烏は主を選ばない 八咫烏シリーズ 2 (文春文庫) 阿部 智里
あらすじ
八咫烏の世界を描くファンタジー絵巻、第2弾!
八咫烏が支配する世界山内では次の統治者金烏となる日嗣の御子の座をめぐり、東西南北の四家の大貴族と后候補の姫たちをも巻き込んだ権力争いが繰り広げられていた。
賢い兄宮を差し置いて世継ぎの座に就いたうつけの若宮に、強引に朝廷に引っ張り込まれたぼんくら少年雪哉は陰謀、暗殺者のうごめく朝廷を果たして生き延びられるのか……?
- 振り回される少年が好きな人
- 権謀術数渦巻く権力争いを読みたい人
- 前作「烏に単は似合わない」が面白かった人
振り回される少年・雪哉の成長物語
地方役人の次男坊であった雪哉は、ちょっとしたハプニングにより若宮の側仕えとなる。
むちゃくちゃな量の仕事を押し付けてくる若宮になんだこれーーーー!?となりつつも、負けん気と地頭の良さでクリアしていく雪哉。
若宮に気に入られた彼は、次第に若宮の周囲に渦巻く面倒事に巻き込まれていく、というお話。
この雪哉のキャラがすごい良いんだよなーーーー!!
飄々とした昼行灯、ぼんくらの阿呆に思わせて、けれども読者視点からすれば、こいつは頭が良いぞと確かにわかるような様子を見せている。
例えば最初の事件だって、突然人前で泣き出して許しを請うというあたりで、それまでの雪哉の様子とは随分と違っている。
こいつは相手に責任があるぞと周囲にわからせるために動いてたぞとわかる仕組みになっている。頭が良い。ずる賢い。
そういったずる賢いところも持ちながらも、雪哉は徹底して故郷を愛している。
若宮につくのも故郷を愛するが故、故郷を守るためとはっきりしているのが心地よい。
母と、兄弟たちと、暮らす人々のいる故郷を守るためと、自分の目的をはっきり言う雪哉だからこそ、前作の主人公であったあせびと違って安心して読めるというか、このやり方……かなりうまいぞ……。
うつけと言われがちな若宮と、ぼんくらと思われがちな雪哉の会話もかなりテンポが良くて面白い。というか、この二人の会話が読んでてすげー楽しい。
負け数、四点。
硬直してしまった近習に、若宮は小さく首を傾げ、わざとらしく謝ってきた。
「ええと、その、なんだ。すまん……?」
いっそ、笑うしかない大負けであった。
ふざけるなよてめェ! という雪哉の絶叫は、今度こそ、純粋な爆笑の中に儚く消えた。
雪哉、人生初の身売りが、決定した瞬間である。
ここの、国のトップである雇い主に対して、躊躇なくブチ切れてる雪哉すげー好き。
若宮の普段からやってることがコトなだけあって、雪哉、躊躇がない。
雪哉を振り回すのに躊躇がない若宮もあまりにひどくて好き。雪哉を囮だの何だのにし過ぎである。
とはいえ、そこから若宮の意図を理解して動く雪哉の頭の良さも相当のものなんだけど。
「烏に単は似合わない」の裏側の物語
前作である「烏に単は似合わない」では、後宮で女同士の権力渦巻く争いが描かれた。
では2巻であるこちらでは何が描かれているのかと言えば、今度は后を選ぶ側であった若宮側の視点、男同士の争いだ。
若宮は何を考え、どう動き、一体どうしてあの時あそこに現れたのか。前作だけではわからない部分について描かれている。
それがもーーーーめちゃくちゃおもしろい!!!
若宮がなぜあれだけの期間後宮に姿を表さなかったのか、なぜあれだけ回りくどいことをしたのか、一体どこで何をしていたのか。
はっきり言って、これが「烏に単は似合わない」だけの物語だったならばこの部分は不要だ。
物語においてそのほうが都合が良いから、その一言で表される。
ぶっちゃけだいたいの物語ってそうなんだよね。物語において『なんで探偵は事件が起きてから現れるのか』って言えば、そうじゃないと推理しようがないから。
事件が起きる前に止める探偵は、もう名探偵としての行為をしているのかどうかすらわからない。(だから逆手に取ってそういったタイプのミステリーもあるけれども)。
とはいえ、いくら物語の中の登場人物とはいえ、彼等は生きているにんげんだ。その行為をするならばそれだけの理由がある。
若宮の前作での行動を描き出すのがこの巻といえる。
ついでに言えば、烏に単は似合わないで突然現れた雪哉のシーンについても、烏は主を選ばないを読めばきっちりと理解出来た。若宮ひでえ。
Kindle Unlimitedへ登録