー&人気作家の仲間入り。
だが貴重な経験ストックをわずか三巻分で使い尽くし……
「うおおお、続きが書けねえーっ!!」
迫る納期! 重すぎるファンの期待!
さらに担当編集は――
「お前、倒したはずの破壊神だろ!?」
ネタを破壊しまくるかつての宿敵登場で、どうなる俺の印税生活!?
異世界帰りの勇者さま、ラノベ書いたら大ヒット!
最強だけど締め切りには完敗。
元勇者の実録切り売りストーリー!
戦闘強かろうと締め切りには勝てない
戦闘能力は最強だけれども、戦闘以外のなにかで全力を尽くさなきゃならない話って面白いよね。
まあ、いくら戦闘能力が高くとも、今までやったことを書いてきたラノベなのにそのやったこと自体が尽きたら続きが書けなくなるのは仕方ないんよ……。そこから頑張って方向性を探そうとしつつ迷走しまくる主人公が、業界モノ~!って感じですげー良かった。
ちょろっと入っている戦闘シーンはマジでこいつつえーなという感じの強さを出してくるんだけれども、作家シーンがかなりだめだめかつネガティブ度高すぎるしスランプの対処もどうやろうと無理と事前に提示されているので、「が、がんばれー……」と応援したくなる。
元魔王と元勇者の関係性が可愛い
元勇者と元魔王という関係ではあるけれども、作者と編集者であり作者とファンという関係性が可愛かった。
こういうの、倒された側がめっちゃ恨みに思って~みたいなのあるかと思いきや、魔王は魔王で倒されたことをかなりさくっと流している。そこまで恨みに思っているなどなくてかなりドライな雰囲気なおかげで、そちらの因縁がごちゃごちゃするということはなく、作者と編集者であり作者とファンという関係性がメインになってて良かった。
会話のテンポが良いし、作者と編集者という立場での会話になっててすげえ好き。
「たしかに挫折によって成長する主人公は熱い! スポ根ものなら特においしいギミックじゃ! だがな、話が行き詰まったから、なんとなーく主人公を苦しめてみよう、という意味で設置する障害は……!」
溜めに、溜めて。
梨々は俺に食べかけの麩菓子をズビシィッと突き付けるのだ。
「そんな障害はテコ入れの意図があからさまに透けて見えて、読者にとってはウザくて萎えるものでしかなくなるのじゃ!! だったらそんな苦労はさせない方が断然マシ! もしくはよっぽどうまく障害を作ったり、劇的な逆転を演出するなどして工夫がいる! おぬしのような軽い思いつきでは、必ずその細部で躓くに違いないわ! というか今まさに躓いておるところなのじゃろう!?」
「ぐぶはぁっ!?」
梨々の刃は切れ味抜群だった。
しかも、『細部で躓く』って予測が当たっているのだから性質が悪い。
笑った。たしかにあからさまなテコ入れってなんかにじみ出るよね。
このあと、そういうのやるなら2巻ぐらい前から前フリやっとけや!という部分まで入って更に笑った。この魔王、めちゃくちゃエンタメ解析してて有能である。そのエンタメ解析もしているというのにエンタメを楽しめるあたりすげー物語に対するスタンスが良い。
作家としてのスタンス
主人公はスランプというか続きが書けない状態に陥り、けれども原稿を書かなければならないということで必死になる。尊敬している作家があとがきにちらっと書いた文章に縋ってそれの真似をしようとしたりする。
でも結局己のやり方を貫くのが正解、というのが落ちとしてめっちゃ良いなと思った。
誰かのモノマネじゃなくて、その作家が作る物語がいいんだよなー。そのためには話の作り方だって誰かのモノマネじゃなくてその人が今まで培ってきたものがいい。
スランプのときほど誰かのやる方法を真似したくなるけど、結局読み手としてはその人の味が見たいから、誰かのマネじゃなくてその人のが良いんだよね。わかる。
というのは良いし好きなんだけど、この主人公付近あまりに世界せっっまくてちょっと笑ってしまった。だいたいみんな顔なじみか知り合いばっかだな。