「貴サークルは”救世主”に配置されました2」話は良いのに小説本にまつわる描写が雑

★★★☆☆,GA文庫オタク,同人,現代

あらすじ

渾身の一冊を描き上げ、魔王復活を阻止することに成功したナイトとヒメ。しかしその反動からか、ナイトはスランプに陥ってしまう。進まないネームにやきもきするヒメ。
そんなとき、ナイトは同じ大学に通うソラフネを愛する“文芸先輩"と出会う。プロの小説家でもある彼女に乞われ、彼女の小説同人誌にイラストを寄稿することに。
ところが“文芸先輩"は、滅びの未来でヒメと対立していた“魔女"であった。彼女の依頼を受けるなど到底認められないヒメ。
「実家に帰らせていただきます」
果たしてスランプを脱し、再び想いを滾らせることはできるのか――
同人誌に懸ける青春ファンタジー!

シリーズ: 貴サークルは"救世主"に配置されました

話としては本当に面白くて続きが気になってぐいぐい読んでた。
ヒメとナイトの関係性も、ナイトのスランプがどうなるかも、未来がわからないからこそ不安なヒメもどれもこれも気になって気づいたらこのページ数一気に読み切ってた。
だからこそ、小説本に関しては「小説本は売れない」しかろくに出てないのがものすごくもったいない。

ヒメとナイトの、ぶつかりつつも前に進んでいく関係性

ヒメとナイトの関係性はすっごいよかったー。

同ジャンルである先輩の協力をしたいナイトと、ループのなかで対立していた彼女とは協力したくないヒメ。
ヒメの理由もわかる。描写は少ないけれども先輩との関係性があまり良いものではなかったというのはすごくわかりやすいし、現在ナイトは絶賛スランプで新刊がいつできるのかすらわからない。こんな状態では魔王に世界を滅ぼされてしまうかもしれないし、何より先輩に協力して欲しくもない。

でも、ナイトがあれだけ燃え尽き症候群からのスランプに陥ってた原因の一端って正直ヒメじゃないかと思うんだよね。同人とか萌えって謎に湧き出てきたりするものなので、ああいう感じに「○日までに○枚!」「1日のノルマこれだけ!」って言われてバカスカやれるのって、稼ぐ方面に全力の人だとか、完全にそれを仕事としている人であって、萌を燃料にしている趣味人はまた違う気がする。前巻のナイトはできてたけど、あれはちょっとハイテンション気味になっていたというのもあるので。
なので、ヒメと離れたことが実はナイトにとってちょっと良い面もあったんじゃないのかなと感じてしまった。

ヒメが未来がわからなくなっている状況で「自分を信じろ!」といえるナイトがすごく格好良かったな。
今までのヒメって予言書に従っているわけで、それってある意味乙女ゲー異世界転生とおなじで、この先に発生するイベントがわかっていたのと同じ。それが自分たちが成し得た結果であろうとも、どこへ進むのかわからない状況となれば、迷いもする。
そんな彼女に自分を信じろといえるナイトは格好いいし、これから先ヒメの道標になるだろうなと感じられた。

先輩の同人誌の手伝いという再充填

ナイトが先輩の同人誌作りに協力し、表紙や挿絵を描くことで、自分のやりたいアヤオリの方向性を再確認するっていうの、わかるーー!!となった。

実際、自分が全力を尽くした同人誌を出した直後って、ちょっと燃え尽き症候群状態になるんだよな。自分がどんな話を書いてきたのかよくわからなくなるし、どういうものが書きたいのかわからなくなる。
そのタイミングで別カプである先輩の本への協力って、自分がどういう物を書きたいのか再確認するのに最適だと思う。

他人の本で自分が中身を描かないからこそ客観的に見られるし、別カプを見ることで改めて見えてくる自カプへの萌えもある。
他人が熱中する姿を見れば、自分も何か作りたいと思える(1冊出すのにあれだけ苦労したのにイベント行くとまた出したくなる理由のひとつは間違いなくこれ)。
他人の全力を込めた本の手伝いをしたからこそ、自分も全力を込めた本を出したいと思える。

そういった事柄が詰め込まれて、最後にスランプを脱してコピ本を作るに至るのがもうめっちゃ良かった。あーわかる、めっちゃ気持ちわかる……となった。

小説本に関する描写があまりにも雑

「今回の本って、何ページくらいを想定しているんですか」
「1ページあたり四〇字、十九行で250ページくらい」
     (中略)
「250ページで二〇〇部って……とんでもない額になりますよ」
 オンデマンド印刷でも軽く二十万円超えちゃってるよ。

超えねえよ。いや印刷所によっては超えるけど、オンデマなら印刷所選べば超えねえよ。

40字×19行ということは文庫サイズ。
あとの方の描写からしてカバーあり。ブロスさんならば、オンデマンドモノクロ表紙セット(早割なし通常入稿)遊び紙なし直接搬入で8万6100円。これにカバー代金巻加工で2万円弱、描写からして恐らくカバーにPP加工入っていても+6500円。合計で12万に満たない。
20万はいかねえよ。いや他の印刷所は知らんが……。もっと高いところを使えばもっと行くかもしれんが、即座に「いやいかねえよ!?」と叫んでしまった。いや行くところもあるだろうが。

「中身、見ても良いですか?」
 できなかった。男性の参加者に、声をかけられたのだ。
「あっ、はい。どうぞ」
 先輩は黙ったままぴくりとも動かないので、俺が返答する。痩身の男性はサンプル本を手に取り、最初の二、三ページをめくって、
「ありがとうございました」
 すぐに、元の場所に戻されてしまった。頭を下げる間もなく、男性はその場を去っていった。
 俺も、サンプルを見ただけで売れないことは幾度となく経験してきた。だけど、ここまで素早く本を置かれるのはなかなかお目にかかれない。
 Vitterでも、文字書きの人たちがよく嘆いている。表紙絵に釣られた人たちの多くが、中身が小説だと気づいた途端興味が失せるって。ネット上では大人気の神文字書きでも、そんな経験をしているというくらい。完全にソレじゃん、今の。どうやら先輩も例外ではなかったらしい。

40字×19行ということは文庫サイズ。
一般的に漫画と勘違いされるのってA5サイズ以上だと思うんだけど……。最近だと再録だとA5サイズも増えてきたので、表紙がA5でもいちおう手にとって見る人はいるかもしれない。でも文庫を漫画本と勘違いして手にとって戻す人、あんまり(ほとんど)いなくないか?

でも挿絵を見るとかなりデカくてA4かB5にも見えるんだよね。40字×19行でA4ないしはB5だったらたしかに戻すかもしれん。
表紙がイラストでA4ないしはB5だったから漫画だと思って手に取ったら超デカ文字ないしは超余白多い状態の40字×19行本、たしかに戻す。

文庫本ってよほどのことじゃなけりゃ漫画に使われないサイズなので、漫画と勘違いされるってほぼ全く無いんですよ。だから『漫画と勘違いされて戻す』という描写を入れるんだとしたら、事前に行数文字数を表記するべきじゃなかったと思う。

ほぼ全く売れなかった描写が入ってて思ったんだけど、先輩ってまともにSNSなどで宣伝活動していなかったのかな。

前の巻やこの巻の冒頭では、ヒメがことあるごとに「毎日3枚Vitterにアップ!」「今の時期は5枚!」などと、こまめに宣伝し、他人の目に止まることの大事さを示していた。更にはナイトに線や絵の練習をすることが大事だと何度も話していた。
先輩は商業作家なので文章力やストーリー力はかなりあるっぽいんだけれども、この宣伝部分をやっているっていうのが全然見受けられない。

「先輩って、休憩してるんですか?」
 俺もペンを走らせ、背中を向けたまま、ふと気になって訊ねてみる。すると、
「息抜きはしている」
 意外な答えが返ってきた。椅子を鳴らして振り返り、続けて訊く。
「いつですか?」
「今」
「今って、書いてるじゃないですか」
「うん。これは、別のルミセシの短編。他にも、出版社から頼まれた原稿を休憩がてら書いている。心配しなくても、本命は予定通り終わらせる」

短編書いてるので、宣伝に使える素材はなんぼでもあると思うんだよね。

 先輩の言うルミナとセシリアは、ライバル艦の整備士たちだ。メインキャラに比べると、登場回数も時間も台詞も少ない。もしかしたら、視聴者の中には名前も覚えていない人もいるかもしれない。
 しかし、要所要所で活躍を見せる姿はまさに縁の下の力持ちで、ソラフネクラスタからは人気を集めている。幼馴染みという隠し設定、二人の仲睦まじい様子から、カップリングとしての人気も結構高い。

しかもドマイナーカプというわけじゃなく、そこそこ人気もあるカップリング。
だったらpixiv的なSNSで短編をアップすれば、先輩の筆力ならばブクマもついて目に止まってイベントではちゃんと人が来るんじゃないだろうか。Vitterで文庫メーカーで画像付きで短編をあげればもっと人が来るんじゃないだろうか。

先輩は最初に作った同人誌も分厚いコピ本というぐらいの同人初心者ではあるが、前回の一件で宣伝の大事さを覚えたナイトが印刷所ともども教えるべきだし、なんならヒメが復活した時点でやらないのはもはやおかしい。
全然売れない→売れた!という成功物語をしたいがために先輩の本にまともに人気が出るための事前の宣伝→最初のイベントという流れはできないのはわかるんだけれども、だとしても終盤のイベント前にもSNSでの宣伝しないのは不自然にすら思えた。

作中で何度も何度も書かれている通り、小説はまあ実際あまり売れない。漫画と比べたら多分売れないんだと思う、漫画本売ったことないからしらんけど。一般的にそう言われてるってだけだけど。
でも、短編を何本もあげて、どういう話を書く人なのか知ってもらって、どういう解釈か伝えた上で、どういう話なのかわかるサンプルをあげて同人誌を頒布すれば、そこそこの人気があるカップリングなら頒布数0ってかなり少ないと思う。
なんの宣伝もしないで、他カプの描き手である主人公の表紙だけで人目を引いて、200部頒布しようなんて、いろんなもん舐めてんじゃないのかなと思えた。

小説本ってたしかに漫画より売れないかもしれないけど、そこまで誰にも手に取ってもらえないわけじじゃねえからな? そこまで戻されるわけじゃねえからな!?

で、このなんで前回宣伝を大事と知っているナイトもヒメもその点を指摘しないんだというのを考えると、物語として『小説同人誌は売れない』というのをただ全面に出して、それで話を転がしたいからなんだろうなって思った。
漫画ではなく小説本をメインに据えるからには小説本ならではの話がしたい。そう思って持ってきたネタが『小説同人誌は売れない!』だったんだろうな。
もしくは、ものすごーく作者に甘い考えで行くと、前の巻と被らないシーンを描こうとしたか。描写の練習をするだの宣伝をするだのすると前の巻のナイトと被ってしまう。だからこそ練習しなくても良いようにめっちゃ筆力ある商業小説家をメインに据えた。いや、だとしても前回の巻の積み重ねと考えるとやっぱり宣伝しないの不自然過ぎる。でも宣伝したら速攻で売れちゃうので、ナイトが表紙絵描いたその即売会でそく完売しちゃうから話が成り立たないんだよな……。
やっぱり『小説同人誌は売れない』で話を作ろうとしたのが最大の問題だったよ。

繰り返し言うけれども、話自体はものすごく面白かった。
イベント会場に到着してダン箱が積み重なっているのを見たときのあの感覚、サークル主である先輩にダンボールを開けさせ同人誌を最初に手に取らせようとするナイト、ヒメとこの先どうなってしまうのかという続きが気になる感覚。
だからこそ、小説本に関しては『小説本は売れない』だけで終始して、それだけで話を回そうとしているのが本当に勿体なかった。

前の巻では宣伝の大事さや基礎的な画力の大事さなどを描いていたからこそギリギリファンタジーにならずに済んでいたのが、今度はプラスじゃなくてマイナス方面のファンタジーになっていたなと思う巻だった。すごく残念。

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