弥栄の烏 八咫烏シリーズ6 阿部 智里

★★★★☆,文春文庫ファンタジー

あらすじ

八咫烏の一族が支配する異世界・山内を舞台に繰り広げられる、お后選び・権力争い・外敵の進入。大地震に襲われた山内で、100年前に閉ざされていた禁門がついに開かれた。
崩壊の予感が満ちる中、一族を統べる日嗣の御子・若宮は、失った記憶を取り戻すことができるのか。そして、人喰い猿との最終決戦に臨む参謀・雪哉のとった作戦とは――。

一巻から周到に張り巡らされてきた伏線がすべて回収され、この世界の大いなる謎が驚愕とともに明かされるクライマックス。
大人気キャラの受難、神秘の謎とどんでん返しに驚愕した後に、
未知の感動が味わえる堂々完結の一冊。

5-6巻の対比

1-2巻が対比していたのと同じく、今度は5巻との対比の物語だ。

前巻は玉依姫である志帆側から見た物語であり、八咫烏たちはどうしているのかわからない。
1巻が桜宮にいた姫たちの物語であり、若宮がどうしていたかわからないように。
その八咫烏の視点を描いた話となる。
ある意味、この5-6巻自体が1-2巻と対になる形。と考えれば第一部のきれいな終わりとも見える。

志帆側から見ていた際に、思わず1巻抜かしてしまったのか?と思うような突然の若宮が山神の下僕化で、どうなってんだこれ?と思ったが、ちゃんと事情があったのね。
突如起きた襲撃、山神の下僕としてのお仕事。

一番びっくりしたのは茂丸の死。
正直な話、この物語は1巻のほとんど名もなき人として死んだ人がいたぐらいで、基本的に誰かが死ぬ物語だと思っていなかった。
だからこそ4巻であれだけ強烈なキャラ付けをして、あれだけ優しく楽しげな人だと思わされていた茂丸が死んだことに呆然としたし、愕然としたし、それで雪哉が完全に変わってしまったのも理解が出来た。出来てしまった。

真赭の薄はホント良いキャラになったねー!
1巻当時から気風の良い人であったが、今回澄尾とのこともあり、ああこの人好きだなと思わされた。

A視点の話をまんまB視点からみたいな書き方の小説の中には、ただ同じことを互いの視点から書いているだけで、驚きもなにもないものもある。
巻末おまけなんかについてる『○○視点 ~二人の出会い~』みたいなアレ。アレあんまり好きじゃない。本を全部読み終えた後から見たら、まーそう思ってましたでしょーね、出会った当初はA側から見たらBは態度悪く見えたけど、ただ照れて何も言えなかっただけでしょうねハアそうでしょうねみたいなやつだ(これは面白くなかった一部作品への嫌味が多大に入った文章です)。

でもこのシリーズの1-2巻、5-6巻はそうじゃなかった。
Aの視点から読んだ上で、Bの視点から読むどんでん返しがあって面白かった。
こういうの、他だと鬼と人とが面白かったな。こっちは織田信長と明智光秀の、互いの考えてることがわからないが故のすれ違いの話。

世界の成り立ち、箱庭の幸福

結局、山内という場所は山神が生きるための荘園であり、八咫烏たちはそのための人でしかなかった。
彼等は記憶をなくして小さな箱庭で暮らしていただけであって、本当はやるべきことがあった。
自分たちの小さな幸福を味わっていただけで、後宮の争いや若宮の権力争いなどあまりに小さなものでしかなく、全ては山神のためだった。
内輪もめはすべてなんの意味もなく、山神が望めば消えてしまう程度の木っ端のようなものでしかない。
更には、その箱庭が出来上がる原因となったのは八咫烏であり、大猿は静かに生きて行きたかったのだ。

って嘘でしょう……。
最後の最後にこんなもん持ってこられたら呆然とするがな。マジかい。

今までさんざん猿は八咫烏を食う敵だと思っていたわけで、でも猿からしたら八咫烏たちこそが外敵を持ち込んでおきながら大猿たちにその世話を押し付けて自分たちは箱庭の中で幸せな暮らしをしていた敵なんだよな。

最後の最後の大猿の、ずっと復讐をしたいがためだけに、一族郎党すべて連れ込んで襲撃だというのに呆然としたし愕然とした。
それだけの恨みを猿が持つのも仕方ない。
同時に、恨みをぶつけられる金烏がいてしまったのが悲しい。本来ならば金烏はすべての記憶持ってるんだから、全ての記憶を持っている大猿と同等だもんな……。

雪哉という男

誰が!!!!誰が雪哉をこうしたんだ!!!!!!!!!

誰が!? 誰が雪哉をこうしたんだよ!?
4巻の感想でも書いたけど、誰が雪哉をこうしたんだよ!? 雪哉の故郷を愛する心だよ!!!!!

大猿によってすべてが明かされ、ここは遅かれ早かれ崩壊する箱庭だと知らされ、その上でも、とりあえず崩壊するまでみんなと平和に暮らすためにその役目を続けろと若宮に言う雪哉。
確かにそれが彼の故郷の平和のためには正しい、正しいんだけど、でもそうじゃなくて……!

ひたすら、どうして2巻のあの純粋な少年がこうなってしまったんだ……と思ったけどまあ当時からそこまで純粋ではなかったが、それはともかくどうしてこうなった……。

第一部はこれにて完結ということで、第二部……第二部が存在してしまうのこれ……うっそでしょ……。どういう方向になるのか全く想像出来ない。

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