
あらすじ
「私は、この現実に物語を持ち込みたいの」
この文章を読んでいるということは、貴方は「読者」ということね。
はじめまして、私はメインヒロイン・高嶺千尋。この物語は私が主人公である手塚公人くんを超文芸部にスカウトするところからスタートするの。
活動の目的は――この世界を物語みたいに楽しいものにするため。
超高性能な電子生命体のミカコに、庶民的お嬢様の薔薇園先輩、中二病のイケメンのシドくん。
登場人物もすばらしい逸材を揃えたわ。
あとはこの物語が他でもない手塚くんの視点で描写されるだけ。
そうしてはじめてこの「ライトノベル」が完成するはず。
そう、これはメタフィクションでなによりラブコメのライトノベル。
いやーーー面白かったし気持ちよかった。
あらすじにしっかりと明記されているとおりメタフィクションでラブコメのライトノベル。書かれたジャンルをしっかりと回収して行くさまは気持ちよかった。
ただ、ストーリーにおけるギミックありきの物語でキャラクター自体はちょい弱かったかも。どっちかっていうと普段キャラクターについてばっかり語る私だけど今回は物語のギミックばっか語りたくなっちゃったって意味でも。
謎部活ヅラして始めておいて、二転三転ひっくり返る
主人公・手塚は、ある日同じ学年の美少女・高嶺から、自分がメインヒロインの物語を手塚の視点から綴ってほしいと頼まれる。超文芸部というめちゃくちゃな部活では他に3人の部員がおり、面白おかしく日々を過ごす――という、一昔前の部活ものみたいな展開から始まる物語。
主人公は主人公でも、シャーロック・ホームズにおけるジョン・ワトソンのような視点の主、メインであるキャラクターをより良く描写するための狂言回しを与えられる主人公・手塚が、本人の自認がダンゴムシなのも含めて面白い。ああ、そういう立ち位置の、ってすぐさまわかる。
しかし、こういう謎部活といいやれやれ系巻き込まれ主人公と言い、全体的に令和の涼宮ハルヒっぽさを感じられる構造から始まるのが、ちょっとした懐かしさも感じられて面白かった。
以前手塚が書いた小説の題材をもとに、旧校舎で肝試しをすることとなる超文芸部の面々。そこで動く骸骨に遭遇。そして他の3人の仲間たちが超人的な能力を持っているという内容、あ、あるあるある~~~!!! わかる!! 涼宮ハルヒ的な!! と、このあたりで面白くなっちゃった。
でもここから謎部活ものというのとは完全に切り離されていく。
手塚の前に落ちている1冊の本、その本に書かれている今までの日常。こちらに語りかけてくる三人称視点の地の文。勝手に書かれる自分が発言した台詞。そうして物語が三人称から一人称に切り替わる。
このあたりでようやくこの小説ってメタフィクションなんだって理解したかも。そこから物語の雰囲気が変わり、怒涛の流れになっていくのがもうめっちゃ面白かった。
小説ならではと、小説だからこそが入り交じる
この話って、物語構造をハックした上で利用していく、ある意味アンチものなんだよね。このアンチとはアンチミステリと同じ意味合いのアンチ。型を理解した上でそれをひっくり返し、利用し、読者の意表を突く。だからこそメタフィクションなんだけど。
最初は三人称で始まった物語は、途中で主人公・手塚の一人称に引き継がれる。そこから一人称の利点とこういうことが出来ますよというのを散々提示した上で、いっとき三人称へと戻り、そうして一人称へまた移行し、三人称へと戻される。
物語における一人称と三人称の使い方・使われ方・見せられるものの違いを散々に利用した展開が面白かった。
というか、ずるいでしょ!!
基本的に物語は、視点の主が描いたことしか読者には伝わらない。だからこそ手塚が自分の一人称であることを利用して、本来ならば彼の身体能力じゃ無理な内容もとにかく脳内で描写して書き連ねることでそれを””””事実””””にしてしまう。この物語は手塚の一人称で進んでいくからこそ、それが実際の結果となって存在することとなる。
さすがに無茶苦茶な物語ハックすぎて笑ってしまった。穴をつくな穴を。
終盤、手塚によって引き起こされる数多の物語ハックが面白すぎるし、その面白さを下支えしてるのって、すでに存在してる物語の型なんだよなぁ。マクガフィンといい、普段は意識せず読んでいる物語の型を、片っ端からルールとして逆に利用してくる物語のキャラクター、面白すぎる。めちゃくちゃなんだよ。最高。
いきなりこれが出てきたら「こんなん許せるか!!」になりかねないけれども、すでに今まで出てきたメタの描写的に「こうなるわ……」になる。そのラインを突かれるのがすごく気持ち良い。
私はこういうすでに存在する物語の型を利用して面白くひっくり返してくる物語っていうのがすごく好きなんだよね。こうなるだろっていうテンプレがあるからこそ、それがひっくり返されるのが気持ち良い。なろうのテンプレ外しみたいな。そればっかりが増えてくるとだんだんまた食傷気味になるんだけど、こういうのが不意打ちに来たときの面白さはたまらない。
ここまでメタフィクションというネタ1点でぶち抜いてくるのって今まであんまり経験したことがないから面白かった。
ただ、一応ジャンルがラブコメも入っている以上、ラブコメもうちょい頑張ってくれ!とは思わないこともなかったかも。ヒロインである高嶺が、ギミックとしては面白いんだけれどもキャラクターとしてはそこまで愛せなかった。可愛いよね、ぐらいの感情しか起きなかったんだよなあ……。
