黄金の烏 八咫烏シリーズ 3 (文春文庫) 阿部 智里

★★★★☆,文春文庫ファンタジー

あらすじ

人間の代わりに「八咫烏」の一族が住まう世界「山内」で、仙人蓋と呼ばれる危険な薬の被害が報告された。
その行方を追って旅に出た日嗣の御子たる若宮と、彼に仕える雪哉は、最北の地で村人たちを襲い、喰らい尽くした大猿を発見する。
生存者は、小梅と名乗る少女ただ一人―。

八咫烏シリーズの第三弾。

現れた敵、猿

後宮では女達がバトり、王宮では男たちがバトる世界で、とうとう別の敵が現れた。
その名も猿。猿と呼ばれるなにかではなく、マジモンの猿。
八咫烏たちと同じく人の姿を取り烏たちのなかに紛れ込む猿たち。かろうじて見分ける方法はあるものの、それも確実とは言えない。
そして、現れた場所は、雪哉の実家がある垂氷。
調査のため現れた若宮とともに、果たして雪哉は猿を追い払い実家に平和をもたらせるのか――というお話。

前巻でとても良いキャラとして登場した雪哉の、あまりに早すぎる再登場。
お前、前の巻のラストでいい感じにさよならしてたじゃん!? まさかこの速さで戻ってくるとは思わないじゃん!? と思ってしまう巻。
まあ、別に良いキャラはいくら早く戻ってきても悪いということはないですからね。
しかも猿の襲撃に遭っているのが彼の地元の垂氷となれば、彼が関わらないというほうが無理のある話だ。

しかし、自らを襲ってきて食らう生き物ってこええな……。

残された状況から、なんとなく三毛別羆事件を連想した。
女子供は食い荒らされ、男たちは樽に突っ込まれて塩漬けにされ日持ちする食料にされている。
残虐さとこちらを食料としてしか見てない雰囲気、かなりもろに三毛別羆事件だよね。

残された少女

そして、その惨劇の中で長櫃に入れられて残された少女である小梅。
雪哉視点で見ればなにか隠しているように見えるものの、その何かがわからないからこそ、雪哉からずっと疑われ続ける少女。
今回の巻は、彼女が一体何を隠しているのか? そして猿とはなにか? という部分をキーとして物語を読んでいくこととなる。

確かに、雪哉視点で見るとずっと彼女はなにか隠してるんだよね。
ただ、結構鋭そうな浜綿木は大丈夫ではないかという。
浜綿木がそう言うならば少なくとも若宮に対して害にはならないだろう。それだけは確実。
他人に甘そうな雪哉の母が信用しているのはこちらがまっすぐに信用するには足りないだろう。
ならば、小梅が隠しているのは一体何なんだろうか。

と思ったらまさかそんな理由かーーーーーーーーー!?

小梅が隠していたのは、

小梅が雪哉に対して好意を抱いているということ。
だから自分が好きな相手が自分を疑っていると気付いて、その疑いを晴らすために最終的に動き、危険に飛び込むこととなる。

読みながら、可能性としてありえると思っていたけれども、雪哉の様子からしてないだろうなとも思ってた。
まじで!? まったくそうは見えなかったのに!?

しかし、考えてみればこのシリーズは1巻からそういう構成だったわけで、語り手の言うことを安易に信じてはいけないのだなと改めて思わされた。本当にマジかよーーー!となってしまった。

長束という男

今回の話のキーとなるのは、若宮の兄である長束。
若干弟に対して過保護な気もあり、弟を守るためならば他人を利用することを厭わない彼の動きが良かったな。

地下街へ赴く際の長束の行動、言動がまた、彼が王族なのだと思わされる。
自分がここまでしてやっているのだからお前らはここまでするべきだ、というのが骨の髄まで染み込んでいるのだな。
だから地下街の人間の思考が理解できない。

この点においては地下街である程度働いた過去があり、同時に情に訴えるだけの知恵もあり、この場で何をどうするか即座に考えられる雪哉がたしかに適任だった。
今回は雪哉がいなければどうにも出来なかっただろうな。

吹っ切れてからの長束、とても好きです。

ドキドキ☆レッツゴー謎の場所

今回の巻で一番読みながらドキドキしたの、間違いなく地下街の長に言われて2時間制限で謎の場所に行くとこだった。
あそこ読んでてすげーーーーードキドキした!!!! このシリーズだったらまず死にはしないだろと思ってた部分もあるんだけど、だとしても無事戻ってこれるのか!?とドキドキしながら読んだ。

若宮が来たとこですごいほっとした……。
よく考えれば今まで雪哉のピンチは毎回若宮が助けてくれたんだよな。そう考えれば予想がつくはずでもあったんだけど、だおちsてもほんとーーーーにビビった。

ところでラスト、とうとう雪哉が若宮に忠誠を誓ったわけで。
若宮個人にというのもあるけれども、同時に『垂氷を守るために若宮を守ったほうが良い』とうい部分があり、それがとても雪哉らしいと思えた。

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