「漫画家先生とメシスタント」出てくる料理は美味しそうだし出てくる人も魅力的で超面白かった
あらすじ
人気少女漫画家は男性の二人組!? 彼らの“メシスタント”はじめました。
大泉学園駅にあるアパート「ヒット荘」。大家の娘のときわは、店子の鈴木さんが空腹で倒れているのを見つける。冷やし中華を作ってあげたことがきっかけで、鈴木さんが人気少女漫画家の作画担当と知ることに!?
主人公・ときわが作る料理がめっちゃ美味しそう
陸上部で髪も短くどこからどう見ても体育会系! という雰囲気のときわが、実際は少女漫画を愛していて自宅に帰れば丁寧に料理をする家庭的で可愛い女子高生というギャップが可愛かった。
出てくる料理がいちいち美味しそうなんだよ。
「キノコのバター味噌もあるぞ」
「えっ、ほんと」
ときわの好物だ。えのきやしいたけを味噌とバターと共にホイル焼きにしたもの。ホイルを箸で開けば、香ばしい味噌とバターの香りがふわっとたちのぼる。むちむちの肉厚なしいたけ、しゃきっとくせがなく食べやすいえのきは、ビタミンB群や食物繊維豊富で栄養たっぷり。なおかつ低カロリーでうれしいおかずだ
これ、サラッと出てきたけど美味しそうすぎて今度作ろうと思った。レシピがめっちゃ簡単そうなのに絶対美味しいじゃん。
ときわが母親いなくて父と交代で家事をしていたという理由が出てくる。それもあって料理をしなれたときわによる、家庭的でうまそうな料理がめちゃくちゃ並ぶ。細かく調理法を書いてあるわけでもないのにこれ絶対美味しいわという描写が続き、読んでてめっちゃおなかがすいた。
私も里芋好きだから、里芋を豚肉で巻いたの食べたいな。絶対美味しいわ……。
ときわの『漫画を描いている桂太が片手で食べられるように』という細やかな気遣いで作られる片手で一口で食べられ汁物少なめ料理たち、どれも読んでて本当に魅力的だった。
もちろん料理だけじゃなくときわの初恋も淡くも可愛らしくて読んでてわくわくしたし、漫画家vsこちらの話を聞いてくれない担当者、漫画アプリ連載組と本誌連載組の違い、若い子はソシャゲなんかに時間取られて漫画雑誌そんなに読んでないよね……という話題など、漫画というのに絡めて出てくる題材がどれも興味深くて面白かった。
凸凹コンビ桂太とレオの魅力
ときわは作られる料理の描写や細々としたシーンから気遣いできて自己主張は激しくないけれどもいい子なんだなってのがひしひしと伝わってきてすごく良かった。
そのときわと絡む漫画家コンビの作画・桂太とストーリー・レオのコンビもすっごく良かった。
社会人系漫画家というより時折にじむ発言から社畜もしくはブラック経験の香りがする桂太と、金髪でチャラくてなにか仕事してんのかすらわからないレオ。キャラが出てきたときはてっきりレオがチャラくて常識外れで桂太がそれを諫める常識人なのかなーと思ってたんだけど、いい方向に裏切られた。
レオも外見はチャラいし発言もチャラいところが多いんだけれども、実際喋ってみたらかなり常識人じみたのが出てきたり、桂太も社会人を経験しているからこその発言が出てきたり、大人たちが全員大人として描かれていて面白かった。
「マリゾウ。大人はね、酒飲んでハッピーになる生き物なんだよ。電車の中でも、わざわざそんなところで飲まなくてもいいのにチューハイ持ってるおじさんいるだろう。そういう人は、もう飲まないと電車も乗れないおじさんなんだよ。一杯ひっかけてハッピー気分じゃないと、肩ぶつかっただけで喧嘩おっぱじめちゃうからね」
「ヤバイおじさんじゃないですか」
「マリゾウには理解できないかもしれないけど、ネーム提出ぎりぎりのときにかぎってなんか無性に酒飲みたくなっちゃうもんなのよ、大人は。そうやって日常的に酒を入れているうちに、なんだか一日の終わりには晩酌しないといけないような雰囲気になっちゃうわけ。酒飲まないとアイディアが出ない、と思うようにすらなる。酒は大人のガソリンだよ」
このへんのレオの発言は素直に最悪だー!!悪い大人だーー!!となるのに、ときわが桂太へ淡い恋心をいだいているのに気付いたときに
「完全にバカにしてますよね!? だいたい、ちょっと大きくなったって歳の差なんて縮まらないっていうか──」
「マリゾウ。まともな大人の男っていうのはね、十代の女の子はみんな同じに見えるもんなのよ。十歳でも十九歳でも変わらんわけよ」
大きく変わると思うが。かたやランドセル、かたや選挙権を持つ立場だ。 「だからマリゾウのことも、ケツの青いガキならぬ、ランドセル背負った背中の赤いガキに見えてるわけよ」
「は、はあ」
「ところがマリゾウが二十歳、二十五歳、三十歳となっていくうちにね。どんどんすてきな女性に見えるもんなのよ、これが。きみは今や可能性しかない存在なのだ、だからまあ元気だせや。な。そのころ桂太もオッサンで、ハゲ散らかしてるかもしんないけど」
こういう発言もさらっと出てくる。
価値観や感覚がめちゃくちゃ令和
このまともな大人の男からしたら10代女子はみんな同じようなものっていうの、大人になったらわかる気がする。そしてレオがときわの恋心を完全否定するんじゃなくて『将来になったらもしかしたらなにかあるかも』と彼女の成人後のチャンスを匂わせてるのも。
例えばこれ、野いちごジュニア文庫やビーズログ文庫アリスだったら方向性違ったのかもと思った。あのあたりは同年代相手が多いけれど、もし年上の憧れている男の人に片思いしている主人公だったら、相手がもうちょっと振り向いてくれる可能性がある。なんならこういうアドバイスしてくる男が横恋慕している可能性だってある。
でもそうじゃないんだよ。レオはさり気なくやめといたほうがいいよ将来どうにかしなと言ってくれるし、無自覚でときわを揺らがせる発言をしてくるときもある桂太はそれでも将来一緒にお酒を飲みたいという未来についての話をする。
そういう『大人』は大人の行動をして『子供』をそういう目で見てないの、なんというかめっちゃ大人だなー……と思った。
これだけじゃなく、SNSで桂太とレオの漫画の現パロ二次創作絵や当て馬とヒロインのカプ絵をあげて話題性を集めている漫画家について編集者が持ってきたときに、俺らがそうしないで大御所作家に同じことしたら困るからでしょ?ここで俺たちがやることで傷が浅くなるからね?というあたりもすごく物事考えてるキャラたちだなっていうのを感じた。
アニメ化や実写化などのメディアミックスは、作品を長寿化させるために必要。お金になるのも大事だけれども、人気を得ることで作品が長生きすることが出来る。このあたりもすごくたしかになーと思ったし、そういう部分の価値観や感覚が読んでいてすげー面白かった。
最終感想
アパートに新規住人が追加されたしまだ1部屋余ってるからまだまだ物語は続くぞー! という状況でまさかの続刊無しでずっこけた。