「おでん屋春子婆さんの偏屈異世界珍道中 1」現代日本おでんを食べた異世界人たちの群像劇

★★★★☆,ブレイブ文庫お仕事,ファンタジー,家族,料理,現代,異世界,異世界転移

あらすじ

偏屈婆さんが行く先々でおでんを振る舞う、異世界転移群像劇!!
春子は偏屈なおでん屋台の店主である。
酒はひとり二合まで、銘柄はひとつ。冷ならそのまま、燗なら徳利に入れて温める。 おでんのほかは、梅干の入った白飯にごま塩をまぶした握り飯と、甘いいなりずし。 そんなただのおでん屋なのに、いつも立ち寄る稲荷に二度柏手を打つと、知らない世界に飛ばされるようになってしまった。
だがしかし、春子は何も変わらない。いつでもどこでもおでんを、客に食べさせるだけだ。
おでん屋がただただ訪れた客に、あたたかいおでんを食べさせる。 ただそれだけで運命が少しだけ変わった、様々な事情を抱える人々が交差して生きる世界の、ぽかぽかおでん群像劇。

ウェブ書籍化作品。1話1話が気軽に読める短さで良かった。電車かなんかに乗ってるときにふらっと読みやすそう。
物語の内容としては、現代日本が舞台でも全然いけそう。珍しいところに出没するおでん屋でおでんを食べてなんとなくいい感じになるサラリーマンや小学生の話とかでも全然行ける気がした。それがそういう現代日本じゃなくてファンタジーだからおもしろいっていう物語ではあるんだけどね。

お狐様の像にお供物をすると異世界に飛ばされ、異世界人に屋台のおでんを振る舞い、彼らが精神的に前向きになったり肉体的に超回復が起きて、彼らは前に進んでいく、というお話。
精神的回復はこういうご飯物の物語あるあるのやつで、肉体的超回復はお供物をしているお狐様の像がイコールその異世界で信仰されている神様と繋がっているからということであってるのかな。最初「じゃないかな!?」みたいに想像した人が出てきたときは勝手な想像か思い込みか決めつけじゃないかと思ったけど、物語が進んでも超回復が続いているから多分そうっぽそう。てっきり突然超絶チート能力付与かと思った。

タイトルにある通り偏屈な春子婆さんが、異世界に飛ばされたという異様な状況にもわかりやすい動揺は見せずにおでんを食わせていくのがテンポが良くておもしろい。

「酒は二合までだよ」
「ああ、そうだった酒もあるのだった。いただこう」
 おっとっとと零れないようにコップを持ち上げ酒を口に含み、また男が目を見開いた。
 いちいち大袈裟な野郎だなと春子は思う。
「なんだこれは! なんて澄んだ、研ぎ澄まされた味なのだ!」
「そうかい」
「合う! 実にうまい! この汁も飲みたいのだが、スプーンはないのだろうか」
「汁ぐらい口つけて飲みな」
「なるほど、そういう作法なのだな。ではそうさせていただこう」

客に対しての態度は偏屈というよりも無愛想な春子ばあさんと、おでんにいちいち感動する客とのやりとりが読んでいておもしろい。どの客もとにかくおでんを絶賛してくれるものの、春子ばあさんは特段気にせず淡々と相手をし続けていく。

とはいえこの偏屈さ自体の描写もめっちゃおもしろい。

 今日も仕事に出ようと家を出て、近くの薄汚れた小さな稲荷で、屋台を引きずった春子は足を止めた。
 誰にも手入れをされていない、小さな小さな稲荷だ。
 祠は苔むし、草はぼうぼう。お狐さんの色あせて白くなった前掛けと帽子が侘しい。
 だったら掃除なりなんなりしてやればいいじゃないかと言われるかもしれないが、あいにく春子はそのような慈愛を持ち合わせていない。
 金と自分の得になること以外は死んでもしない主義なのである。
 そのお狐さんの前に、春子はしゃがみ込みがんもどきがのった皿を置いた。
 これは慈愛ではない。投資である。
 こんな寂れたところならほかに祈る人もいないだろうから、狐さんも恩に感じて商売繁盛をもたらしてくれるかもしれない。
 そういう期待を込めた、欲である。
 油揚げでなくがんもどきなのは、なんとなくである。
 捧げものが揃いも揃って油揚げじゃ、さすがの好物でも飽きるだろうと春子は思っている。

いい性格してるよ、このばあさん。
ばあさんがお供えしながら、面白くなっているけれどもそれを素直におもしろいと認められない偏屈さ故にあれこれと言い訳をしていくのも読んでいておもしろい。もう素直に認めちゃいなよ!!

物語としては、精神的な部分としては、とにかくあったまってうまいものたべて精神的にどうにか立て直そう的な話も多い。
ただ、個人的には政治的に対立していた二人が食ったら突然涙が出てきてどうにかなるのだけは、いやそうはならんやろがいになってしまった。なるから物語なんだけど。

こういうツイートもあるように、寒かったり眠かったりお腹が空いていたりすると思考が暗くなるので、あったかくてお腹をいっぱいにさせることで精神的に安定させている。

一発屋のゲストに思えたキャラが、その後も何度か出てきて一人の人間として物語を作っていくのがおもしろい。これ短編だけで群像劇にしていったら読まないかなーって思っちゃうけど、こうしておでんを食べた人のその後の話となるとぐっと興味が湧いた。
少年たちの物語が瑞々しくてよかったな。最終的には前のほうに出てた遊牧民族の子が絡んでいくのもおもしろい。
自分は賢いと思っていた子供が、自分はただの秀才にすぎず、本物の天才がいると知ってしまう。天才に嫉妬して冷たく当たってしまう自分を嫌になっているところでおでんを食わされおでんの豆知識を聞いて勝手になんか見出して納得して解決する。おでんを食べて春子ばあさんの話を聞いたのはキーにしかすぎなくて、基本的には彼の精神で状況を乗り越えていたのがすごく良かった。

ところでファンタジーものに日本食でどうしても気になっちゃうんだけど、描写自体は美味しそうなんだけど、その具を知らない異世界人の視点なので、味が違って美味しく感じているだけなのか、本当に美味しいのか全然わかんねえな。実は超絶生臭いおでんだけど異世界人の味覚には合ってるだけの可能性とかめちゃくちゃある。
あと表紙の女の子誰だろう。最後の話に出てきた幼女かな……?とは思うんだけど、この巻しか読んでおらずウェブ版未読だと誰だお前という印象にしかならなかった。思い入れも何もなく、読み終えてからアマゾンで表紙見て誰だお前となって終わった。なんか意味深意味ありげな感じのポジだったけど、この巻しか読まない人間としては謎有りっぽい幼女だねでしかないんだよあの子。

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