烏に単は似合わない 八咫烏シリーズ 1 (文春文庫) 阿部 智里
あらすじ
松本清張賞を最年少で受賞、そのスケール感と異世界を綿密に組み上げる想像力で選考委員を驚かせた期待のデビュー作は、壮大な時代設定に支えられた時代ファンタジー!
人間の代わりに「八咫烏」の一族が支配する世界「山内」では、世継ぎである若宮の后選びが今まさに始まろうとしていた。
朝廷での権力争いに激しくしのぎを削る四家の大貴族から差し遣わされた四人の姫君。
春夏秋冬を司るかのようにそれぞれの魅力を誇る四人は、世継ぎの座を巡る陰謀から若君への恋心まで様々な思惑を胸に后の座を競い合うが、肝心の若宮が一向に現れないまま、次々と事件が起こる。
侍女の失踪、謎の手紙、後宮への侵入者……。
峻嶮な岩山に贅を尽くして建てられた館、馬ならぬ大烏に曳かれて車は空を飛び、四季折々の花鳥風月よりなお美しい衣裳をまとう。
そんな美しく華やかな宮廷生活の水面下で若宮の来訪を妨害し、后選びの行方を不穏なものにしようと企んでいるのは果たして四人の姫君のうち誰なのか? 若宮に選ばれるのはいったい誰なのか? あふれだすイマジネーションと意外な結末――驚嘆必至の大型新人登場!
- 読み終えてから「嘘だろ!?」と言いたい人
- ファンタジーが読みたい人
- 後宮の女同士バトルが読みたい人
壮大なるファンタジーの幕開け
後宮バトルというジャンルがある、と個人的に勝手に思ってる。
後宮という狭い場所で、王の訪れを待ち、女同士でさりげないバトルを繰り広げる。外の世界で起きる戦争などとは方向性の違うバトルだが、それもまたバトルだ。
この物語は、東西南北それぞれの大貴族から遣わされた姫君四人のなかから、次代の王である若宮の后が誰になるかを争う後宮バトルである、――と思わされた。
ウッソだろこれ。完全に方向違いじゃねえか。
読み終わってから完全に唖然としたし、面白かった。嘘だろと思いつつ、なんだこれおもしれえ!!!と手を叩いた。
物語は、姫である『あせび』が後宮に入ったことから始まる。
この世界の人間たちは、みな烏の姿をとれる八咫烏だ。しかし貴族たちは皆烏の姿を取るのを民草のやることだと忌み嫌っている。
後宮の生活に慣れないあせびは、きらびやかで華やかな後宮の暮らしに驚きつつ、次代の王である若宮の訪れを待ったり、他の姫と交流をしたりとする。
そんな中、発生する侍女の失踪や謎の手紙、そして侵入者。
あせびはどことなく怯えつつ、若宮の訪れを待つ。
前半と後半の違い、そしてどんでん返し
後宮の中で起きた事件は、最後に若宮が登場し、快刀乱麻の如く鮮やかに解決していく。
途中の解決ではいささか不十分では?と思っていた箇所
自らが犯人だと言っていた浜綿木であるが、実際は真赭の簿を庇うためだった。正しくは、手紙を今まで隠していた真赭の簿側についている藤波(真赭の簿の血筋のもの)をかばっていた。
もすべて解決していく。
この鮮やかさが、今までの解決編などまだ序章に過ぎないと教えてくれる。
未解決と思われていた、このまま物語として放置するのではと思われれいた箇所を丁寧に解いていく。
なぜ浜綿木がこんなことをしたのか、彼女を若宮の妻にさせたかったのかのあたりは読んでいてなるほどとなった。そういう考え方をしてみれば、なるほどその位置に立てる人は一人しかない。
からの、最後の犯人。
これらを起こしたのはすべてあせびだった。
一つとして直接手を下したわけではないものの、こうなるように誘導した。
他人の意思と優しさにつけ込んでの行動なので、あせびを罪に問うことはほぼ不可能。しかし人死含めた事件が起きたのはあせびのせいだ。
つまり、読者側が今まで主人公と思っていたあせびは、『信頼できない語り手』であり、いくつもの事件の黒幕である。
という流れに心底ぞっとした。
お前かよーーーーーーーーーーーー!?!?!?!?!
最後の最後まで読んで本当にぞっとしたし、お前かよ……としか言えなくなった。
この最後のどんでん返しまで含めて、本当に面白かった。